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読まれる日常と、読む非日常。  作者: 金木犀
弐:これから始まりを告げる為に幕が上がる。
25/46

――思考回路。本気か、冗談か。

十五話目を更新しました!!

この話は前後ありません。


それではお楽しみください!

店内はわりと涼しい。

外とは違う落ち着いた感じの内装に、お客の数だって俺ら三人を含めても二桁はいっていない。

この店がよっぽど不味いものを提供するのかと言われたら、そうではないと言える。

出されたコーヒーは、俺の未熟な味覚でも美味しいと言えるほどの仕上がりだった。それならば、なぜこの店の客数がこれほど少ないのか。

それは、この店がよっぽど入り組んだ所にある、常連さんしか寄らない隠れた名店であったからである。

『いらっしゃい、瑠衣君』

ペコっと礼をして入店した二神先輩に店主は『瑠衣君』と落ち着いたトーンでそう言ったという事は、二神先輩もここ、隠れた名店の常連さんだということなのだろう。

『いつものを、三つ。――いや、やっぱり二つで。編ちゃんはクリームソーダでいいかな?』

そして、俺と二神先輩は「いつもの」を、編は「クリームソーダ」に舌鼓を打っていた。

「ところでさ――」

お洒落なカップを静かにコースターに置き、二神先輩は口を開いた。

「――なかなかタイミングが掴めなくて言えなかったんだけど、編ちゃん。その着物似合っているよ、すごく可愛いね。――綴君が、選んでくれたのかな?」

「……ううん、手前が選んだ」

「おお、編ちゃんが自分で選んだんだ。うん、センスがあるのかも知れないね。――ね、綴?」

「え、ああ! そ、そうですね、あると思いますよ、センス」

いきなり振られたので、口に運ぼうとしていたカップをコースターに上に置き、慌てて答えた。

二神先輩は、編との会話が出来て嬉しかったのか、ニコニコしながらまた一口、コーヒーを飲んだ。

「うんうん。なんだか、綴君たちを見ていると一昔前の僕を思い出すよ」

「……一昔前ですか?」

「そうそう、僕が幻影を初めて召喚した日の事」

「に、二神先輩も初めて召喚した時は、緊張していましたか?」

「そりゃ、僕だって緊張ぐらいしたさ。もう、手足は震えていたよ。――だって、考えてみてごらん? 今まで自分は自分一人だったのに、召喚するとなると自分は二人になるんだよ。変な感じだと思わないか? 周りの先生たちは、当たり前のように幻影の授業をして、周りの世間だって当たり前のように幻影を使って生きている訳で、その当たり前にいざ、自分も入ろうとしている境目の、その時点では世間からみた僕は当たり前の事じゃなくて、でも僕から見た世間はそれまで当たり前の事じゃなかったんだ。――異界の土地へ行くような感覚だったよ」

「――二神先輩はいつ幻影を召喚したんですか?」

「えっと、それは国が定めている通り、中学生の入学式の時だったかな?」

「ああ、そうですか」

――中学生にもかかわらず、そのような思考回路を持っていた二神先輩の卒アルが見てみたい。

可愛らしい容姿で、流暢に出てくる言葉の数々に当時の友達とやらはついて行けたのだろうか。

小学時代、友達と呼べる人間がいなかった俺が、中学時代、幻影を召喚出来ないぐらい精神状態が不安定だった俺に、声を掛けてくれた人間がいるように、物好きがいたのかもしれない。

「綴君は、高校からなんだって?」

「あ、はい。そうなんですけど……俺言いましたっけ?」

「いやいや、綴君の事は結構有名でね。上の学年でも綴君の話がたまに出回っているんだよ」

「ま、まじすか……」

「あはは、そんな不安そうな顔しないでよ。別に、綴君の噂を聞き付けたからって、こらしめてやろうって先輩はいないからさ」

「それは良かったです。――てか、こらしめられなくちゃいけない理由は無いんですけどね」

「……いや、それがあったりするんだよ」

「ま、まじすか⁉」

あまりのことに、ついつい前のめりで聞き返してしまった。

「まあまあ、落ち着いて。……えっと、綴君は影倫に入っているんだっけ?」

「ええ、まあ、クラスメイトの女子に誘われて入りました、臨時ですけど……でも、それと俺がこらしめられるのとなにか関係があるんですか?」

「うーん、影倫に限られることじゃないんだけど……やっぱり、生徒を取り締まる委員会っていうのは、嫌われたりするんだよね。他に風紀委員会とか処罰委員会、総括委員会だって、一部の生徒が毛嫌いしている傾向にあるんだよ」

「……でも、その委員会がなかったら、生徒を取り締まるだけではなく、生徒を守ることだって出来なくなるっていうのに――」

「確かに、綴君の言う通りなんだけどね。各委員会があるからこそ、校則に則り安全で安心な高校生活が送れているって言う事を自覚している生徒が少ないんだよ」

「うーん、なんだか難しいっすね……でも、こらしめられるのだけは、嫌ですからね?」

「あはは、僕が綴君の立場だったら、同じ気持ちだよ」

二神先輩は空になっているカップを机の隅に置き、笑った。

俺は、一口分残っているコーヒーを飲み干し、

「二神先輩はなにか委員会に入っているんですか?」

「うーん、僕はね――」

と言いかけたところで、カラーンと、店の扉が開いた。

「いらっしゃい。――瑠衣君なら、もう来ていますよ」

そう落ち着いた声色で、入店した美女に店主はこっちを手のひらで指しながら言った。

それを見て二神先輩は、

「……あれ、ちょっと早くないか。 ――あ、ごめんね、綴君、編ちゃん! 出る時はお金を払わなくていいからね。また、今度機会があったらゆっくり話そう! それじゃあね」

急いで席を立ち、入店した美女と店を出ていった。

二神先輩に美女が腕を回した姿から、美女の正体は彼女さんではないかと思われる。

その二人の密着姿は、光がある限り離れられることのできない影の様に――

「はあ、リア充ね……」

「ねえ、つづり。リア充ってなに?」

ズーっと音を立て、最後を飲み干した編に、『リア充』という人種を説明すると、

「それじゃあつづりだって、リア充じゃん」

「――どうして?」

「手前がいるもん」

「ばか。――ほら、このお店で紅茶売っていたから買って帰るぞ」


本気なのか、冗談なのか。

『手前がいるもん』っと、微笑んだ編に―――


「ほんと、あっついな……」

「うーん、そうかな? お店に入る前よりは涼しいと思うけど……」

――俺は火照ったのかもしれない。


その後、帰宅すると月はソファーに深く沈み込み「えへへ」とテレビを眺めていた。

編の変貌姿に月は目をぱちくりと、可愛い、似合っていると褒めちぎり、それに対し編も嬉しそうに笑っていた。

でも、賑やかになった家には、どこか悲しさと虚しさが少なからず、漂っているような。

仲良くソファーに二人並んでテレビを眺めている編と月に、俺はそんな不安さえ、言葉にしてはならないと、忘れることが出来ないあの過去がこびり付いてこの日は離れなかった。



最後まで読んでいただきありがとうございます。


10000PVを突破し、とてもうれしく思っております!!

これも読者様のお蔭でございます!!

本当にありがとうございます。


次話は七月八日に更新予定ですので

そちらの方もよろしくお願いします!!

現実と並行して梅雨入りの話でございます。

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