――主観変更。編(あみ)の編(へん)。
記念すべき二十話目更新です!?
前後ありません。
自分でもここまで更新できるとは思ってもみませんでした。
それでは、お楽しみください。
幻影の存在価値というものについて――手前には分からない。
でもそれは同時に、手前自身の存在価値、理由も分からないということになってしまう。
だから、否定しておきたい。
手前には今、存在価値、理由というものがある。
干渉することが出来ない暗闇から、目指すことすら許されない空間から、手前は召喚された。
手前がどんな姿をしているのか、どんな声をしているのか、そんな自身の事も分からず、名前すらなかった現状から、ある男によって手前は救われた。
『今日から、お前は編だ‼』
見た事の無い空間に、見た事の無い生き物、知っていることはそれが人間だという事だけ。
黒髪クセ毛で、目付きは……所見では怖かった。
手前を見て、驚いていたそんな人間。
――震えた。今まで感じた事の無い感情に、自分の存在が出来た。
その男と歩くと、心が弾んだ。
暗闇から救ってくれた、手前の恩人。
今、目の前に見えているものすべてが眩しい。何事も新鮮で、綺麗に映る。
この世界の理は知っている。
人間と幻影が共に協力し合って生きていく、そんな世界だと。
不思議と生命を共有しているのに、お互いにお互いの気持ちは分からない。
男が手前の事をどう思っているのか、手前が男の事をどう思っているのか。
伝わる事の出来ないこの想いが――楽しい。
分からない事があるからこそ、想える事だってあるのだと、その逆に分かってしまう事があるからこそ、想えない事があるのだと、鏡に映った手前を見て、考えをリセットさせた。
容姿と思想が合っていない。
そんな悟った事を口に出して言うのならば、成長が足りなかったから。
だから、決めた。
左脳で動くのではなく、右脳で動こうと。
男の照れた顔は好きだ。温厚ではない目付きも好きだ。手の温もりも好きだ。
相応しい幻影になりたい。
天秤に乗せ、釣り合いのとれる相応しい共有者として、手前は生きていきたい。
『編』
名前の由来は分かっている。
関連性を付けないといけないという決まりも分かっている。
――編綴。
手前の想いを綴ったら、何ページになるのだろう。
この世界で過ごす時間が長くなるほど、ページ数は増えていって、広辞苑、六法全書など比にならないほど、綴じる事すら難しくなることに違いない。
手前の力さえあれば、男の気持ちなんて簡単に操れることが出来る。
手前が損することがないように、この世界を廻すことだって出来る。
せっかく、召喚されたのだ。
楽しく生きなくちゃ、意味がない。
――でも、そんな事はしない。
冒険家は旅をする。目的地を目指して冒険する。しかし、難なくたどり着けたのなら、それは冒険家の旅だと言えるのだろうか。
冒険家は思うはず――物足りないと。
物足りない事なんて、手前はしたくない。
もがいて、あがいて、そこに得られるものが無いとしても、過程が有るのと無いのは話が違う。
「おーい、編。 体調はどうだ?」
「うん、落ち着いてきた。 つづりとつっきーのお陰だよ、ありがとう」
「そうか、そうか。 ――ところで月はお風呂か?」
「うん、そうだよ?」
「なら、タイミングは良かった。 ――ほら、プリン買ってきたから」
男はスーパーの袋から市販で売られているプリンとプラスチックのスプーンを手前へと渡した。
「恥ずかしながら、金欠でな。 ――編の分しか買ってきていないんだ。 食べるなら今しかないぞ? ――そのプリン、月も好きだから」
手前は体を起こし、男からプリンとスプーンを受け取る。が、
「――つづり」
受け取ったそれを男へ差し出した。
「遠慮はするな、俺の事はいいか――あ、食べさせろって事ね……」
皆まで言わなくても分かるらしい。
これまた不思議な事だ、想い通っているわけでもないのに。
男は一人で呟き、プリンの蓋をビリっと開け、スプーンを包んでいる袋を剥いだ。
瞬間、甘い香りがほんのりと部屋に漂った。
一口分、スプーンですくい上げ、男は手前の口元まで運ぶ。
「――ほら、口開けて」
含んだと同時に甘さは広がり、香りは鼻を通る。
「――うだ、 美味しいか?」
「うん」
――美味しいに決まっている。
もしも、手前に味覚が無くともその味はちゃんと『美味しい』と言えたに決まっている。
こんな幸せな事はない。
男の存在は、プリンが無くなっていくと共に大きくなっていく。
最後に食べたカラメル部分が少し苦かった。
でもそれは、男と手前の関係を表しているようなもので――
「あ、お兄ちゃん。 帰ってきてたんだ、おかえりなさい」
「あぁ、ただいま。 ――早く服を着るんだぞ? 次は月が風邪を引くなんて事が起きたら、お兄ちゃん、耐えられないからな」
「はーい、分かってるよ。――てか、なんか甘い匂いしない……? プリンみたいな……」
「え? ――そ、そうかぁ? 甘い匂いなんてしないけど……なぁ、編」
どうしてこうも、嘘が下手くそなのだろうか。好きな妹に嘘をつくのを体が拒んでいるのだろうか。
――でも、そんな姿だって。
「つづりが、プリンを買ってきてくれたの」
「――編さん⁉ 約束が――」
「えぇ、編ちゃんだけにぃ! ずるいよ、お兄ちゃん! 月の分も買ってきてよぉ! 」
風呂上がりタオル一枚の妹に抱きつかれ、強請られている男の表情は、困惑とまんざらでもなさそうだった。
ほのかに残る甘さとカラメル苦さ。
各々が主張し合っていては、美味しくない。
溶け合ったその時、その瞬間が一番美味しいんだと――
男は財布を涙目で確認し、それを尻ポケットへと突っ込み、外出する準備をする。
「――ほんと、編らしいな」
そして、男は優しく微笑んだ。
――そうやって怒らないところが手前を。
「それじゃ、行ってくよ」
「月の為にありがとぉ、お兄ちゃん!」
「はいはい、月のためならどこまでもってな――」
――そうやってみんなに優しいところが手前を。
手前は、きっと――多分。
――いや、そうなのだろう。
手前は、我が儘だ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
昨夜更新するはずだったのですが、
pcの調子で更新することができませんでした。
すみません。
この頃は暑い日が続くと思いますので
お体にお気をつけください!
僕も、汗たらたらで頑張ります!
次話は、七月二十七日ですので、
そちらの方もよろしくお願いします。




