人間そっくり
人里はなれた山奥。
都市部からはなれた山小屋にたった一人で暮らす男がいた。
ある深夜、まぶしくて目が覚めた。
窓から外をあふれるばかりの光が降りそそぐ。平たい楕円状の物体が見えた、空飛ぶ円盤だ!
異常を感じた男は、扉を開けて外に出る。すると、男は不思議な光に包まれて宙に浮かび上がっていった。
空飛ぶ円盤のなかにはグリタ星の偵察隊がいた。地球を侵略するための下調べにきたのだ。
山小屋の男は標本にするために捕らえた人間サンプルだ。カプセルに保管し、母性に送る予定だ。その周りに八名の偵察員が並んで観察する。
「う~~む、地球人とは実に奇妙な姿をしている……手足が四本しか無いとは不便であろうに……」
グリタ星人は地球でいう海洋棲軟体生物・タコから進化した知的生命体で、触手が大小計二十四本ある。
異星人を見て悲鳴をあげてカプセル内で暴れる男。だが、白い気体を噴霧され、意識を失った。
カプセルに捕らえた男をスキャンして、人間の表皮スーツが作成された。宇宙人のひとりがその人間表皮スーツに潜りこんだ。軟体生命体ゆえの特殊能力だ。衛生電波の映像調査で地球人の行動形態は熟知している。
「どうですか? 地球人に似ていますか?」
「おう、そっくりだ」
「さっそく地球人の都市部に潜入してきます」
「しっかり頼むぞ!」
翌朝、人間の男に変身したグリタ星人は麓をおりて都会の街へと向かい、潜入調査をはじめるのだ。地球からの電波である程度の知識は得ているが、実際に肌で知る情報も大切だ。
グリタ星人偵察員は街の建物や乗り物、奇妙な姿の生命体を見て、自分たちの文明より遅れていると鼻孔で笑った。
しかし、彼を見たひとりの女性が悲鳴をあげて指さした。群衆がそちらを見て、目を見開き遠巻きにする。
〈どうしたというのだ? 正体がばれてしまったのか?〉
グリタ星人は人間表皮スーツに異常が無いかどうか調べたが、なんともなかった。
やがて、地球のパトカーがやってきて、拳銃を構えた警察官がグリタ星人を取り囲んだ。
「どうしたのですか? 私に何か用ですか?」
「両手をあげて大人しくしろっ!」
それに従ったグリタ星人はたちまち警官たちに取り押さえられた。地球人をなめていた彼は動揺する。
〈いきなり私が異星人だとばれてしまった……な、なぜだ? 何かミスを犯したのか?〉
警官に取り押さえられた男の首がコトリと地面に落下し、中からタコに似た異形の姿のグリタ星人が多数の触手を出して、ぬめぬめと踊り出た。群衆の絶叫がほとばしる。
そして宇宙人はそばの建物の壁面にはりつく。表皮スーツが自然崩壊プログラムで蒸発していった……
「ば、化け物だっ!」
驚愕する警官たちをよそに、グリタ星人偵察員は保護色機能をつかって姿を消した。まるで白昼の悪夢のような出来事だ……
ようやく山奥に着陸した円盤にたどりついたグリタ星人は仲間の偵察員に正体がすぐにばれてしまったことを報告した。
「思ったよりも科学力が発達しているのか?」
「それとも特殊能力か?」
「ともかく……地球人、侮りがたし……」
グリタ星人の偵察隊は地球侵略が難航すると判断。標本の人間をカプセルから外へ廃棄し、地球を飛び去った。
森に捨てられた男は目が覚めると我を忘れて麓をおり、街の人々に異星人に捕まっていたと訴えた。
が、ある女性が叫び声をあげ、他の人々も気がついて男を遠巻きにした。やがて、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてくる。男は我に返ってほぞをかむ。
「お、お巡りさん! ここに指名手配の凶悪脱獄犯がっ!」