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ストーカー

 ボクは平凡なサラリーマンだ。

 しかも、内向的な性格で、人とまともに話すこともできない……

 それでも生活のためにとある会社の事務員をしている。

 このままずっと、平凡で単調な毎日が続く……と思っていたが、ある時激変した――


 春になって新入社員が入ってきた。その中の一人、ナナコさんを一目惚れしてしまった――これぞ「運命の人」に違いない。

 地味な服装で大人しめの性格のようだ、同僚や先輩の女性社員とのおしゃべりも言葉少なめのようだ。

 聞き耳を立ていたボクとしては、もっと彼女の声が聞きたいのだが……


――彼女と話をしてみたい……


 しかし、内向的な性格のボクは彼女に話しかけることはおろか、顔をまともに見ることもできない。情けないが、たまにチラと彼女を見かけるくらいが関の山……社内報の新入社員紹介のページに掲載された写真を拡大コピーして見つめるのがボクの唯一の至福の時間だ……


 しかし、それだけでは物足りない……

 彼女の声をもっと聞きたい……

 彼女のことをもっと知りたい……


 ボクは熱に浮かされたように仕事終わりに帰宅する彼女をコッソリ追いかけた。ばれないように、いつもと違うコートを着て、帽子に伊達メガネをして変装した。彼女の背後を少し離れて歩き、駅から同じ電車に乗り、同じ駅で降りた。

 夕方の帰省ラッシュで見失ってしまった。

 その日はガックリして帰宅し、お酒を飲んで眠った――


 翌日、また仕事終わりに同じ変装をして彼女を後を尾行する。今度は帰省ラッシュで見失わないように、少し近づいて補足した。そして今回は彼女の姿を見失わずに尾行ができた。


 彼女は本屋で文庫本を購入し、スーパーで野菜と肉を買った。

 そして、こぎれいなマンションに入っていった。


――このマンションにナナコさんが住んでいるのか……


 ぼ~~っと、マンションを見ていたら、自転車の警察官が通りかかって、ボクの方をジロリと見た。


 ボクの心臓はドキリとして、そそくさと駅へ向かって小走りに帰った。

 今まで熱情にとり憑かれていたが、冷や水を浴びたように冷静になった……


――こっそり尾行するなんて、これじゃまるでストーカーだ……


 ボクは彼女を尾行するのをやめて、いつもの平凡な事務作業の日常に戻った。

 ナナコさんをチラ見することも禁じた……


 しかし、ある日の帰り道、異変が起こる。

 駅の出口の雑踏にまぎれて、ふと、首の後ろに視線を感じて振り返る。

 人が通り過ぎるなか、自転車の警察官がいた。

 

――まさか、ナナコさんのマンションでみかけた警察官! 

 いや、まさか……人違いでは……


 内向的なボクは他人の顔をまともに見れなくて、あの時の警官の顔を覚えていない……だいたい、警察官なんて同じ制服を着て判別がつき難い。


 ボクは後ろめたさを感じて、近くのコンビニに入り、弁当と野菜サラダを買って、おそるおそる外を見た。警官はいないようだ。

 ホッと胸をなで下ろして帰路についた。

 夕日が沈み、あたりは暗くなる。

 また、首の後ろで視線を感じた――


 ボクは背後を振り返り、人を探す。さっと、電柱の陰に隠れる人影があった。

 コート姿に帽子の怪しげな人物だ……

 もしかして、私服の刑事?

 ナナコさんを尾行したことがあの時の警官に不審に思われ、尾行されていたのか?

 いや、ナナコさんがボクをストーカーと勘違いして警察に相談、防犯カメラからボクを割り出したのかも……

 走って逃げ出したい衝動につき動かれたが、身がすくんでしまった……

 それにこの国の警察官は優秀だ。逃げられるものではない……


 ボクは電柱に身を隠したコート姿の人物に会いにいった。


「あの……警察暑のかたですよね……まず、ボクの話を聞いてください……」


「あ……わたしは……その……」


 コートの人物の声は高い声だった。女性だ――


「あ、もしかして……ナ、ナナコさん……」

「はい……」


 彼女もボクと同じ熱情に突き動かされてしまったようだ……

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