――好き。でも、そっちの好きでは(前)
二十三話目(前編)を更新しました!!
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「編は……東雲の事――どう思っているんだ?」
「……手前? うーんと、手前は……好きだよっ。あまねちゃんの事」
「――そうか……俺も――好きだ」
――本当を俺らに見せているかは分からない。けれど、嘘ではない何かは感じている。そんな東雲を俺は、尊く尊敬しているのだ。
「ど、どゆこと⁉」
編の声は大きくなり、ユラユラと俺の体を揺さぶる。
「ちょ、どうしたんだよ、急に――」
理解した俺は、言葉を訂正する。
「いやいや、好きって言っても、あれだからな。――あの……仲が悪かった友達が、テスト中消しゴム忘れた時に、こそっと『ほら』って貸してくれた時の『――ああ、好きっ』って感じの好きだからな」
「いや、もっとわかんない⁉」
もぉ、もぉっと編の機嫌は母さんと父さんに近づくにつれ悪くなっていく。
「……尊敬しているんだよ、東雲の事」
「――尊敬……?」
「ああ、そうだ――尊敬しているんだ。 ……だって、カッコいいだろ? 東雲って。勇敢で正義感もあって、しっかりしているし、分け隔てなく学校の奴らと仲が良いし、料理だって美味い。あんな完璧な人間、早々出会う事はないはずだ。 誰もが魅力に惹かれる存在だよ」
「……でも」
「――ラブじゃなくてライク。それなら納得してくれるか?」
「――うーん……分かった」
編の頬はぷくっと膨れている。
「――ほら、着いたぞ」
『十七夜』と彫られている墓石の前で、俺と編は立ち止まった。
サァーと乾いた風が俺らを歓迎しているように吹いている。
「ここに、つづりのお母さんとお父さんがいるの?」
「あぁ、そうだ。 ここに母さんと父さんはいるんだ。――挨拶しようか」
うん、とコクリと頷き編は、母さんと父さんの前に立った。
パンパンッと召している着物をはたき、ペコッと一礼して、編は止まった。
それから一間空いて、編はこちらを振り返り、不安そうな表情で、
「ちゃんと出来たかな……?」
「うん、大丈夫――母さんも父さんも歓迎してくれてる」
――そうだろ。母さん、父さん。俺は間違ってないんだよな。 母さんは、俺が幻影とシェアリングして、生きていくことを望んでたんだよな? 父さんは幻影の研究者として、俺がシェアリングするのを楽しみにしていたはずだろ?
見えるだろ、母さん、父さん。
こんな可愛い女の子が俺の幻影なんだ。
何を俺に課せて、何を俺に求めて、何を俺に――。
分からないんだ。
「――つづりも挨拶した?」
「あぁ、うん。 元気そうで何よりだって――可愛い幻影を召喚したんだなって言ってる」
「えへへ」
微笑み抱きついてくる編の頭を俺は優しく撫でる。
もう会えない、もう話せない母さんや父さんに求めたって、意味が無いことは分かっている。
俺は答えが欲しい。 自分じゃ求めることの出来ない先を決めて欲しい。引かれているレールの上を走り、周りを優雅に眺めていたい。
中学時代の思考回路は、これから通用しないことも分かっている。
編の呼吸を体で感じる今は、何を目指していけば良いのか、何を想えば良いのか、分かるような気がするーー。
「母さん、父さん――元気でな。 また会いに来るから」
聞こえていなくても、それで良い。
「――帰るの?」
「あぁ、帰るぞ。 家で月がお腹をすかして待っているだろうからな……『ここ』によってプリンでも買って詫びでも入れておかないと――月、怒ったら怖いから」
「ここ?」
クエスチョンマークを浮かべる編の手を引いて暗い墓苑を後に、
吹く風が、『またおいで』と言っているかのように優しく俺らを撫でた。
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