ダカン、その名にかけて
終章です。
昨日はご迷惑をおかけしました。
現在の「ソフィー、最高のバースデー」が完成版です。
今後もよろしくお願いします。
トルク
ヒルダを我が家に迎え入れたあの日ー
私は自分の不甲斐なさに鬱ぎそうになった。
あのような幼子が酷い目に合う。
国政では孤児の保護は優先度の高いものだ。
実際、手厚いと言えるだろう。
しかしだ。
保護されない子供たちはどうしているのか?
ヒルダの様に心ない大人たちに虐げられているのではないか?
私は自分の施政に盲目となっていたのではないだろうか。
結果だけを見、それまでの過程は気にもしなかった。
猛省すべきである。
ならば。
思い立ったが吉日。
そう思い、私は領内の視察に向かった。
私は冒険者の身なりで民衆に紛れる。
供は連れていない。
民の真実の暮らしを見るために。
思えば私が冒険者をやっていた頃。
人族の孤児はよく見かけた。
親が病や事故、仕事で亡くなった子供たちだった。
捨て子などいなかった。
では獣人やエルフ、ダークエルフの子供たちは?
孤児院で見かける事もあったな。
しかし数は少なかった様な気がする。
私はまだまだ知らない事があるのやもしれない。
-冒険者ギルドー
カルナザルの冒険者ギルドはなかなかに盛況だ。
東西に広がる森にはモンスターも多い。
故にモンスター絡みの仕事は溢れている。
例えばモンスターから取れる素材。
牙や角、爪や皮。
そして魔石だ。
牙などは武具の素材に、魔石は精霊魔法の触媒となる。
強いモンスターほど素材は高価で取引される。
‥‥いた。
獣人の子供だ。
背格好はアウラやヒルダと変わらない。
幼い。あまりにも。
子供はどうやら冒険者たちから仕事をもらい、その日を暮らしているらしい。
だが何故?
衛兵たちは何をしているのだ。
私は子供に話しかけてみる。
「小さいのに精が出るな。」
「‥‥しごと?」
「いや、違う。お前の親はどこだ?」
「いないよ。ぼくひとり。」
やはりか。
「ふむ。孤児院には行かないのか?あそこなら飯も腹いっぱい食えるらしいぞ?」
「いかない。」
「何故?」
しばらく黙って子供は話す。
「あそこはひとぞくばかり。なかま、いない。」
そうか‥‥
いま気づいた。
私たちは意識せずに選民意識を持っているのだ。
だから街の者も心ない行為を罪悪感なく行える。
そして彼らもまたそんな蔑まれた環境で暮らしたくないのだろう。
ならば!
私はやるべき事を見つけた気がした。
騎士団には獣人もいる。
ダークエルフもだ。
エルフは‥‥アウラがいる。
彼らが虐げられず、仲間たちと平穏に健やかに暮らせる環境を作ろう。
獣人には獣人の。
ダークエルフにはダークエルフの。
エルフにはエルフの。
それぞれ種族ごとに孤児院を作ろうではないか。
職員もそれに合わせて雇用しよう。
ただ、はぐれは同種族でも差別される。
ここも慎重に進めなければならないな。
私はこれからの生涯、かの子供たちが笑って暮らせる施政を取る事を誓おう。
アウラやヒルダの様にいつかこの子供にも笑ってほしい。
そう願い私は帰路につく。
これからやる事は沢山ある。
家族の協力も必要となろう。
マリア、ソフィーリア、エリザベート。
そしてアウラとヒルダ。
彼女たちはきっと力になってくれる。
今はただ漠然とそう思える。
私は変えたい。この世界の無意識な残酷を排除したい。
やる。
私はやるぞ。
ダカン・フォン・ギュスターヴの名にかけて。
このあと数話ほど閑話を挟み次章へ移ります。




