プロローグ
このちびっ子エルフの名はアウラ。
齢20、人の年齢に換算すれば5歳児の女児である。
しかし彼女はエルフとして重大なハンデを背負って生まれてきた。
精霊魔法が使えないのだ。
エルフは精霊と絆を持ち精霊魔法を行使する。
だがアウラと絆を結ぶ精霊はいなかった。
彼女が使える魔法は基礎魔法‥‥所謂生活魔法のみ。
故に里ではアウラは落ちこぼれの烙印を押され、父母兄弟姉妹にも厄介者とされていた。
嘲笑と侮蔑をもって「はぐれエルフ」などと兪やされている。
しかしアウラは堪えない。
天性の楽観論者だろうか。
否。
アウラは誰にも言えない秘密を持っている。
前世の記憶。
高度な科学技術が発展した世界の記憶。
アウラが齢10の時、記憶は突然甦った。
当然アウラは混乱したが直ぐに冷静になれた。
精霊魔法が使えない事が判った直後の事である。
精霊魔法が使えなくてもこの知識があれば里の役にたてる、そう彼女は考えた。
アウラは簡単な化学反応実験を家族の前で行った。
火の付いた蝋燭を陶器の器で覆う。
暫くして器を取ると火は消えていた。
アウラは家族にその原理を説く。
しかし誰も理解出来ずそれどころか冷笑さえされた。
「そんなことに何の意味がある?」
精霊魔法使いにとってみればそうであろう。
火は火の精霊によりもたらされるもの。
これが一般常識であった。
アウラは早々に科学技術の普及を諦めた。
ならば自分の為に工夫をしようと。
それから10年。
アウラは密かに己の持つ唯一の力、基礎魔法を改良していく。
それは科学技術と基礎魔法の融合。
精霊魔法でも成し得ない事象を発現させるまでに至るがその力は精霊魔法に遠く及ばない。
それでも彼女は日々研鑽を怠らなかった。
今日も周りからは蔑む視線や嘲笑がアウラを刺す。
しかし彼女は朗らかであった。
何故かって?
彼女曰く。
「せいかつまほーもつかいよーなのれすよ!」