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オレオレ詐欺

 電話が鳴った。


「もしもし……どちらさまですか?」

「あっ、バアちゃん? オレオレ……オレだよ」

「タケオ……タケオなのかい? えらい久しぶりじゃねえ……」


 男は内心、シメシメとほくそ笑んだ。人の良さそうな老婆の声だ。彼はオレオレ詐欺師で老人から大金をせしめるのが目的だ。


「実はさ、オレ車をぶつけちゃって……」

「ええぇぇぇっ!! そりゃ大変だ……」


 受話器の向こうから慌てた声が聞こえる。パニック状態になれば詐欺師の術中にはまったと同じだ。


「オレは大した怪我じゃないんだけど、ぶつけちゃった相手が大怪我をしてね……警察に逮捕されて刑務所に送られるかもしれない……」

「そりゃあ、大変じゃあ……タケオぉぉぉ……」

「でもね、弁護士さんに相談したら、明日までに治療費と示談金じだんきんをはらえば刑務所に入らなくてもいいみたいで……でも五百万なんて大金はないし……」

「明日とは急だね……でも、大丈夫だよ、タケオ……私が貯金をくずして出してあげるからね……」


 詐欺師の男は小踊りしたくなるのを押さえて、取引相談にうつる。


「それでね、オレは警察との聴衆で家に帰れないから、オレの友達をバアちゃんの家の近くに送るから、現金を渡して欲しいんだ……」

「わかったよぉ……すぐに用意するよ。でも、私は足を怪我しちゃって動けないんだよ。病院まで来てくれるかい?」


 男は公共の場で会うというリスクが頭によぎったが、五百万円という大金に目がくらんだ。


「わかったよ、その病院の住所を教えて――」


 詐欺師の男は単独犯なので、現金を受け取る役も本人がした。声色こわいろを使えば気がつくまい。警察につかまる危険性があるが、もうけは独り占めできた。




 男は翌日の午後、指定された住所に特急で向かった。外は今にも降り出しそうな厚い雲がおおっていたが、詐欺師の男の心は晴れやかだった。

 そこは郊外の田舎町で、駅前のタクシーに乗り込み、指定の住所へ到着した。

 だが、そこは病院ではなかった。墓石や卒塔婆そとばが立ちならぶ陰気な場所であった。そこは墓場であった……


「だまされたっ! あの、ババア……」


 詐欺師は半狂乱になって墓場へ入り込み、墓石を蹴り、卒塔婆を倒した。昨晩の雨で地面がぬかるんで、水たまりの泥水が男にはねる。


〈くそぉぉぉ……詐欺とさとられて、間違った住所をおしえたか……いや、まてよ……〉


 男は老婆がモウロクして住所を間違えたと考えなおし、携帯電話でまた電話した。

 すると、近くの墓石から着信音が鳴った!


 詐欺師の男はギョッとして墓石に近づく。その時、携帯電話に相手がでた。


「はい、もしもし……」

「バアちゃん、オレオレ……病院の住所に行ってみたんだけど、違う場所だったみたいだよ。正確な住所を……」

「いいや……そこでいいんだよ、タケオぉぉぉぉぉぉぉぉ……」


 受話器からの声が途切れた。優しい老婆の声が陰惨な口調に変わっていた……


「おいっ! それはどうゆう……」


 その瞬間、足元を何かにつかまれた。驚愕した男が下を見ると、地面の足元から痩せこけた木乃伊ミイラのような腕が飛び出ていた。細い腕だが、力が異常に強い……


「来てくれて嬉しいよぉぉぉ……タケオぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああっ!!!」


 詐欺師はまるで底無し沼にはまったかのように泥濘ぬかるみの地面に沈んでいった――


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