悪役令嬢に捧げるパヴァーヌ
タイトルの”パヴァーヌ”は響きがいいので何となく付けただけです。OK?
そして、名前がないとわかりにくいとの指摘があったので、名前を付けました。
王子の恋人を害したという理由で、一人の令嬢が婚約を破棄され、国外追放となった。
大貴族の婚約者より身分の低い恋人を選んだ王子のこの話は民衆に美談として受け入れられたのだった。
そして、国中が喜びに包まれる中、行われる結婚式。
朝から晴天で、神の祝福も受けた結婚式になる、と人々が囁き合うほどだった。
花嫁ダナの目も眩まんばかりの衣装を見た女たちは溜め息を吐き、幸せを纏ったその姿に男たちは同じく溜め息を吐く。
本来なら大貴族の令嬢と行われることだったなど、誰の頭にもない。
夢のようなお話の、夢のような結末は悪夢となる。
城内の大聖堂で花嫁が王子の次に誓いの言葉を述べ終えた瞬間、彼女は朱に染まった。
「ダナーー!!」
花嫁の名を叫ぶ王子。
状況を把握した女性の悲鳴がようやくここで上がる。
「我からの結婚祝はお気に召したかな?」
王子の慟哭を嘲笑うかのような声に阿鼻叫喚は鎮まる。
声の主はいつの間にか祭壇の上に浮かんでいた人物。宙に浮かんでいるだけでなく、その赤い目が人でないことを如実に語っている。
「何故、こんなことを?! ダナは何もしていないのに!!」
花嫁を抱きとめていた王子は詰問する。
「王子の婚約者として我の供物があった筈だが、供物を捧げる前に花嫁にするとはどういう了見だ? 我に手垢まみれの物を寄越すつもりだったのか?」
ニヤニヤと底意地の悪い笑みを浮かべ、赤い目の男は言う。
「・・・」
王子は男を睨みつける。
アリスは悪魔への供物だった。
どんなに愛していても、彼女はそのことを口にして押し留めようとした。
しかし、愛していた。
愛する彼女と一緒にいると、悪魔など怖くはなかった。
愛すれば愛するほど供物であることが厭わしく、アリスのためなら何でもできる気がした。
取り戻しがきかなくなって初めて怖くなった。
誰もが望む美しく優しいアリス。悪魔への供物とされた少女。
守りべきアリスを守らず、悪魔への対処もわからず、ダナに逃げた弱い自分。
自分への怒り、そして供物だったアリスを監視していた悪魔に対する怒り、しでかしたことから逃げた自分を受け入れてくれたダナを奪った怒り。
王は発言しない。彼はこの件に関して、息子に一任していた。
勝手に令嬢と婚約を破棄し、国外追放した時から息子の責任となったからだ。
供物として誰を捧げるにしても、いつ捧げるにしても、息子のやることであって自分がすることではなかった。
かつて婚約者だった令嬢アリスは王が供物にすることを決め、王子の妃となる令嬢にちょっかいを掛ける馬鹿はいないと考えて息子と婚約させ、供物にする歳になるまで待っていたのだから。
「供物?!」
「大悪魔への供物か!」
参列者が意を解して口々に言う。
多かれ少なかれ、大悪魔に供物を捧げることはどの国でもしている。
不定期的に行われるその儀式に選ばれる娘とその親は仕方がないが、人間が大悪魔からの干渉を最小限にするには必要なことだった。
そうすれば、自国を守る大悪魔と対立している大悪魔の手下でない限り、自国が脅威となる悪魔に曝されることは少ない。
魔物と呼ばれる雑魚悪魔の対処だけでも人間にとっては充分すぎるものなのだから。
「供物は既に出した」
王子は自分の目の前でアリスが悪魔の供物になる様は見たくなかった。
だから国外追放にした。
国外で秘密裏に悪魔に捧げるよう、供の者に言い含めて。
「国から追い出した娘なら、供物にならんぞ。王子との婚約が失くなった時点で、供物からではなくなったからな」
「何を馬鹿なことを――」
「国から出しても供物を捧げたことにはならんぞ?」
男の言葉に王子は顔を蒼白にする。
この国の中で悪魔に捧げる儀式をしなくてはこの悪魔への捧げ物にはならない。
どうやら、王子はそのことすら思いもつかなかったらしい。
「アリスが我が供物だと知っていて、愛を囁き、惑わせたのであろう? その結果が怖くなって、別の娘に縋り、婚約を破棄し、追い払ったのであろう?――それを我が知らぬとでも思ったのか?」
「!!」
血の気の失せた王子に大悪魔はその耳に囁く。
「我が供物はそなたの婚約者。供物を捧げぬうちはそなたは結婚できぬ」
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王子はその後も結婚式を繰り返し、花嫁たちを死なせた。
やがて王子の花嫁になる前に娘とその一族が逃げ出すことまで起きるのだった。
国王の子供は王子一人のみ。
王子の婚姻が叶わぬとはいえ、王家の血を絶やさぬ為に王城に勤める娘は若く美しいことを条件にしたという。
そうしてできた我が子の一人を大悪魔に捧げ、王子はようやく結婚できたらしい。
その城に出入りするある人物はこの城を『色狂いの城』と呼ぶ。
これは意志が弱く、色に逃げた王子の物語。
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赤い目の男は住処とする場所で気怠げにしていた若い女に声をかける。
「さて、気分はどうだ?」
「サイテー。今日はあのクズの結婚式だったんでしょう?」
男は喉で笑う。
人間に擬態していた女は王子の結婚か、人間としての死で本来の姿に戻るよう、術をかけていた。
王子の婚約者である令嬢アリスとしての仮の姿で過ごした数年の記憶は、擬態が解けると同時に彼女の記憶でも感情でもなくなる。
愛し合いながらも、悪魔との対峙や取引を怖がり、権力で逆らえない弱い立場の他の女に縋った男のことなど、その程度のものだった。
女にとって、縋られた新人メイドのダナのほうがまだ気になる。
縋ってくる婚約者持ちの男から逃げ出さなかった大胆不敵なダナ。
口では何とでも言えるが、令嬢がまだ婚約破棄される前から王子と身体の関係のあった泥棒猫。
そう、アリスが婚約破棄された時にその身に王子の子を孕んでいた略奪者。
「おかげで目が覚めたわ。目が覚めてなんだけど、人間って不便なものね。愛だ恋だ言われれば、なんでも許されて好き勝手されてしまうんだから」
「それはそなた自身の本質だ。それとも女の性質ではないのか」
「ところで、ダナはどうなったの?」
「ダナ? 王子の花嫁なら、魔物にしておいたぞ。あの国に害を成すか成さぬか、王子への想い次第というとこだ」
愛していれば襲わない。
しかし、愛していなければ?
自分が死んだのも、魔物にその身を変えられたことも、全部、王子が元凶なのだ。
暴れられずにはいられまい。
「悪趣味ね」
「面白くならなければ、そなたに協力するものか」
「ホント、悪趣味ね」
「我はそなたが好みだと言っていたから、貸してやっただけだ」
「・・・あなたもあのクズも滅んでしまえばいいのに」
「あやつの愛の囁きには簡単に堕ちたくせに、酷いことを言う」
「妙に親切だと思ったら、からかいたかっただけなのね。ホント、あなたって悪魔だわ!」
「そなたもだろう?」
「・・・。本物の供物だった令嬢は?」
「子供の世話が大好きな奴に与えた。子供が大きくなる度に、別の子を拾ってきて育てているのだから、苦にはなるまい。人間の下に戻せないと聞いて、喜んで森の奥に連れて行ったぞ」
男の言う子供好きの悪魔は、とんでもない性格の持ち主だった。
兎に角、子供が大好き。
子供を甘やかすのが更に好き。
食事の度に、自らの手で食べ物を口に運ぶわ、歩かすくらいなら抱きかかえて運ぶわ、異常なくらい甘やかして、過去に幾つもの村や町、国まで養い子の我儘に付き合って滅ぼしたくらいだ。
だが、奴は大人になったと感じたら、一転して甘やかすのをやめて家から叩き出して独り立ちさせる、ロクでもない性格の持ち主でもある。
「それってあいつのことよね?! 他の人間と接することもできずに、あいつに育てられるって、どんだけ不幸なの?! 自分で食事がとれなくなるわよ。他人の手を借りられないと生きられなくなるなんて、一種の虐待じゃない?!」
男に食って掛かる女。
「幼子故に他の記憶が無いことが唯一の救いだな」
「そんなこと言ってないでっ! あーっ!! もーっ!!」
女は自分の取り替え子になった女の子(推定5歳)の為に赤い目の悪魔の下から飛び出していくのだった・・・。
登場人物の中で女悪魔さんが一番まとも。
その後、本物の供物令嬢ちゃんは女悪魔さんが保護しようとしましたが、子供好き悪魔と離れたがらなかったそうです。




