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読まれる日常と、読む非日常。  作者: 金木犀
壱:非日常である、日常の大きなプロローグにあたる物語。
18/46

――視覚変換。思いたくないことだって。(後)

これで一章は終わりです!!


結末までお楽しみください!

「ここか……」

男の子の手は小さくて、暖かくて、強く俺の手を握っていた。

出雲書店から歩いて、数十分の位置にある年季を感じる一戸建て、家の標識には「松本」と書いていた。

ジー。

インターホンを押してすぐに、反応があった。

『……はい』

「あ、こんばんは。あの、同じクラスの十七夜ですけど、浩輝君いますか?」

『ああ……自分ですけど』

「松本君? ちょっと、話したいことがあって、出てきてもらってもいい?」

返事は無く、少ししてから、ガチャと家の扉が開いた。

「ここじゃ、あれだから、近くに公園がある」

手を繋いでいる男の子の事には視線すら合わせず、松本が案内する公園へ、俺と男の子、東雲は向かった。

俺の思い込みかもしれないが、さっきよりも繋いでいる男の子の手は強くなったと思う。

松本の家からさらに数分歩いたところに、廃れた公園があった。その公園に入るや否や、先頭を歩いていた松本は、ぐるりと、振り返り、大きくため息をついて、

「なんすか?」

気怠そうに、呟いた。

その態度に、隣にいた東雲が左手を握り込んだのが分かった。

――落ち着け。

東雲より一歩前に出て、目で東雲に言った。

「ごめん、家に行ったりして。話したいことってか、確認したいことがあって」

「――確認? なんの」

「この子、知ってるだろ?」

松本の態度は変わることなく、やっと男の子と目を合わせたかと思いきや、

「いや、知らねえよ」

何のためらいもなく、一+一は『二』と、そんな風に当たり前のように答え、俺の手を強く握っていた力は、抜けていく空気のように一気に無くなった。

「……そうか。知らないか」

「ああ、そうだ。俺は知らない。で、確認はそれだけか? その為だけにわざわざ、家まで来たのか。お疲れだな、ほんと」

「――そうだな。ほんと、お疲れ……だ。 ――よし、分かった。松本、俺は考えてたんだよ。少しでも、少しでも、この子の気持ちを考えて、お前に反省の気持ちがあるなら、何とか出来るだけ、出来るだけ――」

ついに繋いでいた手は途切れ、空になった右手を強く握りしめ、松本の方へ走る体に任せて、思いっきり、ぶつけた。

クラス一背の高い松本には、俺の拳なんて肩にしか届かないが、構えていなかった分、松本の体勢は崩れ、その場に倒れた。

「痛ってな‼ なにすんだよ!」

「反省が無かった分の一発」

ジンジンする右手はあまり人を思いっきり殴った事が無い為、驚いているだろう。

「てめぇ!」

松本はすぐさま起き上がり、俺の胸ぐらを掴んだ。身長差があるため、俺の体は少し浮きそうになる。

東雲はその状況を止めようと駆け寄ってくるが、それより早くに男の子が叫んだ。

「もう、二人ともやめて‼」

聞いた事の無い、男の子の張り上げた声は、沈みかける空へ響き溶けていった。

松本は俺を突き飛ばし、

「なんだよ、イライラする」

片手で、長い髪をクシャクシャと乱暴に掻いた。

「知っているんだろ、松本」

「ああ、知ってるよ。知ってるも何も、俺が召喚したんだからな」

「なら、自分がやった事を認めるか」

「はあ、何言ってんだよ、さっきから。俺がやった事? 認める? 訳分かんねえよ」

「万引き、命令しただろ。この子に、やれって」

松本は眉間にしわを寄せ、

「ああ、言ったさ。命令したさ。で? なんで、俺がその件で呼び出されなくちゃ悪いんだ?あぁ? 万引きしたのは、そいつだろ? それなら、そいつが責任を取ればいいだろ⁉」

言った。

「確かに、直接罪を犯したのはこの子だ。だがな、お前も同罪だ。犯罪者だ。直接的な幻影に罪を押し付けて、間接的な本人は逃げようって、そんな考えは通用しないし、俺は絶対に許さない」

「綺麗ごと並べやがって……俺は、そうゆう奴らが一番気に食わねぇんだよ‼ 俺が迷惑をかけたか⁉ そいつが迷惑をかけたか⁉ ――たかが万引きだろ⁉ お前らには何の迷惑もかけてねぇだろ⁉」

「――確かに、確かに俺には迷惑は掛からない。だがな、迷惑している奴がいるならそれを、見逃せられないだろ。それが大事な友達なら尚更だ。だから、俺はお前を許さない」

「ふざけやがって……お前らは一体何なんだよ⁉」

「俺らか……俺らは――」

制服にポケットにしまっていた腕章を取り出し、腕に着け、大きく息を吸い込み、

「――影倫だ!」

東雲の得意技、ド派手なポーズで決めてやる。

「まじ、意味分かんねえよ……」

松本はその場で崩れた。

ぱっと、東雲を見ると、鞄から腕章を取り出すのに苦戦していた。東雲らしさにクスッと笑いそうになる。

「俺を売るとはな……」

松本は俯き、呟いた。

「ごめんなさい」

「ふっ、お前はいつもと変わらないな。――悪かった、今まで」

松本の影は、長く、ぼんやりと、男の子の気持ちをだんだんと理解していく。そんなふうだった。


「――お疲れ様です」

「東雲こそ、お疲れ様」

「ジュウシチヤ君って、結構、感情的なんですね」

「い、いや、ま。まあ……」

右手は未だジンジンする。

「でも、カッコよかったです。ほんとに」

「あはは。――ていうか、東雲。 あの、男の子はどうなるんだ?」

「残念ながら、先ほど連絡で確認を取った通り、強制遮断かと……」

「それは、絶対に決定なのか?」

「はい。総括委員会が決めた事なので、私たちが何と言おうと意味がないです」

「……そうか」

全ての委員会を取り締まっている『総括委員会』、決定事項は不動だという。

「……なんだか、初めての気持ちだ」

今まで感じた事の無い、気持ち。それは説明できるようなものでは無くて、説明できない何かで心は埋め尽くされていた。

「……そうですね、私もです」

男の子の手の感覚は、ジンジンと痛みに変わり、内出血している手は何を握れば良いのか分からなくて、痙攣を少しばかり起こしていた。

――こんな時、編が居れば。

俺は編の左手を握り、この説明できない想いをどうにか噛みしめ、整理しようとしていただろう。

編なら、そんな俺を受け入れてくれて、強く握ってくれただろう。

そう思った時。俺の右手は包まれた。温かくて、優しくて、同じような、そんな感じに。

「――東雲?」

「だめ……ですか?」

「い、いや……」

「……お願いします」

空を仰げば薄っすらと月が顔を出していた。空は透き通っていて、一番星も見える。

大通を俺と東雲は手を繋いで歩いた。この時間帯は車の通りも多い。色々な種類の車が、色々な方向から、色々な方向へ向けて走るこの道。

色々な想いが行き交うこの道。

手を繋いで俺の横を歩く東雲はどんな気持ちなのだろうか。

――分からない。

なあ、どうして、そんな顔するんだ。どうして、俺の手を繋いだんだ。どうして――――

答えが出る事の無い疑問を俺は抱いていく。そして、消えていくんだ、深い影に。

分かれ道に差し掛かると、東雲は「ありがとうございました」と、一礼をして鞄を肩に掛け直し、大通から細い道へと入っていった。少々残っている、右手の痛みと左手の温もりを感じながら、俺は帰宅へと急いだ。

道中、友達の用事に付き合うと言っていた月と会った。

「今、帰りか?」「うん、そうだよ――って、お兄ちゃん、何かあったの?」「え、いや。なにもないよ。 今日は、委員会の仕事で疲れたんだ」

俺の精神状態を見抜くことが出来るのだろうか、月は俺のそういう変化には敏感だった。

「お疲れ様」と、笑顔で言ってくれる月には、話す事ではないと思う。

例え、話したとしてもその時の感情なんて、その場にいた人の感情でしか、共有する事が出来なくて、話していくうちに、その感情はだんだんと、薄れていって、いずれは記憶からも薄れて消えていく、そんな感じがして。

「……そうだ! お疲れなら、月がお兄ちゃんの背中洗ってあげるよ! 人に体を洗ってもらうのは気持ち良いってさっき、友達が言ってたから!」

「――そのお友達、大丈夫なのか……?」

少しでも、元気にさせようとしてくれているのか、月の声はいつもより弾んでいた。

見えてくる自宅に、聞き慣れている妹の声。なんだか、泣きそうになった。







処罰委員会の調べによると、犯行の原因は『小説を読むことによって現実逃避をしたかった。けど、読む頻度が増えていくにつれて、お金がなくて、買えなくなっていたから』だという。

幻影を行使したのは、やはり自分を守る為。その対策として、自ら目撃情報を持ち込み、被害者のふりをすることによって、自分は調査の対象に真っ先に外れると考えた為の行為だったという。

――自分の幻影が自分を売るとは。

松本が最後に言っていた言葉、今回の件では考えさせられる事が多かった。

過ちを犯したと言う事実は変わることは無く、その犯した過ちをずっと背負って生きていかないといけない。でも、過ちを犯した事の無い人間なんて、そんなのは、ほぼいないはず。誰しも、些細な事でも過ちを犯し、それに自ら気付けた者が、成長していくのであって、つまり大事なのは、罪を犯した後。

そこから先で成長するのか、しないのか、償えるのか、償えないのか。自らを見つめ直していかないといけない。そうやって、自分を作っていくのだと。思うから――













松本 浩輝


  罪名:幻影強制行使窃盗罪。

  処罰:一週間の自宅謹慎(なお、その間に処罰委員会からの指導)。

     幻影との強制遮断。


 *処罰委員会への受け渡し後、

更生が見受けられない場合には退学処分とする。


総括委員会

風紀委員会

幻影倫理取締委員会


最後まで読んでいただきありがとうございます。


一章はこれにて終了です!

僕が書きたい内容が少しでも分かって頂けたら、それは本当にうれしい事です。


一章を終え、つまらないと思った方もいるかもしれません。

それは、それで僕の構成、語彙力不足だと思っております。


でも、これからが僕にとって大切な執筆で、読者の皆様へ伝えたいことの始まりだと思っております。


もし、そんな僕を支えて下さる読者さん、一章を終え、

少しでも面白いと思っていただいた方、是非、一言でもいいので感想。

また、評価、ブクマの登録をお願いします。

それがもっとも自分で分かりやすい読者さんからの意見だと思うからです。


一章を完結できたことは、何をとっても読者さんがいてくれたからです。

本当にありがとうございました。


二章へ移る期間を少しだけ空けさせていただきたいと思います。

更新することは決定しているので、二章の方もよろしくお願いします。

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