長男、地雷を踏む
「くそっ!一体なんなんだ、アレは!!」
粗相をしてしまったカイルは家族に会うよりも先に自室へ入っていた。
着替えるために。
(アレがエリザベートの師匠だと?見た目に騙された。相当の使い手だぞ、アレは!)
カイルは焦っていた。
この休暇の間、エリザベートをネチネチと攻めてその苦悶に染まる顔を眺める事を楽しみにしていたのに、と。
(アレが傍にいてはボクの楽しみが台無しじゃないか。うかつに手を出せないぞ。どうする‥‥)
カイルは思案する。
(そうだ!さっきの出来事に尾ひれをつけて父上に吹聴すれば追い出せる!)
カイルはバカであった。
普段表には出さないが、ダカンはアウラを実の娘として溺愛している。
よくアウラを肩車して城内の視察を行うのだが騎士や兵士たちはこの時ほど緊張することは無かったと後に言う。
デレデレとだらしない顔をした領主にどう接すればいいか戸惑うばかりであったからだ。
今ではみな慣れてしまい、和やかな視察を大歓迎しているが。
「そうと決まれば父上に会いにいくか。ふふ。すぐに追い出してやるぞ!」
新しいズボンに履き替えたカイルは颯爽と部屋を後にした。
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家族の間ー
城内にはギュスターヴ家一同がそう呼ぶ小さなホールがある。
午後になるとみな何気に足が向き、気づけば夕食まで団欒するのが当たり前になっていた。
アウラが城に来てから。
それまでは今のような使われ方はしていなかった。
家族の間と呼び出したのはほんの最近、ダカンが名づけた。
「どうやら到着したようだ。」
「あらあらまあまあ。」
「あうぅ。」
「大丈夫よ、エリー。それにほら、アーちゃんがお菓子を作って来るって言ってたじゃない?」
ソフィーリアはエリザベートの手を握りながら優しく語りかける。
エリザベートの手が僅かに震えているのを止めるかのように優しく、手を握った。
コンコンー
ドアがノックされ、ひとりの男が入ってきた。
カイルである。
「父上、只今戻りました。執務室にいらっしゃらないのでさがしましたよ。」
「あ、ああ。よく戻った。ゆっくりして行くといい。」
ダカンは危惧する。
ここでもし、カイルがエリザベートを害しそこにアウラが鉢合わせたら、と。
恐らく最悪の事態を招くであろう。
「母上、姉上。ご無沙汰しております。2人ともお変わりないようで何よりです。」
「あらあら。」
「ふん。別に戻って来なくてもよかったのよ?」
「冷たいなぁ、姉上は。」
「あなたの事、許してませんから。」
「はて?ボク何かしましたっけ。うーん、思い付かないな。」
「あなたって人は‥‥」
「おや?そこにいるのはエリザベートじゃないか。ゴメンゴメン、気づかなかったよ。」
「‥‥」
「あれれ?久しぶりの兄に挨拶もないのかい?これだから残念騎士は‥‥」
「カイル!」
ダカンの一喝。
カイルは楽しみは後にとばかりにエリザベートから視線を切った。
「そう言えば父上。城内にはぐれエルフが居ましたが何なんです?聞けば残念騎士の師匠だとか。」
ダカンの片目がうっすら開く。
「そうか。会ったか。かの者はエリザベートの師、マスター・アウラだ。」
「そのマスター・アウラですが。」
「何かあったか?」
ダカンの両目が開かれた!
「っ!さ、先ほどボクに無礼を働きましてね。捕らえようとしたら悪態をついて逃げていきましたが。父上、あのような者を‥‥」
ビシィッ!!
カイルの足元の絨毯が爆ぜた。
「おい、愚弟。てめぇアーちゃんに何しやがった、ああ?」
カイルは声のする方へ顔を向ける。
ギギギと音が聞こえそうなくらいのぎこちなさで。
そこには先ほどまで優雅に佇んでいた姉が居た筈。
しかしそこには‥‥夜叉が居た!
ヒュンヒュンと風切り音を立てて鞭を振るう夜叉が。
鞭の先端は時折音速を超えてパンッ!と小気味よい音をさせる。
「もう勘弁ならねぇ。エリーだけじゃなくアーちゃんにまでちょっかい出しやがって!」
ビシィッ!
再び絨毯が爆ぜる。
「てめぇ、きっちり型ぁハメてやんよ!」
窓辺の麗人ー
ソフィーリアは夜叉となった。
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次回更新は4月11日になります。




