――絶世独立。先輩が言う事は、一理ある。(前)
十四話目(前)を更新しました!
いつも読んでくださる方、ありがとうございます。
それではお楽しみください。
それから小一時間の時が流れた。
編の服が完成するまでの時間、小百合先輩と三緑ちゃんに編はもみくちゃなに愛でられ、俺はその間にフォロワーの少ないSNSに、
〔百合展開の始まりってこんな日常的に、また突発的に起きるものなんだな〕
と呟くと、お気に入りの通知が二回来た。
「よっしゃぁ! 編ちゃん、おいで! 着替えはこの部屋の中でしようね!」
――小百合先輩、編に手は出さないでくださいよ。
百合が服を織っていた部屋で着替え、華麗に登場、お披露目するらしい。
小百合先輩は編の手を引いて、重々しい扉を開け中に入っていった。
「――どうですか? 楽しみですか?」
用済みのカタログを片付けながら、三緑ちゃんは、俺に話しかけた。
「そりゃ、楽しみだよ。 あんなに楽しみにしていたんだ。 編の、とびっきり笑顔が見れると思うな」
「――それだったら楽しみですよね」
――あれ、引かれたのか。 こんな顔した奴が『とびっきり笑顔』とか言ったら引かれるのですか?
「ど、どうかしたのか? 」
先ほどのテンションとは違い、三緑ちゃんの声色はブルーだった。
「い、いえ。 ――なんていうのかな。 やっぱり、幻影を召喚出来るお姉ちゃんとか、綴さんを見ていると、なんだか――」
消え入るようにフェードアウトしていった言葉に、聞き返そうとした時、
バタンッ!
と重々しい扉は暖簾のように素早い動きで開き、
「さぁ! お待たせ致しました! 美しい変貌を遂げた編ちゃんのご登場です! 拍手で迎えましょう!!」
パチパチと小百合先輩の拍手だけ響くこの部屋に、暗がりの『覗き厳禁』の部屋から編が足取りお淑やかに出てきた。
「――編」
思わず、声が溢れしまう。
そこには薄いワンピースを着る姿は無く、桜の花びらが優しく舞う赤い着物に身を包み、それを覆い込むように真っ赤な帯で締めていた。
編の赤髪と赤い着物は寸分たがわぬほどに溶け合っていて、それを眺める者の全てを燃やし尽くしてしまうかのように、可憐で絶世独立だった。
編はよそよそしく俺の前まで来ると、
「――どうかな?」
茶色い綺麗な瞳は問うた。
「――うん……似合ってる」
感想は幾らでもある。
しかし、この時はその一言しか出てこなかった。
その一言以外考えられなかった。
「――ねぇ、綴君」
ハッと意識を呼ばれた方向、小百合先輩へと向けた。
「今、何も考えられないでしょう? 編ちゃんに『どうかな』って聞かれたのに、『似合ってる』の一言しか考えられなかったでしょう?」
――人の心を読めるのですか、先輩は。
心の意を的中された俺は、ビビって言葉が出ない。
「それは綴君が、気の利いた一言を言えない鈍感ラノベ主人公思考だからじゃない。 また、編ちゃんのその服装が似合ってないからじゃない。 ――なら、それは何だと思うかい? 綴君の言葉を遮り、視線を奪うその感じ。――綴は、何処かで感じたことない?」
俺の言葉を遮り、視線を奪うその感じ。
俺はそれを何処かで、確かに感じているのだとしたら、それはあの時しかない。
「――私は思うのだよ。 魅力って言うのは、全てのものに平等に与えられたものだって、どんな物でも、どんな人でも、どんな幻影にでも魅力っていう力はちゃんとあるのだよ」
そう言う小百合先輩の表情は真っ直ぐで、先ほどまでの権威のない声色では無かった。
「でもね、その平等に与えられた魅力を出し切れてない人がほとんどなのだよ。 けど、全員が全員、魅力を出し切っていたら『似合う』『似合わない』なんて言葉はこの世から無くなってしまうのだろうけどね。――やっぱりそれでも思うんだ。 みんなは怖がっているだけなのだって、怯えて魅力を伏せちゃっている。 そりゃ、そうだ。 魅力を出し切るって事は自分自身をさらけ出すって事、纏っている全てを剥ぎ取って核心を露わにするって事、当然怖いに決まっている。でも、それは誰だって同じだ。男でも女でも、人間でも幻影でも、同じだ。一歩踏み出したモノが、周りより一歩前に出る。その積み重ねで、『似合う』『似合わない』と差が出てくるのだよ。スタートからゴールまで動かなくちゃ絶対に辿り着けない。恐れという障害物を掻い潜ってゴールを切ったモノが、自分自身をさらけ出し、核心を露わにしたモノが、魅力という力を全力で発揮する事が出来ると思うんだ。――編ちゃんのその魅力。選んだセンスが良かった訳じゃない。 誰かに似合っていると、可愛いと、綺麗と、言ってもらいたい願いが編ちゃんの核心を露わにしたのだろう。――まぁ、編ちゃんをその気持ちにさせた本人はこうもボケっとしているけどねっ!」
――初めて編と出逢った日。
あの空間が再び目の前に広がっているかのよう、編が見せる表情は俺にそう魅せていた。
小百合先輩が召喚した幻影『百合』には、織った衣服を着ると密かに願う気持ちを露わにするという能力が一時的に発動する時があるらしい。
その願いが強いだけ、具体的に鮮明に魅せるという。
――俺は魅せられたのか。
片手にお土産で貰ったマドレーヌをぶら下げて、嬉しそうな編の横顔を見て、
「ふっ」
と笑ってしまった。
「――つづり? どうかしたの?」
「いいや、何でもない。――つうか」
空を仰ぐと、暑かった日光は雲に隠れ、大通りを歩く人の足取りは軽くなっていた。
幻影用の服装というのは特殊なもので、どれだけ着飾って厚着をしていてもその分の暑さは感じないらしい。
そんな未来的高級品がプレゼントだなんて、
それにマドレーヌまで、
「――小百合先輩の趣味がお菓子作りだったとは……」
『人は見た目によらない』
実際、そんな言葉は曖昧で。
それも多分、小百合先輩が真面目に言っていたように、俺らにそう魅せていたのだろう。
――魅力を隠す魅力。
「小百合先輩らしいな。――紅茶でも買って帰るか?」
――本当に俺の幻影なのだろうか。
「うんっ‼」
俺にはこんな可愛い笑顔、
――到底、真似できない。
最後まで読んでいただきありがとうございます!!
まだまだこれからなので、お付き合いのほどよろしくお願いします!!
次話は、七月四日ですので、そちらほうもよろしくお願いします。




