――夏休み。それと、始まりを告げる夢。
第三章
二十四話目更新しました!!
いつも読んでくださっている方、ありがとうございます。
それではお楽しみください!
――夏休み――
と言うのは、学生にとって楽園であり、修羅の道でもある。
遊べば遊ぶほどに、いばらの道はその距離を増し、遊ばなければ、距離は短くなるが、何か物足りなさを感じてしまう。
釣り合いを大切に計っていかなければ、結果何も残らない充実したとは到底言えない夏休みになってしまうのだ。
暑さが増し、外に出るのも嫌になるこの期間。どうやって、充実した毎日を送ろうか。そうやって、クーラーにあたり、テレビでも見ながら考えるのだって、考えようによっては充実したと言える。
が、そんな事を夏の課題で出される作文に書ける訳もなく、嘘ばかり書いてきた。
その嘘は、決してばれることなく、自分の中で残るだけで、周りは楽しそうに思い出話をしながら、こんがりと焼けた肌を輝かせている中に、ポツンと真っ白な俺がるだけで夏というものを強調させていたと思う。
しかし、それ以上に腐っていた小学時代最後の夏休み後、相変わらず真っ白な俺に唯一話しかけてきた女の子がいた。
その女の子も暑さで溶けてしまいそうなほどに真っ白で脆くて、感情の読み取る事の出来ない瞳に俺は引き込まれ、女の子が言う言葉を淡々と聞いているしかなかった。
『その瞳は、何を見てきたの? ――君って、面白いね。 なんだか、見ているこっちがこの世界で生きる事にバカらしく思えてきちゃう。 ――あと、君のウソって儚いよ』
始めは、頭のおかしい奴が絡んできたのかと思っていた。
変な啖呵を切った女の子はそれ以降、話しかけてこないのだと、一度きりの挨拶だと――
しかし、違った。
『おはよう。――今日はその瞳でこの世界のどんなところを見ていこうか。 正義? 悪? 偽善にしようか……いや、今日は君のウソを見てみようか』
日を追うごとに、本当に頭のおかしい奴だと俺の中ではただ、その情報だけが蓄積されていき、
それからは、訳の分からない事を囁かれる日々が続いていった。記憶が正しいなら一人で給食を食べていた俺の横に来てわざわざ、囁きに来たことだってる。
――こんな奴と、卒業するのか。
なんて、ことは無かった。
その女の子は、卒業前に転校してしまった。
思えば、また一人になってしまった。と少しの寂しさをあの囁く声に思っていたのかも知れない。
『あたし、来週ぐらい卒業前にこの学校を転校するの。 君だけには一足先に教えてあげるよ。 あ、理由なんてないから。 君がこの世界で生きているようにね』
『あたし、三日後にはこの学校にもう、二度と来ないんだよ。 なんだか、変な気持ちだね。君は、その……いや、なんでもない』
『あーあ、もう二日後だよ。 なんだかんだで、最後を迎えるとなると惜しくなるものなんだね。 ここの給食も、君と食べるこの給食も無くなるんだ。 終わりの来ないものは無いってドヤ顔で先人が言っているけど……いまなら、そのドヤ顔も許してあげられるかも』
『……良くここが分かったね。 結構この場所気に入っていたんだ。 ここら見る夕日は綺麗だったよ。 ――今日は土砂降りの雨だけど……ね。ほら、君はもう家に帰りなよ、こんな大雨にうたれちゃ、風邪ひくよ。 ――え、あたしは、もう少しここに居て、雨が上がるのを待ってる。 明日の夜にこの街を出るの、だから、ここから見える夕日は今日しかないから……』
――違うだろ。 そうじゃないだろ。
『みなさんと一緒に、卒業出来ないのは寂しいけど、ここでの思い出は忘れません。 ありがとうございました。』
――それが望むことか。 それが望むことなのか。
『今日の夕方まではこの街に居るので、最後のこの日を満喫したいと思います』
――違う。 別にそうゆうつもりじゃない。 だけど、このままじゃ、それも――。
『それでは、みなさん……さような――って⁉』
――違うだろ。
『ちょ、ちょっと⁉ ど、どこに行くつもり⁉ ――せ、先生が、追ってきてるよ!』
――見せたい。
『……はぁ、はぁ、はぁ。 ちょっと、は、走り過ぎでしょ……手、放して……はぁ、はぁ』
――俺が、この瞳で。
『――一体、ここはどこ……って……』
――見てきた、少しを。少しでも、伝わるなら、それは俺からの――。
『……綺麗』
――儚くも、小さな想いで。
『また……綺麗な夕日が見られるなんて……これが君からのプレゼント? ははっ、君らしいね、全く。 夕日が見られちゃうだなんて、結構走って来たんだね、あたしたち。 はぁ、君は先生に怒られ、あたしは親に怒られるのか――本当に素敵なプレゼント……。 あたしって、優等生だったでしょ? 先生からも怒られることなく、成績も優秀だし、友達も君と違って多い。 ……それだから、両親からの期待も大きくて、もう後戻りできなくて――あたし、きつかったんだ。 本当を出せない、自分の中に居る本当の自分が、出たいと出たいと主張している事すら聞こえないフリをして、嘘で纏った偽物で息をしていたって考えると、なんだか、もうバカらしいね。――あたしは、君が羨ましかった。分からないけど、惹かれるものがあった。
今となっては、それを言う事すら、反則になってしまうんだけど……ね。 ほら、見て。 夕日が沈みかけているよ……後を待っているのは飲み込むだけの夜だけ。それじゃあ、最後の別れだね。――よし、明日から君はその瞳で子の世界の何を見ていく? 正義? 悪? 優しさ? 寂しさ? 希望や絶望? 有限と無限? ――その瞳なら、どんなものでもきっと、綺麗に映るよ。見たいもの、見たくないもの全て。 ――ねえ、あたしは、君のウソを見破っていた。
君って、ウソ付くの下手くそだよ。 ……だって、叫んでいるもの。 ちゃんと、聞こえているんだよ。 寂しく青い、でもどこか温かい君の歌が。 あたしはちゃんと、知っている。君をちゃんと知っている。 ――だから……だからさ、君も……あたしの……あたしの、儚くも小さい、ウソを見破ってよ……。 答え合わせは、いずれ出来るから。その時、までに……ね』
「ゔ……重い……」
いつものアラーム音をBGMに目が覚めたが、起きる要素としてはこれだけではなかった。
「……編……重いから、起きて……」
「うーん、それ以上、湯船には……入りません……よ……むにゃむにゃ」
「ど、どんな夢見ているんだよ……」
体の上に毛布のよう覆いかぶさる編、暑いから毛布を被せていなかったのに、これじゃあ意味がない。
――いや、なさすぎる。
「――ほら、編……起きなさいって⁉」
乗っている重さにもう一つ、重さが加わった。
「うー、これはここにおいて、置いてください。 あ、はいはい。 そこです、はい。 えっと、それじゃあ、この荷物は、そこに置いてもらって……はい、荷物はこれだけですので、はい。 ありがとうございました。ああ、そうなんですよ、新婚なんです。もうこれからの新婚生活が楽しみで仕方がないです。え、旦那さん? ああ、いますよ。 紹介しましょうか。
ねえ、ちょっと、いい? 旦那さんを見たいって言うから。はい、こちらが旦那さんであって、月の……月の……お兄ちゃんです! ――むにゃむにゃ」
「いや、お前ら、そんなにこのベッドじゃ変な夢しか見られないのか⁉ ――いや、確かに俺も変な夢を見たけど…… じゃなくて、『むにゃむにゃ』があざといわっ‼」
カーテンから射す日光が、一日の始まりを告げ、これから始まる物語を照らすように――
最後まで読んでいただきありがとうございます。
第三章は、綴たちの夏休み、合宿といった夏をイメージした内容にしようと思って執筆しております!
暑い日々が現実でも続きますが、夏にバテることなく僕も頑張っていきたいと思います!
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次話は八月十七日に更新予定ですのでそちらの方もよろしくお願いします。




