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読まれる日常と、読む非日常。  作者: 金木犀
壱:非日常である、日常の大きなプロローグにあたる物語。
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――潜在意識。頬を膨らませる幻影は、靴の履き心地を確認する。(後)

五話目の後編を更新しました!

僕の物語を、楽しみにしてくれている方が一人でもいると信じて、これからも頑張りたいと思います。


今日は暖かい。そう言える気候だった。雲が少ない青空を鳥が優雅に泳ぎ――俺がもし、俳人だとしたら、ここで一句詠っていたと思う。

でも、俺は俳人ではない。それで、俺はここで何を思うか……当然、あのことしかない。

「なあ、編。――朝……言ってたこと……本当なのか……?」

『……好きだから……大好きだから……だよ』

色の付いていない、そんなふうなこの言葉が頭の隅にこびりついて離れない。――何故かって?

ははは、そりゃ、当然。今まで言われたことなかったから。

「――うん、本当だよ」

俺の歩くペースに合わせるかのよう、せかせかと歩く編を見て、何の恥じらいもなく肯定した編の言葉に、俺はせかせかする心臓、それに歩くペースを少し落とした。

「……でも、俺ら……会って間もないし……それにさ、俺は人間で編は幻影で……なんていうか、唐突過ぎないか……?」

「――つづりが言ってることは、幻影は人間に恋しちゃいけないって……好きって気持ちを理屈でいちいち説明してくれないと分からないって……事?」

「いや、別にそんな差別的な事を言っている訳じゃないんだ、そう感じたのなら謝るよ。でも、好きって気持ちを理屈でいちいちとまでは言わないけど、好きになるまでの過程や、好きになった経緯がないと……俺はなんだか、分からないって……そう思うんだ」

「――それじゃあ、手前がつづりの『優しい所が好き』って、そうゆう理屈で好きになったって言ったらそれはそれで理解してくれるの? でも、つづりは優しいけど完璧に、百パーセント優しいって訳じゃないでしょ? そしたらその理屈は通らないよ、でも手前の好きって気持ちは嘘じゃない。そうしたらつづりはどう理解する? ねえ、どうする?」

「―――いや、まあ、うん。『人を好きになるのは理屈なんかじゃない』なんて聞くけど、そうは聞くけどさ、例えば、すごく嫌いな人を唐突に好きになったりはしないだろ? それには理由が、理屈があって、なにか性格が合わないとか、顔が気に食わないとか、そんな相手を普通は好きになることは無い。でも、そう考えたら、やっぱり好きになる理屈もあると思うんだ。少なくとも嫌いになれない理屈があって、それから人を好きになるんだからさ」

「―――つづりって過去に何かあったの?」

「いや、何にもない。ほんと……何にもない」

大丈夫、思い返してみても異性との甘酸っぱい思い出など無い。皆無と言っていい程に無い。

「……ねえ、つづり」

「――ん、なんだ?」

「――大好き」

「――っで、いきなり⁉  や、やめなさい! こんなところで……」

「……でも、表情――緩んでるよ?」

「なっ……」

そうだ、俺はオオカミ野郎の事なんか関係なく顔に出てしまうらしい。

「からかうんじゃないぞ……全く」

「からかってないもーん。本気だもん」

どうした、どうした。いつ俺にモテキというあの現象が訪れたのか、分からない。

「……ほんと、もう。――って!」

ドンッ。そう鈍い音が鳴りそうな、そんな勢いで小さな子供が俺の左脚にぶつかりその場でこける。

こけたと同時にザーッと硬いアスファルトに文庫本が子供の持っていた鞄から滑り出た。

「だ、大丈夫か?」

子供の体を見る限り、至って目立つような傷は無い。良かった、怪我はさせていないようだ。

「……ごめんなさい……ごめんなさい」

小さな手で鞄から滑り出した五冊の文庫本を拾い大事に鞄へしまう。

「ほんとに、大丈夫? 痛い所とか、おかしい所とか―――」

「大丈夫です!」

声はその場に響き、頭を一回下げると子供は再び走って行ってしまう。小さな体に似合わない大きなリュックサック。不思議に思ったが、ツンツンと袖を編に引っ張られて意識をそちらに逸らされる。

「……学校行かないの?」

「ああ、行くけど――って、やば! もう時間ないじゃんか! 編、走るぞ!」

「ええ、ちょっと……待って――」

遅刻気味に焦り、走る俺に必死について来ようとする、編。「俺の影に!」息を切らしている編に言うが「嫌だ! つづりと一緒に登校する!」と息を切らし言う。

なんとかセーフ。編と息を切らして駆け込んだ閑散とする教室に入り気が付いた。

「……腕時計……進んでいたのか……」

「―――喉乾いた」

「自販機行くか……」

「手前、ポカ・コーラね」

「――ああ」

この会話で、入ったばかりの教室を出た。


俺の通う高校には、校舎の外と食堂、それと屋上に自販機が設置されている。食堂と屋上に設置されている自販機には販売時間が昼休みだけの為、向かうのは校舎の外に設置されている自販機。校内にも関わらず値段は校外と同じ。でも、喉は乾くため、値段が普通だからと言って自販機が過疎になることは無い。どの時間行っても誰か一人は自販機の前に立っていると、そんな具合に自販機は人気者だった。

ほら、こんな早い時間にも自販機に人が立ってる。

「あ……おはよう」

「え、ああ、おはよう……ございます」

まさか、自販機の前に立っている女性に話しかけられるとは思っていなかった為、普通の挨拶すら戸惑ってしまった。

「……そちらのツインテールの可愛い子は妹さん?」

「あ、いや……幻影なんすよ……俺の。ほら、編も挨拶して」

「――おはよーございます」

「あはは、その子が幻影か……すごく珍しい幻影を召喚したんだね。――編ちゃんっていうのか……おはよ、編ちゃん」

女性は整った顔立ちでニコッと笑い、編に挨拶をした。―――うん、美人だ。

「あの……学年は……?」

「ああ、僕は二年生だよ。そうゆう君は見たことない顔だから……一年生かな?」

「ああ、はい。俺は一年です。――一個上の先輩でしたか……」

――僕。女性の一人称にしては違和感を感じたが、僕と言っていても慣れてくるレベルの顔立ち。それに、僕っ娘という属性の人は初めて見た為の違和感なのかもしれない。

「まあ、先輩だけど変に構えないで接してくれていいからね。僕は、二神 瑠衣っていうんだ。よろしくね」

「――二神先輩。あの……俺は、十七夜 綴っていいます。『じゅうしちや』と書いて『かなき』って読みます。こちらこそ、よろしくで―――」

自己紹介。終わろうとした時、すごい違和感に襲われた。その違和感に一度は脳の思考回路がショートしてしまうぐらい。表だと思って見ていたものが実は裏だったときのような。

ここは校内で、男子生徒はズボン、女子生徒はスカート。その固定概念がいたたまれなく俺の脳を刺激する。

「あの……失礼……なんですけど……男です……か?」

俺の申し訳なさそうに質問する姿を見て面白かったのだろうか、二神先輩は笑いながら、

「あはは、そうだよ。僕は、正真正銘の男だよ」

と、女性より女性らしい声で答えた。

「……まじすか」

「あはは、本当だって。ほら、証拠に―――無いだろ?」

二神先輩は自分の胸をポンポンと叩き凹凸がない事を示した。でも、見た目は女性。違和感が思考回路を邪魔する。

「つづり……女だと思っていたの?」

隣で不思議そうに編が言う。

「な、編は男だと分かっていたのか……?」

「――当たり前じゃん。その皆無おっぱいは……どう見ても、男だよ!」

「いや、そこかよ……でも、そしたら、編だって――」

「つづり?」

「あ、そういえば、二神先輩にも幻影はいるんですか?」

トーンが低かった編から視線をニコッと微笑んでいる二神先輩へと変え、ちょっと危険な今を変えた。

「……僕の幻影かい? うん、いるよ。それに偶然に綴君と似ているかも知れない――」

「え、俺と似ているって……二神先輩の幻影も人間の姿をしているんですか?」

「そう、正解だよ、それに性別も一緒の女性だ」

「そ、そんなんですか? ――でも、良かった……なんかこの学校で俺だけかと思っていたんで……」

「そうだね……確かに人間の言葉が話せることが出来る幻影は珍しいけどそうゆう幻影を持っている生徒は多いかもしれない。けど、僕や綴君みたいに、人間の姿で人間の言葉を喋ることが出来て……それに、編ちゃんみたいに幻影としての力がすごいってのは、なかなかのレア物だと思うよ」

「わ、分かるんですか……編が……その、幻影としての力がすごいって……」

「うーん、勘かな? あと、その可愛い髪ゴムは幻影としての力を抑える役割をしてるんじゃない?」

ニコッと微笑んでいる。その表情を崩さない姿と編の事をいろいろと見透かされているという感じに不気味という感情が両手から溢れるほど思ったが、物理的にも精神的にも嫌がらせなどは受けていない為、その両手を背中手組んで、二神先輩に答えた。

「――はい。その通りなんですよ……二神先輩ってそうゆう編みたいなレアな幻影について詳しいんですか?」

「詳しいって言うか……僕の幻影だって、あのおじいちゃんから貰った同じような髪留めをするように言われて髪を留めてるからさ……そうじゃないかなって」

「それじゃあ、二神先輩の幻影も……力が?」

「うん。でも、編ちゃん程じゃないけどね?」

俺の隣で、しゃがみ込んで地面の石で遊んでるような編が二神先輩の幻影より力を持っているなんて、見た目じゃ到底判断できないだろう……見た目じゃ……

「あれ……そういえば、二神先輩はどうして編の方が先輩の幻影より力があるって判断したんですか? 力比べどころか、先輩の幻影すらまだ見てないのに……」

「ああ、そうか。綴君は知らないんだね? 力を抑圧する為に使われる道具、性別が男ならその道具は指輪になって、女だったら髪留めになるんだ。そして、その道具は付ける数が増すごとに抑制する力が強くなっていく――――僕の幻影の髪留めは一つ。綴君の幻影、編ちゃんは髪ゴムを二つ使って、ツインテールにしてるよね? それで分かったんだよ。――分かりやすい見分け方だと思わないか?」

「そんな細かく機能が付いた道具だったんですね……俺、てっきり、あのおじいちゃんの趣味かと思っちゃって……」

「あはは、僕だって初めは思ったよ。でも、ちゃんと抑圧しないと、僕たち人間が危ないからさ……」

「そんなに、危ないんですか? 例えばどうなったり―――」

「飲み込まれるんだよ――影に」

俺が聞き終わる前に二神先輩は口を開き、答えを言った。

「―――そうですか」

編によって影に飲み込まれる。石遊びをやめ、自分の赤い髪をクルクルと遊んでいる編を見た。想像が付かない。―――付かないのか、そもそも、想像したくないのか。

どちらにしても、今この時は考える事が出来なかった。

「まあ、シェアリング率が高かったら影に飲み込まれる危険性は少なくなるんだけどさ、それでも用心ってな感じで髪留め指輪とかは支給されてるって事なんだ。僕は幻影とのシェアリング率には自信があるんだけど、それでも影に飲み込まれたくないから、僕はちゃんと付けてるよ。それに髪留めお洒落だし、僕の幻影に似合っているからってのもあるかな? ―――綴君の幻影、編ちゃんだってツインテール似合ってるよ。うん、可愛い」

「――よ、良かったじゃないか編。二神先輩からツインテール姿似合ってる、可愛いってよ」

「……別に。つづりから似合ってる、可愛いって言われたらそれで手前、十分だもん」

「――おい、編」

「あはは、綴君。いいよ、いいよ。綴君も編ちゃんとのシェアリング率も高いようじゃないか。――心配はなさそうだね」

「……ほんと、すいません、ははは」

俺以外の人に対する編の態度はどうにかしないといけない。このままだと、いつどんな暴言を吐くかドキドキして気が休まらない。

「……そういえば。二神先輩、さっきから制御する道具って言ってますけど、この髪ゴム、髪留め、指輪には、なんか正式名称とかないんですか?」

「うーん、なんだったけな……確かちゃんと名前あったはずなんだけど……なんだっけな。――あはは、ごめんね、忘れちゃったよ」

両手を合わせて「ごめんね」という二神先輩は完璧に女性。俺とは違うタイプだが、入学や新学年になった節目の時には「自分は男だと」説明しないといけない苦労が目に浮かぶ。

それにしても、十分に女として生きていけそうなレベルで二神先輩は悠々と立ち振る舞う。それだから、俺みたいに、未だ信じることが出来ない生徒もいるはずだ。

「――まあ、今度。機会があったら僕の幻影も混ぜてお話をしようよ。きっと楽しいものになると思うからさ。――あ、連絡先交換しよっか」

慣れたように連絡先を交換しようとスマホを取り出す二神先輩の姿に隣で髪の毛で遊んでいた編は何を思ったのか、交換しようと俺がスマホをポケットから取り出そうとする手を止め、

「――ねえ、喉乾いた」

二神先輩を睨んだ目を一瞬たりとも逸らすことなく俺に言った。

「……あはは、僕。編ちゃんに嫌われちゃったかな? それだったらすごく悲しいな……こんなに可愛い子と友達になれないなんて、一生悔やむレベルだよ」

取り出したスマホを再度、ポケットへしまい、二神先輩は鋭く刺さる編の視線を真正面に受けながら肩を落とした。

「……編……失礼だろ? 二神先輩にほら、謝って――」

「いいよ、いいよ、綴君。僕の方だって初対面にして後輩だからと馴れ馴れしかったのかもしれない。――許してほしい。それじゃ、綴君。――僕はもう行くよ。また、良かったら、今度はこんな自販機の前ではなく、お洒落なカフェとかで話そうよ。そうだ、僕、美味しいケーキを出してくれる喫茶店を知ってるんだ。今度、誘うから来てくれると嬉しいよ。――それじゃあね――――」

ニコッと、そしてポンと俺の肩を叩き、俺の横を通り過ぎる間に、編には聞こえない無色な声で、

「――編ちゃんの判断は正しかったのかもね」

冷風に吹かれたように体に寒気が走り、振り返ったが聞き返すことが出来なかった。

『なにが?』『編の判断?』『正しい?』

理解できないまま、ポカ・コーラを買い、編に渡した。冷たく冷えた缶を持った編は、「つめたーい」と、親の仇でもみるような冷たい視線をしていた事を忘れたかのように無邪気な声をあげる。

「――ほら、教室帰るぞ」

「ふーい」

弾むような編の返事は真っ青な空に敵うほどのない色で、喉を潤して満足げな、あどけない笑顔は、映える事のない地面に小さな影として映り、薄いワンピース、二つに大きくシンメトリーに束ねた赤髪を揺らしながら歩く編は、無邪気な自分の事を理解していない子供のように、  そんなふうに、俺の綺麗とまでの輝きもない、汚いとまでも濁っていない瞳に映った。


読んでくださってありがとうございます!

最近になって改めて気付くのですが、「自分好みだな・・・」と思ってしまいます。

物語を書くきっかけは、自分好みの自分の為の物語を、読みたいなと思ったことから、物語を書く用のタブレットPCをお金をためて購入したことからです。


それをなろうで投稿させていただいて、読んでくださる方がいて、

もし、僕の同じ好みの物語だな、と思ってくださる方がいたらそれはすごく嬉しい事です。


物語の構成や、文法構成など、不勉強で、読むのがつらくなったり、ストーリーが気に食わない方もいるかと思います。

でも、それはその人の感性で、感想で、

僕は僕なりの物語を素直に書いて、それを楽しいって思ってくださる方がいる限り、前にも書いたように書き続けたいと思います。


これからも、そんな僕と、僕の物語をよろしくお願いします!!

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