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赤い傘の少女

 これは私が子供の頃の話だ―――――


 塾の帰り道、突然、雨が 降りだし、近くの神社で雨宿りしをし立ち往生していた。

 天気予報では雨と言ってなかったので、誰も傘を用意しておらず、通り雨だろうと待っていた。

 同じ境遇の子供が私以外にも六人いた。

 神社の花壇のアジサイにカタツムリが散歩しているのをぼ~~っと見ていた。

 友人がいたので、早く雨がやまないかと愚痴を言いあっていた。

 そこへ、赤いかさを指した少女がこちらにやってきた。赤いレインコートを来て、頭も赤ずきんちゃんみたいにスッポリ被っていて、長靴も同じ赤色だった。

 一緒に遊んでほしいというのだが、この雨ではと渋っていると、神社の階段に赤い傘と赤い長靴、赤いレインコートが人数分あった。

 なぜ、ここに都合よく?と今となっては疑問に思うのだが、当時はみなそれほど不審に思わず借りた。

 まるで赤いテルテル坊主が七人に増えたようだ。


 傘を借りて帰ることも考えたが、遊びたいさかりだったので、その場にいる少年少女達で遊ぶことにした。

 傘をさして外で近所の友達と水たまりをバシャバシャと踏んで遊んでいた。

 親に服が汚れるからやめなさいとよく注意されたが、長靴とレインコートがあるし、第一、子供はそういう遊びが何故か好きでたまらないものだ。

「けんけんぱ」や追いかけっこ、鬼ごっこなどをして、境内を走り回った。

 傘を貸してくれた少女は、子ども心にも、とても可愛らしい子で、ついつい見とれてしまって、友人にからかわれたのを覚えている。

 

 やがて、ミュージカルの真似をして遊ぶことにした。子供達七人で傘をもってくるくると回し、踊りながら前後にステップを踏んで、体を入れ替えた。

 大空から見れば、路地に丸い傘が大輪の花のように見えただろう。少年少女たちは楽しくなって踊り続けた。

 やがて、くるくるまわした傘が次第に閉じていき、一番右端の子から傘の中に吸い込まれていった。

 その時は怖いとは思わず、踊りに夢中になって、童話やアニメの世界の延長線上にいた気分だったと思う。

 やがて自分もくるくる回した自分の傘がゆっくりと閉じていき、傘の中に吸い込まれた―――


 まるでウォータースライダーを滑り降りる感覚で赤い空間を飲み込まれていった。気がつくと、そこは田舎の田園風景が広がっていた――

 子供たちはそこで、赤いレインコートの少女の家に招待されて、彼女の祖母から草餅くさもちをご馳走になった。

やがて雨がやんで、南の空に大きな虹が出た。思わず子供達みなでそれを見上げて、きれいだなと見とれてしまった。

ここから記憶がまた曖昧あいまいになる……

傘に吸い込まれて田舎の世界に行ったはずなのに、少女に案内されて水車小屋への道を通り抜け、水たまりのある田舎道を歩き、いつの間にか馴染みのある神社の境内にいた。少女は楽しかったと言って元きた道を帰っていった。神社の子ではないようだ……

 私を含め、子供達はなんの疑問も持たず、楽しい思い出に満足して帰っていった。

 その時の神社の花壇に紫陽花あじさいの花が、くす玉が寄り添うように咲き誇っていたのは鮮明に覚えている。花の色は、普通は青紫色だが、その時は真っ赤な色だった。紫陽花は梅雨時に開花し、白、青、紫または赤色に変化する花で、「七変化」「八仙花」とも呼ばれるとあとで知った。

 あの時のアジサイは赤く咲いていたと強く覚えている。

 そう、あの傘や長靴や、レインコートの色のように……


―――もしかして、あの少女は紫陽花の精だったのでは?


 まるで宮沢賢治や古田足日、佐藤さとるの児童小説のような話だし、今となっては夢だったのか現実だったのかも判然としなくなっているが、雨降りの日に赤い傘をさした子供をみかけると、ついつい思い出してしまう――

 少女の名前を聞いたと思うが、まるで思い出せない。友人とは別の高校になり疎遠になってしまい、わざわざこの思い出を確かめるために再会するのも気恥ずかしい。

 思い出として残しておこう……


                                                                   了


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