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読まれる日常と、読む非日常。  作者: 金木犀
壱:非日常である、日常の大きなプロローグにあたる物語。
15/46

――作戦会議。それはベンチに腰掛けて。(前)

十話目(前編)にあたる物語を更新しました!


いつも読んでくださる方、感謝感激です;;


この話から本格的に

綴が委員会の仕事をします。温かい目で見守ってやってください。

「そ、それでは今日、私と一緒に行ってくれますか?」

「うん、今日は妹も帰りが遅くなるって言ってたから……行きます。はい」

作戦実行の日、委員会に入って初めての仕事にもなる今日は晴天だった。

月に怒られてから一週間が経った今では、高校の生活、編との生活も慣れ始めてきていた。

「ありがとうございます。それと……編ちゃんはまだ影から出てこないんですか……?」

「……らしいね」

東雲は俺の影を心配そうに見つめた。

「でも、心配することはないよ。多分、未だに悩んでいるだけだと思う……から」

「確かに、年頃の女の子は外装を気にしますけど……さすがに悩み過ぎなんじゃないかと……ジュウシチヤ君は、なにかアドバイスをしてあげないんですか? こんな雰囲気が似合てるよ、とか。この色とこの色の組み合わせはおかしいよ、とか。やはり、他者からの意見も取り入れた方が、編ちゃんも選択の幅を狭められることが出来て選びやすいかと……」

「いや、そうなんだけど……『選んでからのお楽しみだからね』とか言って、俺との干渉を断っているんだよ。あんなに影に入りたがらなかったのに、影に入ることで自分に対して利益になることがあると、入って行って出てこないだなんて……ほんと、編らしいよ」

「そうですか……よっぽど、自分の変わった姿をジュウシチヤ君に見せたいんですね、編ちゃんは。でも、編ちゃんの気持ちも分かります。新しく買ったお洋服は早く誰かに着て見せて、感想を貰いたいですし、それが大切な人なら余計にです。――幻影の気も引けるだなんて、すごいです、ジュウシチヤ君」

「幻影の気もって……その言い方だと人間の気も引いているみたいな――」

「え、気付いていなかったんですか? ジュウシチヤ君、クラスの女子から結構人気なんですよ? いつも編ちゃんの面倒を見ていましたから『面倒見が良さそう』とか『責任を持って生き物と接してくれそう』とか、いろいろと囁かれているんですよ?」

「いや、待ってくれ。だからいつの間にか、俺がクラスの金魚の世話係になっていたのか? あ、それに、この前クラスの女子に幻影の一時預かりみたいな事をさせられたのもその影響で……」

「はい、その影響だと思います。それでもこなしているジュウシチヤ君はカッコいいです」

「ただの生き物係じゃないか……」

今だって、教室の隅に置いてある水槽で優雅に泳いでいる金魚の「ゴールド」に餌をやったばっかりだった。

「私もお手伝いしますから、金魚のお世話頑張りましょ?」

東雲が一瞬、天使に見えた。純白のドレスを着て、大きな翼を背中に携えている、笑顔が素敵な可愛らしい天使に。

食べ終えた購買の弁当をごみ箱に捨て、俺と東雲は教室から場所を屋上へと移動した。

移動した理由は、今日の作戦会議。生徒や風紀委員からの依頼とあって、失敗することは出来ない。その為には、念入りに打ち合わせておかないといけないのだ。初仕事になる俺は、緊張と少しの好奇心に早くも浸っていた。

階段を上り、重々しい扉を開けた先の屋上は、見ていて落ち着くような田舎町が見渡せるような場所だった。遠くの方には高いビルなどが見えるが、その騒がしさはここにまで届いては来ない。

「気持ち良い風が吹いているな……ここで昼飯なんか食べたら、うん。いい感じだ」

「――そうですね。温度も丁度良くて、お昼寝のスポットには最高かもしれません。あ、そうだ。今度、一緒にここでお昼ごはん食べませんか? ――私、その時はお弁当作ってきます。べ、別に深い意味とか無くて……ジュウシチヤ君はいつも、購買のお弁当だから……味に飽きていると思いまして……」

「え、本当?」

風に髪をサラサラとなびかせている東雲は、俺にとって最高の提案を差し出した。可愛い女の子との昼食、その時点で男子高校生にとったら最高なシチュエーションであるのに、加えて屋上という良い感じの雰囲気の場所で、可愛い女の子の手料理が食べられるなんて。

――断る理由はどこにも無い。

「東雲がそう言ってくれるのなら……お言葉に甘えたいんだけど……いいかな?」

「はい、私からの提案です。ジュウシチヤ君が良いのなら、私は喜んでお弁当を作らせていただきます!」

ニコッと笑う笑顔は、やっぱり可愛い。

そんな約束を交わして、俺と東雲はポツンとそこに置かれていたベンチに腰を掛け、今日の作戦会議を開く。

内容としては、目撃情報を頼りに、ある書店に向かうという。その書店で不審な幻影らしき物が頻繁に出入りしているという事が色々な人から証言されたからである。

その書店の名前はこちらとしては分かっておらず、大雑把に書かれた地図を頼りに向かわないといけないという事になっていたが、その目的の書店がある地域は俺の庭と言っていい程、把握している為、東雲に心配ないと、言った。

東雲は高校になってここの地域に引っ越してきたらしく、土地勘があまりないと心配していた事は解消でき、

『頼りになりますね』と微笑まれた事に、一瞬ドキッとしてしまった事を東雲に悟られないように、下手な咳払いを打った。

「それで、その幻影はその場で拘束するのか?」

「いえ、拘束と言いますか……まあ、身元を確認しなければなりませんから……はい。拘束します」

拘束した幻影の身元、というよりその幻影の召喚者である人間を特定し、公共の機関に通報するか、万が一、それがうちの生徒だとしたら、何らかの処分を下さないといけない為、処罰委員会に差し出さないといけない。

うちの高校の処罰委員会は特に厳しいと噂が流れている程のもので、処罰の対象になった生徒は処罰後、必ず更生し、更に成績まで上がると流れていた。

処罰内容は他言禁止されており、処罰対象生徒の口からもそれを聞くことは無いと言う。皆、口を揃えて言うらしい。

『次は、殺されるから……』と。

そんな恐ろしい委員会に生徒を受け渡すのも気が引けるのだが、それも仕事の一部で臨時だと言っても責任を持って行わなければいけないと、東雲からも釘を打たれている為、そうするしか術はない。

「うちの生徒では、なければいいんですが……」

とは言い、東雲だって処罰委員会に引き渡すのには、抵抗が多少あるのだろう。

「――そうだな。……そういえば、東雲は、知り合いに処罰委員の奴が居たりするのか? この前だって、影倫の仕事を説明してるとき、処罰委員の役割も教わったけど、説明が詳しかったから、なにか関わりあるのかと」

「えっと、まあ、知り合いって程ではないんですが……一応、副処罰委員長と関わった事があります」

「副処罰委員長ね……」

こうゆう場合は、委員長の方よりも副委員長の方が気難しく、気が短くて、クールな長身男的なのを想像してしまう。

どちらにしろ、怖いのだが、

「結構、気さくな方で、綺麗な人でしたよ。ちょっと、違和感を感じたんですけど……なんていうか、その訳すら気付くことが出来ないままで、副委員長は去って行ったので……でも、なんだか、趣があって、でも少し、怖かったです」

「やっぱり、怖いんだ……」

想像を覆されたかと思いきや、大方、間違ってなかったようだ。

怖いものは怖い。

社会科の先生よりも、体育科の先生の方が、なんだか、怖そう的なあれだと思う。

「――はい。処罰委員会は、やっぱり、厳しくないと務まらないんだと思います。他人を処罰するもの、自らに厳しくなければ、やはり反感を買ってしまいますから……ね」

そう言い、隣で苦笑いをした東雲を見て、初めて入った委員会が『処罰委員会』ではなく、『幻影倫理取締委員会』で良かったと思った。

委員会未経験者の俺にとって、人を処罰する委員会なんてハード過ぎるに決まっている。

「――俺は、影倫に入って良かったと思うよ。誘ってくれて、感謝してる。ありがと、東雲」

「いえいえ、感謝しているのは私の方です。私の方だって、ジュウシチヤ君が影倫に入ってくれて、とても感謝しています。それに、ジュウシチヤ君の初仕事はこれからですよ? 一緒に、頑張りましょうね。ジュウシチヤ君」

幼く見える外見に、頼りになる内面の東雲 天音。黒髪パッツンで校則通りに身だしなみも完璧、欠点を探すことの方が難しい程の良い人で、笑顔は可愛くて。

ふと、思い出してしまう。

『浮気をされた』と語っていた事、気にしないでと口では言いながら、表情はいつもと違っていた事。

東雲みたいな子を彼女に持ちながら、浮気をする男の気がしれないし、そんな男の考えは俺に理解することも、理解すらしたくなかった。

気持ちの良い風に、暖かい日の光、同じ状況下にいる東雲との距離が縮まった気がするのは、同じベンチに腰掛けているお互いの距離が少し縮まった事で起きた、錯覚だったのだろうか。

手を伸ばせば届く距離にいる東雲に、『頑張りましょうね』と微笑まれた俺は、なんだか、いや確かに、元気が出た。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


なろうに投稿し始めて、はやくも一か月が経とうとしています。

ここまで、投稿できたのは読んでくださる皆様がいるからだと思います。

これからも、面白いと思っていただけるよう頑張りますので、綴たちの応援よろしくお願いします!


また、感想、評価、ブクマの登録の程もよろしくお願いします!


次話は六月七日に更新する予定です。

そちらの方のお付き合いいただけたらと思います。

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