――好き。でも、そっちの好きでは(後)
二十三話目(後編)を更新しました!!
いつも読んでくださっている方、ありがとうございます。
それではお楽しみください!
早く帰って、プリンでも渡して、空腹を感じている月に詫びを入れようと、完璧な作戦だったのに、この現状がそれを阻止し、また複雑になり始めようとしていた。
「ぶつかってしまった事に関しては、こちらの不注意もあるので頭を下げて謝った健気で可憐で素直で可愛いお利口さんな楓ちゃんに対して、その目付きはどうゆうことでしょうか?」
「……は、はあ。 目付きに関しては、こちらの不注意で……すみません……はい」
――一言で言わせてもらうと、『訳が分からん。』
普通に歩いていて、普通に『ここ』へ入ろうとしたところ、普通に横から歩いてきた金髪の女の子にぶつかり、普通に謝られた所から、普通ではなくなった。
自分の事を『楓ちゃん』と一人称「名前」+「ちゃん付け」のこの時点で、もうすでに痛いのに、さらに『健気』+『可憐』+『素直』と校風自由な学校の校訓みたいに言い放ったその容姿は確かに、健気で可憐で素直だと思うが、明らかに年下だという事と、最近、よく目にする金髪姿にどこか良い印象は持てない。
「いいですか? 『目は口程に物を言う』ということわざがある通り、目付きにはその人の気持ちが表れているものなんです。 ……あれ、ちょっと、瞳孔開いていませんか、なんです、なんです、初対面なのに可愛い可憐ちゃんに一目ぼれしたんですか? やめてください、セクハラですよ?」
「いや、開いてねーよ」
――確認できんが。
「それに何ですか、可愛い妹さん(可憐ちゃんには劣るけど)が隣にいるのに、ナンパするって……なんです、なんです、女の子に飢え過ぎて我慢の限界ですか? 止めてください、みっともないですよ?」
「カッコ内、ちゃんと聞こえてるから⁉ ――それに、妹じゃなくて俺の幻影だ!」
金髪無礼少女のペースにまんまと飲み込まれているこの緊急事態に、痺れを切らしたのか、隣にいた編が一歩前に出て、可憐に金髪をなびかせる少女と真っ向面に向かい合った。
――もしかして、俺の代わりに……。
使えない俺をかばってくれるのか、編の勇敢さ、優しさに片足ぐらい浸かろうとしていたが、その勇敢さ、優しさの湯船の栓は、次の編の言葉で抜かれてしまう。
「手前の方が、可愛いしっ‼」
――そこで張り合うのかっ。
それに編、こうゆう奴には言ってはいけないワード第一位が正しく――
「はあ⁉ なんです、なんです、それはないです‼ 可憐ちゃんがこの世界で、もっとも楓なんだから!」
「売り文句が、名前になっているぞ?」
「――っ⁉ ど、動揺してしまいました。 まさか、楓ちゃんの目の前で堂々と自分の方が可愛いと言えた人……っていうか、幻影というか、初めてだったもので――なんです、なんです、そこは褒めてあげますよ?」
オホホと、貴族のようなそぶりを見せる金髪無礼少女は動揺したと言ったが、すでに落ち着いていて、自分の世界を炸裂させ、
編は肩をプルプルと揺らし、後姿でも分かるほど悔しがっているようだった。
「だ、大丈夫――」
今にも泣き出しそうな編に声を掛けようと腕を伸ばした途端、
「お、おい! 金髪無礼少女っ! て、手前の方が、か、可愛いに決まっているだろっ! そ、それに……か、可愛いなんて自分で決める事ではないぞ! 他人から可愛いって言ってもらえて初めて可愛いんだっ! ――誇らしく、自分で『可愛い』なんて言っている時点で、三流の可愛さだ! ど、どうだ、金髪無礼少女っ!」
――さすが、俺の幻影。 ていうか、心繋がってないよね?
編は勝ち誇ったように、胸を張っている。
「だ、だれが……金髪無礼少女ですって⁉ ――せ、赤髪ツインテールロリには言われてくないわ! そ、それにね! 勝ち誇ったように胸を張っているけど、その哀れな胸を早くしまいなさいよ! 壁よ、壁! なんです、なんです、三流なのはそっちではないのですか?」
「うぅ……」
ゆっくり振り返る編の表情は、半泣きで、
「ほら、もういいから、こっちおいで」
テクテクと、壊れたロボットのような足取りで、俺の体にバフッと蹲った。
「――や、やはり。 真の可愛さが勝つのよ‼ どうです、どうです、敗北の気持ちは?」
嘲笑い。その言葉がマッチする光景を目の前に、それに敗北した編をダイレクトで感じている今に、一言、ガツンと言ってやろうと、息を整えた時、
「ガツン」
と、音が聞こえ、先ほどまでの嘲笑いが、唸り声へと変わっていた。
「なにしてんだ……全く」
「お……お兄ちゃん……い、痛い……」
頭を押さえる金髪無礼少女に声を掛け、一発、喝を入れた『お兄ちゃん』と呼ばれたその男は、こちらに気付き、ぺこっと一礼したが、すぐさま頭を上げ、多分俺と同じ表情をした。
「か、十七夜⁉」
「き、城島か⁉」
――嘘だろ、こんなことあるのか……。
なんと、金髪無礼少女の兄は金髪ピアスだったのだ。
兄妹して、金髪の悪印象とは――。
「か、十七夜がなぜ、ここに……?」
「お、俺は『ここ』に寄ろうとしていて」
「いや、だから――ああ、そうゆうこと」
「城島こそ、何しているんだ――っていうか、お兄ちゃんって……」
「俺は……『ここ』でバイトしているからな――そ、それに、こいつは俺に妹の『楓』だ。 多分、お前たちに迷惑でも掛けていたんだろう、それは本当にすまない」
「ちょっと‼ お兄ちゃん! 楓ちゃんは迷惑なんか掛けてないよ‼ その目付きの悪いセクハラ男と、赤髪ツインテールロリがいじめてくるんだよっ」
「俺ら、悪名高いな‼」
「はいはい、分かった分かった」
金髪ピアスは金髪無礼少女の言い分を慣れたように流す。
「もぉ、お兄ちゃんったら‼ いっつも、楓ちゃんの言う事は興味なさそうに、テキトーに流すよね! なんなの、なんなの、お兄ちゃんは楓ちゃんの事、嫌いなの?」
「――十七夜、悪かった。今日の事は、他言しないでくれ。 ――それと今日、委員会の仕事に行けなかった事も、申し訳ない。 バイトが入っていたから抜けられなかった……天音にはちゃんと伝えてあるから、そうゆう事で。――それじゃあ、な」
「もう! なんで無視するの‼」
駄々をこねる、金髪無礼少女の手を無理やり引いて、金髪ピアスは帰って行った。
「……あいつも、いろいろと大変なんだな……」
容姿と態度から、ちゃんぽらんな奴かと思っていたのは、失礼だったのかもしれない。
個性的な妹を持ち、遅くまでアルバイトをしてと、俺は金髪ピアス――いや、城島の本性というものをこれから少しずつ、理解していけば、その距離は縮まっていくのかも知れない。
『ここ』に寄り、落ち込んでいる編に、少しでもと、希望を託し豆乳と、メールはしたが、怒っているであろう月に、いつものより高いプリンを買って帰り、この日を終えた。
――今日は、とても長い休日だった気がする。
そして俺はこれから、幻影というものが、この世界で、どうあるべきなのか、身をもって考えさせられる事態が、いずれはやってくるのだろうと、片隅に思っていたのだが、それが近くに顔を覗かしていたとは、思いもしなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
この話で第二章は終わりとなります!
今までお付き合いいただいてありがとうございます!
次からは第三章!
夏休みの合宿をテーマにした内容にしようと思っています!
ぜひ、これからもお付き合いいただけましたら幸いです。
次話は八月十五日に更新予定ですのでそちらの方もよろしくお願いします!!




