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読まれる日常と、読む非日常。  作者: 金木犀
弐:これから始まりを告げる為に幕が上がる。
19/46

――時間経過。外と中では、当然違う。(前)

ここから、第二章の始まりです!!


一章を最後まで読んでいただきありがとうございます。

面白かったと、楽しかったと思ってくださって、これからも読んでくださると言うのなら、それは僕にとって最高に嬉しく光栄なことです。


それではお楽しみください。

「まだ、五月だっていうのにな」

「シャバの空気は美味しいの」

「出所後⁉」

五月の中旬にしては似合わない路面を照りつける太陽は、大通りを歩く人々の額に汗を流せ、足取りを重くする。

それでも、休日というのは大通りを賑やかにするもので、人混みに対する耐性スキルが始まりの街を出た勇者の初期スキル並みの低さの俺には、日光の暑さといい、人の熱気といい、更に足取りを重くする条件だった。

「一体、どこでそんな言葉を覚えるのか」

「前に言わなかった? 見た目によらず、知識人なの」

「いや、それは知識人だって言えるのか?」

「言えるもん」

「そうかい、そうかい」

「まぁ、編にとってここが、シャバだって言うなら、それはそれで良いんだけど、確かに影の中よりは空気は美味しそうだな」

「うーん、どうなんだろ? 影の中に空気があるのかどうかも考えた事すら無かったよ。でも、やっぱり外の世界が良いってのは胸を張って言えるよ」

編は発育途中というより発育停止の胸辺りをトンッと叩き、分かりきったような口調で言った。

「俺には直接分かることが出来ない事だかな。でもな」

――編。頼むから、

「少しは顔を出してくれても良かっただろ? あまりにも、出てこないから心配したじゃないか」

「だって、夢中だったんだもん」

少しは周りにも気配ってくれ。本当に、心配したんだから。

「夢中だったって……一週間以上だぞ? 夢中っていうレベルとっくに超えているだろ」

「それについては……」

急に申し訳なさそうに黙り込む。

そんな責めたわけではないのに、しょぼんとする編を見ると、なんだか言い過ぎたように思えてきた。

ごめん。

謝罪しようとした時、

「時間の流れの違いを……」

と言った編の言葉に思い出した。

影の中と外では時間の流れが違うということに。

「……ごめん」

結果、謝罪した。

偉そうに心配したと言っているだけで、すっかり幻影の初期の方で習う『時の違い』について忘れていた。

「すっかり忘れてて……手前的には三日の感覚だったんだけど……ごめんね」

いや、三日でも十分だけど⁉

なんて突っ込みたかったのだが、そんな風には口を開かない。

「俺もすっかり忘れてしまっていたから、今回はお互い様って事で水に流そうか」

「うん、そうだね。――そうしよっか」

編は俺の提案を受け入れると片手に持っていた分厚い本を逆の方向に持ちかえた。

「やっぱり、俺が持つよ」

「いや、いい! 手間が持つの」

「そ、そうか」

譲らない編に、一応聞いた。

「それ、全部読んだって事はないよな?」

うん、それはさすがに無理だよ。

「うん、読破したよ!」

「まぁ、そうだろうな。さすがにその分厚さだもんな……って⁉」

車道を挟んで反対側でイチャイチャとカップルが歩いているのを妬ましく眺めながら編の答えに答えたが、編の答えを頭で整理すると、カップルに合わせていた視線は編が落とさないよう大事に持っている本に一瞬にしてチェンジされた。

「これを⁉」

「うん、ちゃんと読破したよ? だから、三日――じゃなくて、一週間以上かかったの」

「……ファション大好きさん?」



時間を遡ること一週間以上前。



いつも通り学校から帰宅すると、茶菓子が置かれているテーブルに見慣れない分厚い本が一冊置かれていた。

文庫本ぐらいの大きさなら、例え見慣れないものでも気にしないのだが、ここまでの大きさとなると、変に心配で気になってしまう。

「ほら、編。ちゃんと手洗いうがいをするんだぞ。見るからに気持ち悪い虫がウジャウジャとしているプールに浸かって、無事に脱出出来たとしたらその後、体洗わないか? ――洗うだろ? 病原菌も、多分それと同じだ。 洗ってきなさい」

急いで洗面台に向かっていった編を確認して、分厚い本に手をかけようとした時、

「お兄ちゃん?」

と声を掛けられた。

ビクッと体が反応したが、俺に声を掛けた相手は誰か分かっている為、フゥっと小さく息を吐いて、

「いや、この分厚い本がさ――」

声を掛けられた方に視線を向けると。

――なんと。

「ど、どうしたんだ? その格好」

「こ、この格好? どうしたって……汗掻いちゃったからシャワーを浴びて」

「あぁ、そ、そうか。そうだよな」

真っ白なバスタオル一枚を体に巻いているだけの頼りない実の妹の姿に、実の兄の俺は一体何を思ったんだろうか。

ドキッ。

一瞬だけ、ほんと一瞬だけ。

「――変なお兄ちゃん」

「あはは、まぁ、それは置いといて。――月は、この本について何か知ってるか?」

一瞬だけの感情を悟られないように、俺は違和感がないように話を逸らした。

いや、まて。

話を逸らしたというのは間違いか。

そもそも、この謎の分厚い本について聞きたかった訳で、実の妹に抱いた(一瞬だけ)感情が後から付け加えられた事な訳で、よって話を逸らしたというより、話を戻したというのが無難で変に勘違いされないで済むのかもしれない。

「うん、知ってるよ?」

呆気ない答えだった。

「本当か?」

「本当だよ。だって月が持って帰ってきたんだもん」

「あ、そうなのか?」

月は濡れた髪をハンドタオルで乾かしながら俺の疑問をあっさりと解決してしまった。

しかし、ここでもう一つの疑問が発生。

「何のためにこんな分厚い本を……」

「あれ? お兄ちゃんカタログみてないの?」

「あぁ、まだ読んで――ってカタログ?」

――カタログって、商品などの品目を整理して書き並べたものか?

なぜ、そんなものがうちに?

それになぜ、こんなに分厚いの?

「そうそう、カタログだよ? やっぱり、編ちゃんも女の子だからお洒落しないとダメなんだよ――」

と、ここまで月が言ったところで全てを理解した。

なんと物分りが早い俺なんだろうか。いや、やはり兄妹――考える事は同じか。

「うーん、ちゃんと汚れ落ちたかな」

俺の話が効いたのか、手を何度も確認しながら編が手洗いうがいから帰ってきた。

編は俺と月が分厚い本を囲み、立ち話をしているのを不審に思ったのか、自分に向けられていた編の視線は分厚い本を経由して、俺に向けられた。

編は疑いの眼差しで、

「つづり、何してんの?」

この状況を俺に説明しろと促した。

――俺だって全てを理解したというのに。

「えっとだな、喜べ編。――なんと、月が編の為にカタログを持って帰ってきてくれたぞ」

「……カタログって商品などの品目を整理して書き並べたものの事を言う、あのカタログ?」

「あ、ああ。そうだ、そのカタログで間違いない」

さすが俺の幻影と言っていいのか。

「どうして、手前の為にカタログを?」

カタログについて理解している編は、それが自分の為にという事には未だ理解していないようで、キョトンと月を眺めた。

「編ちゃんだって、お洒落したいよね!」

その一言で編は全てを察したのか。

「つっきー!」

編は月に抱きついた。

「つっきー、優しい!」

タオル一枚という防御力が格段と低い月に、容赦無く編が喜びの感情で抱きついたことによる、望んでもみなかった展開に入った。

――ひらり。

効果音を付けるならそんな感じ。

防御力ゼロになった月の姿は、『妹』という概念が消え去りそうな――

「良かったな、編」

視線のやり場に困ってしまうこの状況に動揺が悟られないよう編に振る。

「うん!」

悪気も無い、無邪気な声に俺は分厚い本、ではなく分厚いカタログに仕方なく視線を落とした。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


二章を書くにあたって、キャラの性格などをもっと大胆に出していこうかと思っております。

そして、ここからは二章では編の服装が変わると言う話もあります。

僕のTwitterをフォローしてくださっている方には分かると思いますが、

絵師さんに書いていただいた通りの服装となります。


いろいろと展開が変わっていく、これからの綴の高校生活をどうか温かく見守って頂けると幸いです。

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