――初日。二人の、シスコン(後)
二十六話目(後編)を更新しました!!
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それではお楽しみください!
「おはよう、東雲」「よう、天音」
『天音』と呼んでいる城島に思う所はあるが、俺が口を出すような問題でも無い為、そこはスルーして、東雲がこの場に来たことによって、野郎だけだったこの状況が少し華やかになった。
「まだ、時間ありますけど……」
東雲はあたりを見渡し、記念品にとでも建てられたのか古びた時計台を確認すると、不思議そうな顔で俺と城島を交互に見た。
――ああ、さっきまで城島の奴、妹にデレデレでさぁ。なんて、事……言ったら殴られそうなので、
「お、俺と城島はいち早く集合しておこうかって話になったんだよ‼ な、なぁ、城島⁉」
「あ、ああ! そうだ、そうだ! ほら、ここの辺りには、目立つものなんか何もないだろ⁉ みんな、集合するときに迷ったりなんかしたら、大変だからなぁ‼ な、なぁ、十七夜⁉」
「いや、俺に再び返すなよ‼」
「べ、別にいいだろ⁉」
「ちょっと、二人とも……」
城島という男は、一度焦り出したら、とことん焦るタイプだと、この時分かった。
確かに、この場所には目立つようなものなんて、何もない。言うならば、古びた時計台があるだけで、その辺りには自由に草木が覆い茂っているだけの場所で、待ち合わせ場所をこんな所に指定した吉良先輩は何を考えていたのかと。しかし、その答えはカラカラとキャリーバックを転がしてせっせとこちらに向かって来る一人の少女の口から出る事となる。
「すみませーん。 遅くなりましたぁ」
か細く小さな声はそれでも精一杯の声量だと分かるほどに、俺の聴覚に届いた。
少女は、はぁはぁと息を切らしながらも俺たちを確認するや、早足でこちらへと駆け寄り、キャリーバッグはガラガラと、音を変えた。
「三縁ちゃん、おはよう」
「お……おはよう……ございます。はぁ、はぁ、綴さん……お、怒っていますか……?」
「え、怒ってる? 俺が――ど、どうして?」
「だ、だって……おはようって挨拶が……目付き悪くて、怒っている感じに、はぁ、はぁ」
「――ごめん、それ元からだから……全然、怒ってないから……」
――東雲、クスッと笑わないでフォロー入れてくれっ‼
「あはは、それは面白いなぁ、こいつそうゆう奴だからなぁ‼」
――いや、お前のフォロー入らないんだよ⁉ つか、それフォローになってない‼
「お、怒ってないんですか……? そ、それなら、良かったぁ」
「そうそう、全然、お、怒っていない。 むしろ、悲しんで……じゃなくて、三縁ちゃんは遅刻していないから大丈夫だからな」
「あ、そうなんですか? てっきり、皆さんもう集合されているのかと思って……せっかく、私のために近い集合場所を吉良先輩が指定してくれたのに、その私が遅刻なんてしちゃってたら――私、吉良先輩に殺されていました」
「物騒な事を普通にぶっ込んでくるけど――多分、その通りだと思うから、なんか悲しい」
だけど、吉良先輩だって、三縁ちゃんの事を考えてこの場所を指定したんだと思うと、『実はいい人だったりして』なんて思ってしまうのだが、三縁ちゃんが吉良先輩の手によって危害を加えられる事だけは俺が阻止しないと、三縁ちゃんの世話係を全うできなかったという理由で俺が吉良先輩に殺されてしまうという可能性が無くも無い為にと――いや、これはさすがに理不尽過ぎるか。
「そ、それに――綴さんは、嫌じゃないですか……?」
「え、ああ、そりゃ、三縁ちゃんが吉良先輩に殺されるのは絶対に嫌だけど――」
「それ、私が一番嫌です‼ ――いや、そうじゃなくてっ! ……吉良先輩っていうか、お姉ちゃんのせいで、私の世話係なんかにされちゃって……です」
視線を逸らし、よそよそしく三縁ちゃんは話を続ける。
「そもそも、私がこの合宿に参加しているということ自体が間違っているというのに……お姉ちゃんは『良い経験になるから』って曲げないし……それでも、皆さんは歓迎してくれて、綴さんなんて、私の面倒まで……」
「なに、気にすることなんてないよ、三縁ちゃん。 小百合先輩が『良い経験になるから』って曲げないなら、それはきっと、この合宿は三縁ちゃんにとって良い経験になるんだと思うし、俺たちだって、三縁ちゃんを歓迎しているのは確かな事だから、何も心配することは無い。それに、三縁ちゃんの面倒だなんて、別に面倒ではないんだからさ、月の友達は俺にとっても、大事な人だから、言うならばそれは容易い事の面倒だよ」
「……綴さん、ありがとうございます。 私、綴さんに迷惑かけないよう頑張ります!」
「あはは、目と口とのギャップが激しいなぁ」
「関係ないだろ⁉」
――いや、またクスって……ツボですか、東雲さん⁉
人の事をバカにする事が趣味であろう城島の笑い声が俺の返しの後に途端と消え、その笑い声の代わりとなるのか重々しいため息を吐いて見せた。
当然、俺の返しにため息を吐いたという訳ではない事は分かっている。何故ならば、ギャップがどうこう言われた時に俺へと向けられていた城島の視線はため息を吐く直前に、俺を通り越しある人物へと、向けられていたからであって、その人物は城島の笑い声を重々しいため息へと変えてしまう程の人物が誰であったのかということも俺は、コツコツとじりじり暑い地面を堂々と鳴らしてその人物が、こちらに向かって来るその間に見なくても分かってしまったのであった。
それは日頃、人と人の付き合いがあったからこそ分かる事で、同時に俺は、人と人の付き合いの中にちゃんと混じれているのだと、安堵した。
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それと私事で申し訳ないのですが、高校三年のこの時期は就職活動の為で忙しく、少しの期間だけ連載を中止しようと思っております。
いつも読んでくださっている方々には感謝しております。
少しの期間なのですぐに復活すると思いますが、それまでの期間、よろしくお願いします!!




