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読まれる日常と、読む非日常。  作者: 金木犀
壱:非日常である、日常の大きなプロローグにあたる物語。
17/46

――視覚変換。思いたくないことだって。(前)

十一話目(前編)更新しました!!


少々多い文章ですが、最後までお楽しみ下さい。

中学の頃は、読みやすい本を探していて、紹介されたのがラノベで、確かに読みやすくて、面白くて、そんな基準で良いと思っていたが、きっちり定義するとなると難しい。

手に取っていた題名が長い本を、元あった場所に直し、時間を確認した。

「三十分ぐらいか……」

調査に入って約三十分。店内に不審な人物は未だ現れない。物静かな空間にポツンと自分一人だけいる感覚。七夕里に東雲、ちゃんと同じ空間にいるのだが、そう思ってしまう。

そんな感覚に陥っていると、ふと、衣装選びに苦戦しているのであろう編の事を思い出した。

ここ最近、会っていないのになんだか心配な気分にはならない。というより自分の影の中に居てくれている方が、どっちかと言うと安心する。

「でも……な」

しかし、あまりにも衣装選びに時間がかかっている事には心配する。初めての衣装替えで興奮しているのも分からない事もないが、流石に限度というものがある。悩むなら悩むで、一旦出てきて『まだ、選んでいるから』と一言、言ってくれて良いのではないだろうか。

なんのアクションもないこの現状に編らしさというのを感じるが、それを許していたら編の自我は更に膨張し、俺では編を抑えることも出来なくなって、揚句には――と、考えたくもない事を考えなくてはならない。

「はあ……」

やるせない気持ちにため息を吐いた時、調査の方はアクションが起きた。

「いらっしゃいませー、ごほん、ごほん」

挨拶のあと、二回のせき込み。――それが合図だった。

今までとは違う空気が店内を蔓延る。俺が待機している定位置から、出入口は死角になっていて不審な人物と思われるのを確認できない。

あくまでも客を装って、不審者に悟られないように。大きく息を吸い込んだ時、ブーッとマナーモードにしていた携帯が鳴った。

「メール?」

差出人は、東雲。

〔ターゲットはジュウシチヤ君の居る方向に向かっています。不審な行動をちゃんと確認していてください〕

「了解っと」

そう送信して、再び大きく息を吸い込んだ。

男なのか女なのか。優しそうな顔なのか怖い顔なのか。

分からない不安感に襲われる。しかし、東雲が送ってきたメールの内容からすると、不審者を危険という対象にする可能性は少ない。と、思いたい。

俺は平然を装って、目の前にある本を手にした。それは昔、友達に勧められた本で、題名が長くて、ライトノベルで、あらすじを読む限り面白そうで、読んどけば良かった。と、そう思う。

コツ、コツ、コツ。

足音がだんだんとこちらに向かって来るのが分かる。もうすぐだ。もうすぐ対面の時だ。

コツ、コツ。

音が一瞬止まり、

コツ、コツ、コツ。

こちらに向かってきた。

俺は、本を見ながら精一杯、横目を意識して、不審者どうにか、目に収めることが出来た。

俺は疑った。

不審者は俺の所までやってきて、ちょんちょんと俺をつつく。そして、声変わりのしていない綺麗な高い音で、

「その本と同じもの、取ってもらっていいですか」

「ああ、これかい? はいはい、どうぞ」

「ありがとうございます」

「いえいえ」

目的の本の位置に手が届かないほどの男の子だった。

しかも、この子とは一回会っているし、俺はそのことについて鮮明に覚えている。体に合っていないバッグを持った男の子に朝の登校時に思いっきりぶつかった事は俺の中では忘れる事の出来ない出来事に分類され、収納されているからである。

「――ねえ、君」

「はい」

去ろうとしていた男の子を呼び止め、男の子と同じ目線になるように、俺はしゃがみこみ、手に持っている題名の長い本を男の子に見せて、

「やっぱり、この本って――面白いの?」

「えっと……面白いんじゃ、ないんですか」

「他人事のように言うんだね。という事は、誰かにお使いを頼まれたとかかな?」

「……う、うん」

思いたくは無かった。しかしこの子は幻影で、不審者で、万引き犯だって事はもう確信だった。

出雲書店では、必ず買った本にはブックカバーを付けるという。お店の宣伝になるからと言って。しかし、この男の子とぶつかった時に大きなバッグから飛び出した本には、ブックカバーはしていなかった。

他の場所で買った。そう言われるかもしれない。でも、それはすぐに嘘だと見破れる。なぜなら、

「ここだけだもんな、力使えるのは」

その言葉を聞いた男の子は、出口へ向かって走り出した。

「おーい、東雲! 出口に向かったぞ!」

「了解です!」

「ほらほら、落ち着きなさい! 痛い事はしないから、ね?」

出口に急ぐと、女二人に囲まれた男の子が観念したのか床に座り込んでいた。東雲はホッとしたように、七夕里は驚いたように目を丸くしていた。

「あっれ、男の子なんて居たっけ?」

そりゃそうなるだろう。入店した時は、別の姿だったのだろうから。

――視覚変換。幻影の力で行える状態変化の基本的な動作。ある特定の者だけに対し、視覚を別のものに置き換えるというもので、この場合、特定の者と言うのが、店員の七夕里にあたる。

多くは、建物の設計想像などに使われる動作で、この幻影の力を犯罪に使われないように大体の店には、幻影の力を無効にする特殊装置が置かれているのだが、出雲書店にそれが置かれていないのが、他の店で買ったと言い逃れできない理由でもあった。

「――しかし、なんで私だけ、ごっついおっさんに見せてたの?」

「……だって、あんまり力がないから、人、一人が精一杯で」

「まあ、確かに男の子だったら七夕里だって不審だと思って、合図しないもんな」

「そ、そうよ。でも、ごっついおっさんだったから……」

「だとしても、ごっついおっさんに失礼だよな」

「――お待たせしました」

スタッフルームで男の子の話を(ほぼ、ごっついおっさんの話)聞いていた時、調査報告の電話を終えた東雲が帰ってきた。

「委員長はなんだって?」

「はい。とりあえず、召喚者を特定し、公共の機関に通報するか、学生ならばその学校に連絡を入れろというなので……」

「そうか……なら、仕方ないな。えっと、君を召喚した人と連絡は取れるかな?」

「……」

「黙っていては駄目ですよ? やった事にはちゃんと責任を取る義務があるんです。それが例え幻影だとしても、ここは人間の作った法律で成り立っている世界です。召喚されて、この世界で暮らしているからには、ちゃんと法律を守ってもらいます」

「……」

「うーとな、君は自ら望んで万引きをしたんじゃないんだろ? やれって言われて仕方なく、やったんだろ? それじゃあ、君が全部悪いって訳じゃない。ちゃんと、この世界には幻影を保護する法律だってある。 君は君を召喚した人の事を尊敬しているのか?」

「……ううん」

「そうだろう? 自分の幻影に犯罪を行わせるような奴だ。最低な奴だ。ならば、教えてくれても良いんじゃないのか?」

「その後が……怖いから」

「それは心配する事ないですよ。状況によりますが、召喚者と幻影のシェアリングを切ることが出来ます。この場合は、幻影の尊重を無視し、行使した犯罪行為、十分に切ることが出来るケースです」

「そ、そしたら、僕はどうなるんですか? また影で暮らさないといけないんですか? もう、この世界では暮らせないんですか……」

「――人間とのシェアリングが切れてしまえば……もう」

消え入るような声で男の子は俯き、それに答えた東雲も沈んでいた。人間との生命の共有シェアリングを切れば、幻影は影に戻り、再び誰かとシェアリングするまでは人間のクラス世界へ出ることは出来ない。基本的な事ではある。だが、基本的な事だからこそ、それに対する考えや、対策はなかなか出てこないし、皆が受け入れている事に抗う事なんて、早々できた事ではない。

「どうすれば……な」

俺だって、この子を助けたい。幻影を召喚して、編が出てきて、一緒に暮らし始めて、思う事や、新しく感じる事、いろいろあった。

幻影の存在を人間が操っていると言うわけではない。人間と幻影はあくまでも対等な生き物で、尊重し合って、助け合って、笑い合って、楽しく生きていければ、それが一番だって。

最後のそう思えたら、最高だって。

けれど、広い世界で、人間と幻影が上手く付き合って、みんな幸せだって、そんなふうに上手く回っていなくて、幻影を使って法を犯して、逆に幻影に法を犯して、ある程度の不正を抱えて世界は回っているんだって。認めたくなくても。

でも認めないと、向き合っていかないと、その不正を取り逃してしまう、そんな事は絶対に許せない。

男の子は、

「ごめんなさい」

すすり泣き、言った。

大丈夫だよ。何の根拠もなく、ただただ、その言葉だけ言わないと。俺は口を開こうとした。

しかし、そんな俺のどうしたらよいかも分からない、崩れそうな言葉より、強く、強く、全てを覆い包みこむ優しい言葉が、先にその場に響いていた。

「大丈夫! 絶対、大丈夫だから!」

七夕里は、笑っていた。泣いていた。

分かっていたのだろう。決まりに逆らうことなど、出来ないという事を。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


章を付けるとするのならば、一章はもう終わりそうです。

一章が終わった時には、僕が書きたい物語が大体こんな感じなのかと、思っていただけるかと思います。


これからも、満身創痍、執筆していきたいと思いますので、応援よろしくお願いします!!

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