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瓶の中の小鬼

 青年が海岸を歩いていたら、奇妙な青いびんを見つけた。

 ガラクタではあるが、異国でつくられた瓶はエキゾチックで不思議な魅力がある。

 青年はその青い瓶を布でふいて、アパートへ持って帰った。

 安アパートの狭い部屋にはそこかしこにガラクタがある。

 彼の趣味はビーチコーミングだ。これは海岸に流れ着く漂流物をコレクションするというお金のかからない趣味だ。

 味のある流木や綺麗な貝殻、昭和のガラス瓶、江戸時代の陶器などさまざまあり、それらをでて風合いを楽しみ、使っていた人や時代をあれこれ思いをはせていた。


 彼は瓶の中も洗おうと思い、コルク製のフタをねじる。とても、硬かったがキュポンと音がして抜けた。

 すると、瓶のなかからモウモウと煙が噴き出してきた。


「うわあああっ!」


 煙が薄れると、そこには異国の衣装をきた小さな人影が見えた。


「やっと、外に出られたぁぁぁ!!」 

「こども? いや、角が生えている……鬼の子か?」

「オイラは小鬼こおにだよ、ケラケラケラ……」


 小鬼は笑いながら、宙にフワフワと浮かんでアグラを組んだ。魔法がつかえるようだ。


「小鬼?」

「ある事情でオイラは罰を受けてしまったんだ。それで瓶の中に閉じ込められてしまったんだ」

「そうなんだ……」

「瓶を開けてくれたお礼に魔法でなんでも望みを三つだけ叶えてやろうじゃないか……ただし、望みを増やすなんてのは、ダメだぜ」

「魔法で望みをかなえてくれるのか……じゃあ、大金を出してくれるのか?」


 青年はゴクリと生ツバを飲んだ。


「ああ、モチのロンさ。おいくらだい?」

「そうだなあ……十億円はどうだ?」

「お安いごようさ……アセラン・ポセラン・アセラセラ・ゴッセマー!」


 小鬼が奇妙な呪文を唱えた。青年はドキドキしながら待つ。


「……何も出てこないじゃないか……」

「まあ、待ちなよ……おっと、窓と扉を全開にしておきなよ」


 若者は言われた通りに扉と窓を開いた。何気なく窓の彼方の空を見た、すると小さな黒い鳥か虫のようなものが見えた。いや、あれは空中を何か大量の物が群れをなして飛んでくる……

 一万円札、五千円札、千円札、五百円玉、百円玉、十円玉……たくさんの紙幣や硬貨が渡り鳥のように空から飛んできて、窓や扉から部屋の中に積まれていく……


「す、すごいぞ……お金の山だっ!!!」

「どんなもんだい! ケラケラケラ……」


 小鬼が鼻の下を人差し指でこすって自慢する。そこへ扉から大勢の人々が入ってきた。


「わわっ、なんですあなた方は! 人の部屋にかってに入ってきて……」

「お前が泥棒かっ! お金を返せっ!」

「えええええええっ!」


 人々は怒った顔で叫んだ。すると、このお金の山はこの人達のものを勝手に盗んできたものか? 青年は怒った人々にモミクチャにされる。遠くからパトカーのサイレンも聞こえてきた。


「おいっ、小鬼っ! これはどうゆうことだっ!」

「オイラはお金を無から生み出す事なんて出来ないよ……近くにあるお金を集めてきたのさ」

「なんてことを……戻せ、みんな元に戻してくれっ!」

「あいよ、二つ目の望みだね……アセラン・ポセラン・アセラセラ・ゴッセマー!」


 小鬼が呪文を唱えると、怒った人々もお金もコマ撮りの逆回しのように元来た方向へ戻っていく――時間がさかのぼっていくのだ。

 青年を取り囲んだ暴徒たちは後ろ向きに走って戻り、お金も元の場所へ飛んでいく。やがて、安アパートの部屋には青年と小鬼だけになった。ちょうど、一度目の望みを言った直前まで戻った。


「あれ? いつまでたってもお金が出てこないじゃないか?」


 青年は不信な顔をして小鬼をみた。


「その理由を知りたいかい?」

「ああ、なぜだ!?」

「お安いごようさ! それはな、一つ目の願いで大金を集めたけど、それはこの辺の人々のお金を集めたもので、お金を取られた人々が怒ってついてきた……そこであんたが二つ目の願いで元に戻す魔法――つまり、時間を元に戻した。すると当然、その間の記憶も無くなってしまった、というわけさ」

「なんて事だ……すると、オレにはもう願いがあと一つしかないのか……慎重に考えないと……」

「いや、三つ目の望みはそのことを説明したことさ……ケラケラケラケラケラ……」

「そんなバカな……」


 小鬼はそういって窓から外へ流れ星のように飛んで行った。部屋には空っぽになった青い瓶と、口をポカンと開けたままの青年だけが残された。

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