巨大怪獣の来襲!
暑く乾燥した草原・サバンナ。
太古からサバンナには白き顔の民が住んでいた。
だが、ここでは雨季になると河が氾濫し、洪水で大量の仲間が無惨に死ぬ過酷な地であった。
〈もうこんな悲劇は繰り返すまい!〉
白き顔の民の統率者は決意した。彼等は洪水に負けない堅固な建築物をつくる決意をした。
彼等の子孫たちが安心して暮らせるように――ただ、それだけを願って。
何世代もかけて、延べ数十億の民が巨大な塔のような建築物をつくりあげるのだ。
白き顔の民たちが暑い乾季もジメジメした雨季も懸命に働いた。黒き顔の民がそれを見て、家をつくるよりも日々の食糧を得ることを優先すべきだといったが、白き顔の民たちは耳を傾けなかった。
やがて百年の時が過ぎていった――
サバンナの草原に空に届くかと思われる建築物が現れた。白き顔の民たちは、これを『塔の城』と名づけた。
白き顔の一族の母と娘は窓から外を見た。地面を見ると同胞たちが豆粒よりも小さくかすんで見え、眩暈が起きた。そして、あれほど遠かった青い空が身近に感じる。
今日は完成祝賀会だ。大広間には多くの白き顔の民が集まってパーティーを開いていた。丸い天窓から陽光が刺しこむ。
「やっと完成したわ――私たちの先祖から苦労に苦労を重ねてやっと完成したのよ……」
「そうね、お母様……でもなんだか怖いわ……」
「あら、それは就任式のプレッシャーね……大丈夫よ」
「違うの……昨日、怖い夢を見たの。この『塔の城』が壊される夢……大きな災いがおきる前兆のような気がするの……」
「なにをバカな……この建物は洪水や暴風にだって負けない頑強な造りをしているのよ。ちょっとや、そっとじゃ壊れないわ」
「そうよね……」
「さあ、『塔の城』の完成を祝いましょう。そして、あなたは新女王になるのよ。嫌な夢はわすれなさいね……」
「そうですわね……お母様……」
そこへ、地響きが起きた。地震か?
――ズゥゥゥン……ズゥゥゥン……ズゥゥゥン
白い顔の民たちは恐怖に震えた。だが、それは悲劇の序奏にすぎなかった。伝令兵が大広間にかけこんできた。
「大変ですっ! 巨大な……『塔の城』と同じくらい巨大な化け物がこちらに向かってやってきましたっ!」
母娘と、窓に駆け寄った民たちが外を覗くと、北から四つん這いの巨大な怪獣がこちらに進撃してくるのが見えた。大きな鉤爪と長い尻尾を引きずっている。大広間に集まった民衆がパニック状態になる。
「怪獣だ……巨大怪獣が我々を食べにやってきたんだ……」
「落ちつきなさいっ! この『塔の城』は百年かけてつくった堅固な城砦です!」
民を統べる女王が叫ぶが、恐慌状態の民の耳には届かない。
突如、壁の一部が轟音ともに破壊された。瓦礫がつぎつぎと落下する。怪獣が立ち上がり、鉤爪を生やした巨腕が『塔の城』を破壊したのだ!
そして、天窓から巨大なミミズのような赤黒い物体が侵入してきた。それは巨大怪獣の舌だっ!
恐怖から金縛りとなり、呆然と立ち尽くす母娘。間一髪、近衛兵たちが母娘を奥へ運ぶ。
およそ一分後、悲鳴と絶叫がひびいていた大広間は静かになった――
怪獣の舌が白き顔の民たちを唾液でからめ取り、驚くべき速さで食べたのだ!
それも一分間になんと、百五十回も!
後で消えた民の数を調べると、なんと三万名が消えていた。怪獣の胃袋へ消えたのだ……
「ああ……なんということでしょう……」
「お母様っ!」
恐怖と心労で母女王は倒れた。新女王の祭典は惨劇となったのだ。
「私がお母様の代わりに女王となって、残った民を率いねば……そして、子孫を増やさねば……」
シロアリの新女王は決意した。あの巨大怪獣アリクイは、またやって来るだろう……それまでに『塔の城』アリ塚を修復せねば……