――防衛本能。初めての勧誘に、俺は臨時で。(前)
六話目(前)を更新しました!
僕の物語を読んでくださる方、いつもいつも感謝しております!
最近は貴重な感想をいただいたりして、とても嬉しく、構成の向上に役立てています!
それでもまだ、拙い文章なのですが
お付き合いくださる方、楽しんでいってください!
『――本当に、幻影?』『妹じゃないのか?』『赤い髪でツインテールなんて少女をこの三次元の世界で眺められるなんて……』『恰好……エロくね?』『ああ、なんで俺の幻影は美少女じゃないんだよ……』
纏めるとこんな感じ。高校に入り、ちゃんと友達できるかな。そんな不安を心の片隅に置いてあったのだが、その不安は一瞬にして消え去ってしまった。そしてその隙間を埋めるかのように俺には新たな不安をその場所へ置くことになる。
「なあ、十七夜……だっけ? 十七夜の幻影……触らしてくれないか……?」
「――いや、本気で?」
とまあ、こんな具合。確かに、人間の姿に人間との会話、それに幻影としての力も申し分ないくらいにある。そんな編に興味を持つのは分かるが、寄ってくる奴らはそこに興味があるわけではなく、編の容姿。そんな気がしてままならない。
「な? いいだろ? 少しだけだから……」
「うーん……えっと、坂本だっけ、坂本は編のゴミを見るような目線を全身に浴びても、どうも思わないのか?」
「――そこがまたいいんだよ……もっと、もっと。もっと俺をその貶すような目で、その細い綺麗な手で、もろく儚いその華奢な体で、その全てで俺を貶して、罵ってくれぇ!」
――あ、ヤバい奴だ。
俺の防衛本能はレベル三に達した。という事は「そこそこ危ない奴」と分類される。
編の目はもう、ゴミを通り越して――うん、なんだろう。言葉すら出てこない。とにかく、坂本に編を触らせる事は無い。マジで危険。
「残念だけど、坂本には編に――――」
「そこまでよ!」
近づいてほしくない。そう言おうと、可哀相だけど、素直にピシッと言うしかない。思って口を開いた矢先、俺が喋っているのにも構わず、声を上乗せされた。
「――なっ! その腕に着けている腕章は……影倫か! まさか、このクラスにいたとは……」
「残念ね、坂本君! 私、東雲 天音は幻影倫理取締委員会に入ったのよ! ――その行為は幻影に対する迷惑行為又は猥褻行為として忠告します! 改善がみられない場合は処罰の対象になりますので――観念しなさいな!」
ドーンと効果音が流れそうな決めポーズを華麗に決めて見せる、黒髪パッツンが似合っているこのクラスの女子、東雲は満足そうに笑顔だった。
「……くそ、新学期早々に、このクラスに影倫がいたとは……ごめんよ、十七夜……」
「――ああ、うん。き、気にしなくていいから……うん」
坂本は大きなため息を一つ吐き、肩を落としてトボトボとそんな足取りで自分の席へと帰って行った。
「――大丈夫? 二人とも」
そんな坂本と入れ違いに俺らに近づき、話しかけてくるのは黒髪パッツン、私は幻影倫理取締委員会だと大声で決めポーズと共に名乗った、東雲だった。
「あ、うん。俺らは大丈夫だけど……なあ、編。別に大丈夫だろ?」
「大丈夫だけど……気持ち悪かった」
はっきり言ってやるな。すこし肩をビクンとさせた坂本がさすがに可哀相だ。
「いやね、もうちょっと早くに登場出来たら良かったんだけど……腕章を鞄から取り出すのに手こずっちゃって……気持ち悪い思いをさせてごめんね」
東雲は膝に手を付き、編との目線の位置を合わせ、迷子センターのお姉さん。と、連想させるかのように謝った。
が、東雲は知らない。坂本の肩がもう一度ビクンとなったことを。
「うん。でも、お姉ちゃんは助けに来てくれたじゃん。――手前は編って言うの、よろしくね」
編が手を差し出す。上から目線なのは変わっていないが七夕里の時とは大違いな対応だった。
「――編ちゃんって言うのか……私は「東」に「雲」って書いて「しののめ」。「天」に「音」って書いて「あまね」って言うの。――こちらこそ、よろしくお願いします」
東雲は差し出された手を腕章の付けている腕の手で握る。編が俺以外の人間と握手をするなんて……初見となる。なんだか、感動した。娘の成長を感じた父親というものはこんな感情に襲われるのだろうか。
「……なんか、ありがとう。編も東雲の事を気に入っているみたいだし、仲良くしてくれたら嬉しいよ」
「――うん。是非、私も仲良くさせてほしいよ。えっと、ジュウシチヤ君だっけ?」
「いや、そうだけど。――十七夜だ」
「――金木? でも、名簿にはジュウシチヤって……」
「……えっと、うん。十七夜って書くんだけど――」
「ほら、やっぱり、ジュウシチヤ君じゃん!」
「はい……ジュウシチヤ君です」
――諦める。それこそがこの場合の最善の方法。確かに「ジュウシチヤ」で合っている。読みが本来と違ってもこの学校で被ることはないから東雲からは「ジュウシチヤ」でいい。
いくら説明しても理解してくれそうにない笑顔に俺はそう思った。
「そうです! ――ジュウシチヤ君は影倫に入っってくれないでしょうか?」
「……いきなりだな」
「こうゆう勧誘はいきなりの方がいいって先輩が言ってましたから! ――なので、入りませんか、影倫」
「その先輩も、必死なんだね……影倫ってその腕章の?」
これ見よがしに腕に着けている腕章。ただ、『影倫』と二文字がプリントされている腕章。その腕章がどんな価値があるのか俺は入学前のパンフレットで読んだことがある。
――幻影倫理取締委員会。それは幻影を行使し倫理的道徳的に反した行為など、又逆に、幻影に対する倫理的道徳的に反した行為を犯した場合、権力によってそれを罰することができる機関。
いわば、風紀委員みたいなもの――というわけではない。影倫、それは幻影が直接関わっていないと権力的に影倫の力を行使できないという事。それは何を意味するのか。
幻影を使った迷惑行為、猥褻、喧嘩、暴力など、幻影を対象とした迷惑行為、猥褻、喧嘩、暴力などしか取り締まることは出来ないという事。
言ってしまえば、対人同士の揉め事には首を突っ込めないという事になる。
そういう事は、幻影に直接関係あると証拠がない限り、影倫の力は使えないという事になる。
その為、風紀委員も力をあげているとか――――そんな事をパンフレットに書いていた。
「はい、そうです! ジュウシチヤ君も知っていますよね? 今、影倫のメンバーが少なくて大変困っていると、その為、いろいろな迷惑行為が起こっていると……」
一旦言葉を切ると、東雲は、かげりのある表情を浮かべ、話を続けた。
「……私……実は、私には幻影がいないんです。――私が中学生の時……遅刻しそうになって焦った私は、急いで学校に向かっていて……信号が赤だってことに気が付かなくて―――助けてくれたんです。幻影が私の身代わりに……あまりの事に、泣くことが出来ませんでした。悲しいのに、辛いのに―――でも、泣いてしまったら幻影がいなくなった事を受け入れちゃうような気がして。でも、この高校に入学したと同時に泣きました。大泣きしました。このままじゃだめだ、受け入れないと……過去を受け入れて未来へと進まないと……そう思って私は、幻影倫理取締委員会に入ることにしたんです。幻影、それは私にとっては命の恩人。そんな大切な存在で悪い事をしようとしている人、そんな大切な存在に悪い事しようとしている人。そんな人を取り締まって、困っている人、困っている幻影を助けて……そうして、あなたが助けてくれた命は皆にとって価値があるように生きてるよって言ってあげないと……あんまりだから」
過去を乗り越えるため、未来へ進むため、価値のある命、そんな言葉をあどけなさが残る容姿に、真っ直ぐな瞳に語られたら、俺はなんと言い返せはいい。
「それじゃ、入ろうか」
そんな言葉は東雲が体験してきた過去を簡単に考えて理解できない痛みを分かったフリをして、肩を支えるような事はしたくないし、そんな事は東雲だって望んでいないはず。
「でも、入らない」
そしてこの言葉は、余りにも残酷すぎる。同情に溺れて分かったフリをして入ると決めてしまうよりかは、幾分とマシだと思うのだが、そこまで残酷に冷徹に俺は生きていない。
「……そうか。自分のやっていることに、ちゃんとした理由があって、俺はすごいと思うよ。俺だったら……悲しみのあまり、いろいろと失うと思う―――」
実際に父さん、母さんを喪った悲しみで、友達、月の自由などを失ってきた。東雲は本当にすごいと思う。
「――だけどな、東雲。俺には一人の妹が家で待っているんだ。そうゆう委員会に入ると帰りが遅くなったりするだろ? 昔、わけあって妹を一人にしてきたんだ。そして、自由を奪ってきた。これ以上、一人にさせることは出来ないし、自由を奪うことは出来ない。……だから、委員会に入ることは出来ない」
「――そう……ですよね。やっぱり、いきなり勧誘されたら困っちゃいますよね……ごめ――」
「しかし! ――臨時としてなら入ることは可能だ」
『ごめんなさい』とでも謝ろうとしたのだろうか、しかし、そんな言葉は聞きたくない。
「……本当ですか?」
「――ああ、本当だ。放課後残って雑務などは出来ないけど、なにか問題が発生した時や、人数が足りない時――そんな時、俺に声を掛けてほしい。それならば、俺は役に立つか分からないけど、全力でその問題を解決するのに手伝いをさせてもらうよ」
先ほど東雲が華麗に決めていたポーズを見様見真似でやって見せた。
――すごく恥ずかしい。それを堂々と大衆の前で披露した東雲はそれぐらいの覚悟で影倫の仕事を全うしているのだろう。
「――それじゃ、早速、委員長に確認取ってきますね!」
俺のポーズに笑顔で返してくれた東雲はそう言うと体を捻り、教室から出ようとするが、
「おい、東雲! どこに行くんだ? ――もう授業始めるぞ」
トントンと教卓を大きな三角定規で音を出している数学教師に止められた。
「あ、すいません。……ははは」
東雲はこっちを見て「やっちゃった」と微笑する。
数式が黒板に並ぶ授業中、東雲の腕の割には合っていない大きさの腕章がずれ落ちる度、ギュッと上げるその姿は、間違いなく、過去を受け入れ未来へ進む少女だった。
読んでいただきありがとうございます。
物語はここから、綴の高校生活が始まると言った感じです。
ここまで、お付き合いいただいて嬉しいです。
これからも、綴の波乱万丈な高校生活を僕と一緒に干渉して、楽しんでくれるようであれば、幸いです。
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