長男、帰省する
どうしても残念騎士、エリーについて掘り下げたいと思いまして少し重めの回になってしまいました。
安心してください。
次回はきっといつものペースに戻る筈?です。(≧∇≦)b
それはカルナザルに短い夏がやってきた頃のこと。
「みんな、聞いてくれ。カイルから手紙がきた。帰省するとのことだ。」
ダカン父さま、カイルって誰?
「ふぅん。夏休みだから?」
ソフィー姉さま、カイルって誰?
「あらあらまあまあ。」
マリア母さま、カイルって誰?
「‥‥」
「だから!カイルって誰なんですか!」
思わず叫んじゃいました。
けど‥‥エリー?
「エリー、どうしたの?お腹痛いの?」
いつも元気なエリーが俯いて唇を噛んでいます。
「あのねアーちゃん、カイルは私の兄上なの。」
「私の弟でもあるわね、要らないけど。」
エリーとソフィー姉さまの態度がちょっと変?
「おほん、まああれだ。帰ってくると言うのなら家族として迎えてやらねばなるまい。」
「でもお父さま、カイルはエリーを‥‥」
「姉上!アーちゃんの前です‥‥」
そう言ってまたエリーは俯きます。
「私の予想だとそのカイルさんはエリーが残念騎士だからと何かにつけて嫌みとかイジワルとか言ったりしたりする人でしょうか?」
私の言葉にエリーがビクッと反応します。
「うーん、実はねアーちゃん。残念騎士の名付け親はカイルなのよ。」
ソフィー姉さまはエリーの背中をさすりながら教えてくれました。
「でもみなさん、エリーはもう残念騎士さんじゃありませんよ?そこら辺の有象無象に後れは取らないレベルですけど‥‥」
「そうなんだけどね、エリーはトラウマになってるみたいで‥‥」
ほほう?私のエリーを知らない所でいじめていたと?
「‥‥ぶっ飛ばしていいですか?」
「落ち着け、アウラ。」
くぅ。ダカン父さまに諫められました。
「あらあらまあまあ。それでいつ頃こちらに?」
「ふむ、手紙には‥‥今日だな。」
「今日?」
‥‥‥‥‥‥
「「「えええええええええええええ!?」」」
********
「久しぶりのカルナザル、実に懐かしい!」
その男は豪華な二頭立ての馬車の中からそう叫んだ。
男の名はカイル・フォン・ギュスターヴ。
エリザベートの兄でありソフィーリアの弟である。
ギュスターヴ家嫡男としていずれ辺境伯を世襲ではあるが引き継ぐ者となる。
学を積むため、王都へ留学の身であった。
齢は16とエリザベートのひとつ上。
母譲りの栗毛に父親譲りの碧眼を持つなかなかの色男である。
幼き頃より父ダカンに鍛えられ、剣の腕前はカルナザル近衛騎士に肩を並べるほど。
それ故他者、特に弱者を見下す悪癖の持ち主でもあった。
ひとつ年下のエリザベートが一生懸命に鍛錬する姿をいつも上から目線で嘲笑し父や姉に叱責されるも反省をしたことは一度もないという。
たまにエリザベートの打ち込みの相手を買って出ては痛めつけるということも多々あった。
そしてエリザベートの元服の日ー
パーティーの最中、こともあろうに壇上でこう宣ったのだ。
「みなさん、今日は妹の14の誕生日です。晴れて妹は大人の仲間入りを果たしたわけですが‥‥ふふふ。実力も備わらないのに歳経ただけで成人とはね。」
ざわざわとする会場ー
「みなさん!今日は姫騎士の誕生をご覧になりたかったですか?残念でした。今日誕生したのは『残念騎士』です!!」
カイルの取り巻きたちがやんやと騒ぎ立てる。
ざわざわとする中にクスクスと笑い声も聞こえる。
カイルは直ぐさま壇上から引きずり下ろされ、ダカンの鉄拳に打たれ気を失った。
取り巻きたちも蜘蛛の子を散らすように会場を後にしたという。
エリザベートの元服は最悪のトラウマとなってその心に深く刻まれたのであった。
しばらく城の牢に入れられたが全く反省の色は見せず、エリザベートに対する謝罪もないまま王都留学のために釈放されたという。
この事件から1年ー
歪な妹への愛か。はたまたただのサディスト故か。
カイル・フォン・ギュスターヴはカルナザルへと帰還した。
「さて、1年ぶりの我が家だ。ふふふ。愛しの残念騎士はどうしているかな?」
カイルは端整な顔立ちには似合わない、なんともいやらしい笑みを浮かべ、馬車を城へ向けるのであった。




