――自重自愛。それは記憶を掻き立てる。(後)
十八話目(後編)を更新しました!!
いつも読んでくださっている方、ありがとうございます。
それでは、お楽しみください!
一人の登校は気兼ねなさ四割、寂しさ三割、残りの二割は、
「よう、十七夜。 ――お前もこの道通るのか」
そんな展開が待っている。
「――おはよう。今日は梅雨だって事を忘れてしまうほどの晴天だな」
金髪……よく見たらピアスも開けているのか、そんな典型的なヤンキー容姿の男は、俺と足取りを合わせて歩き始めた。
「どうだ、幻影の様子は?」
「あぁ、熱は下がっているけど――って、何で知ってるんだ?」
編が体調を壊し家で大人しくしている事は、俺の数少ない友達にしか言っていない。
したがって、名前も教えてもらっていない金髪ピアスに言った覚えがなかった。
金髪ピアスは綺麗に染め上げている髪、横髪を耳にかけた。
「――有名な話だぜ? お前みたいな召喚者の情報なんてもの生徒内では、誰かと誰かの恋愛事情みたいなもので、すぐさま広まっていくんだよ」
――ブロックまで入れてるのか。
「――ほんと、典型的だな」
「――典型的?」
「いや、なんでもない。――ていうか、恋愛事情みたいに広まっていくのか……」
その例えは痛いほど分かる。
片想いに勇気を振り絞り伝えてみるが、叶わぬ事でダメージ蓄積。
そこまでは、仕方がない。
告白には切っても切れない結末なのだから。
しかし、大事なのはその後の事。
ヒソヒソと聞こえてくるのだ。
――いや、ヒソヒソならまだ良いか。
「どうしたぁ、そんな苦い顔して 」
「――君の例えが具体的過ぎてな」
「失恋話って訳か。――そんな寝起きみてぇな目付きしてんのに、恋してたんだな」
「……何か勘違いしてないか?」
「――勘違い? そんなのしてる訳ねーだろ――」
失礼ワードを悪気もなく言う金髪ピアスは言葉を止めた。
それから変な間を空けて、金髪ピアスは驚愕したように、
「お、お前が振ったのか……?」
「さっきから、失礼すぎないか?」
そう、金髪ピアスの言う通り淡い告白を振ったのは俺の方。
つまり、告白されたのだ。
「いやいやいや。今の流れからだと、お前がテンパりながらも、言葉を噛みながら、意中の相手に想いを伝えて、無残に惨敗。次の日、その無惨な結果がクラス、学校中に広まっていて、息苦しい学校生活を謳歌したって事じゃないのかぁ?」
「だから、その逆だ」
金髪ピアスに、詳細を説明させて申し訳ないのだが、金髪ピアスが口早に言ったことの逆であるのだ。
しかし、今考えたら惜しい事をしたのかもしれない。
当時クラスでも可愛いと言われていた女の子が俺みたいな人間に告白をした。
――俺みたいな人間には、そんな女の子からの告白を断る理由なんてないのに。
『ごめん』
その一言で、俺は終わらせ、女の子は、
『そっか』
動揺することも、理由を聞くことも、俺自身に深入りすることなく、そっと微笑むだけだった。
蝉の鳴き声がうるさかった中三の夏。
俺の答えを聞いて帰っていく女の子の背中をただただ眺めているその時は、先までうるさかった蝉の声が消え、世界中の時が止まったかのような、女の子の姿が見えなくなっても、俺は世界の理が壊れたその場所から離れることが出来なかった。
「――物好きも居たもんなんだなぁ」
「……」
雨上がりの田んぼ道を男二人で歩いているこの現状に、そして言われたことがその通り過ぎて言い返す事が出来ない状況に、俺はふと思い出した。
「――そう言えば、きん……君。影倫では大丈夫だったのか?」
――金髪ピアス。危機一髪回避。
「え、ああ。――ちょっと注意されたぐらいだったから、全く問題ない。 ていうか、そっちこそ大丈夫なのか? 影倫の委員長さん、あれでちゃんと務められんの?」
「どういう事だ?」
「いや、お前が『風紀委員長みたいな人は影倫にいない』みたいなこと言っていただろ? でもまあ、それでも少し構えて影倫室入ったわけよ。――そしたら、なんだあれ。 優しい近所のお姉さんかと思ったぞ」
「――あぁ、そういうこと」
初めて会った時、俺だって同じ印象を抱いた。
「幻影倫理取締委員会っていう、厳かな名前付けてっから、委員長は額に切り傷でもあるのかと思ってたわ。――お前達は不安じゃないのか、あれが委員長で」
金髪ピアスは、その容姿から想像できないほどの心配な表情で俺を見た。俺はそれに、戸惑いながらも、田んぼに溜まっている水が日の光で反射して眩しいのも我慢して、隣を我が道の様に堂々と歩く金髪ピアスに目を合わせ、分からなくもない影倫の委員長についての印象、不満を否定するべく、口を開こうとしたその時、金髪ピアスは大きくため息を吐き、表情を少し和ませた。
「まぁ、いいかぁ。 ――よくよく考えたら、俺には都合が良い事だしな」
「――都合が良いって……懲りずに、これからも影倫に迷惑かけるつもりか?」
「迷惑かぁ――そうだな、かけるかもな」
「おいおい」
ここまで真っ直ぐ言われると、清々しい気分になってしまう。
さすがに温厚な性格の幻影倫理取締委員長も数を重ねられたら堪忍袋の緒が切れるだろう。
あの人がブチ切れたり、誰かに大声を荒げ罵倒する姿が見られるのであれば、それは是非ともこの目に収めたい。
が、その時は死人が出てしまう時で、
あの人がブチ切れ本気を出せば、暴れ牛のような風紀委員長など比べものにならない程に、
事態は収拾つかなくなる事だろう。
――何となく分かるのだ、あの人は隠していると。
金髪ピアスとの登校も終わりが見えてきた。
「どうしてこの学校が『悠ヶ丘高校』って名付いているのかをお前は知ってるか?」
「――いや、知らない。 校訓は確か、『自重自愛』だった気がするが、何か関係しているのか?」
「どうだろうなぁ? ――俺も知らんからな」
「なんだよ、自慢したそうに聞いてくるものだから、知っているのかと思ったじゃないか」
「はっはっは、自慢したそうに聞こえたか……それなら、それは正解だ。――一つ自慢しようか。俺はこの高校の名付けの由来は確かに知らない。だがな、俺がこの高校へ通っている理由は知っている。俺にとって、それがこの高校の由来で、それ以上の事は考えない。――それだけだ」
「――そうか……? いや、そうなのか……」
何とも厨二くさい事を堂々と言える奴だなと思うよりも、そんな厨二くさい言葉ですら自分の信条を貫いているように聞こえてしまう金髪ピアスの声色、喋り方に俺まで納得させられ、共感してしまった。
誰かが磨いたのだろうか、苔が邪魔して綺麗に見える事の出来なかった、
『悠ヶ丘高校』
今は、それが綺麗に輝いて俺らを迎え入れた。
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次話は、七月十八日ですので、
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