――目撃情報。責任感、正義感、兼ね備えている立派な人は。(後)
八話目(後編)にあたる物語を更新しました!
いつも読んでくださる方、感謝感激です;;
この頃は、忙しい事もあったので、執筆に遅れが生じそうで焦っている期間でした。でも、伸びていくアクセス数が、僕の執筆活動をもっとやる気にさせてくれます。
読者さんには、頭が上がりません(*-*)
それでは、後編をお楽しみください!
それから編を起こし、ボケっとしている編の手を引いて、校門まで俺らを見送ってくれた東雲に手を振り、家路を急いだ。
いつもより帰りは遅いが、日はまだ沈んではいない。朝とは違うオレンジ色の世界に、俺と編しかこの世界にいないんじゃないか、そう思わせるほど、帰り道に人はいなかった。聞こえてくるのは、 虫の鳴き声と、川のせせらぎ、手を繋いで通った小さな橋は、朝に通った時とは違う雰囲気を醸し出していた。
未だ眠気が覚めていないのか、編の口数が少ない。橋を渡る前に田んぼに落ちそうになったこときっかけに手を繋いで歩いているのだが、家の付近になると車の通りも多くなるため、少し不安になった。
「――ちゃんと起きているのか、編」
「起きてるよー」
編の軽い返事は、俺の心配を解消してはくれない。
「もう……さっきみたいに田んぼ落ちそうになりたくないだろ? それなら、ちゃんと歩かないと……」
「その時は、つづりが助けてくれるから大丈夫だもん」
「――おいおい、勘弁してくれよ」
助けるではなく、助けないといけない。幻影と人間はそれほどの仲でいないと、シェアリング率が下がり、影に飲み込まれてしまう危険度が上がると高校に入ってすぐ幻影の授業で教わった。影に入ることを拒む編も大人しく、退屈そうにはしていたが隣で授業を聞いていた。
火を噴く大きなドラゴン。そうやって想像した俺の相棒は、可愛い少女。俺にやたらと好意を持つ少女。人間と幻影が恋に落ちるなんて、そんな事は物事が上手くいく、とっても胡散臭い携帯小説の世界でしか聞いたことがない。
こんな事があったらいいな。あんな事があったらいいな。と、人は想像して、妄想して、夢を見て、現実を見る。理想と現実に差があると、なんだか現実が嫌になる。理想を現実味あるものに変えてしまえばいいのに、現実に理想を求めてしまうから、余計に嫌になる。
しかし、そんな世の中では面白くない。現実で生きている人間は、非現実を求め出す。そんな人間の黒い部分に少しでも光を射したのが『小説』『漫画』『アニメ』等々。その世界は、この世界で生きる物の欲求を満たし、理想を見させてくれた。幻影と恋に落ちる世界。そもそも幻影がいない世界。魔法が使える世界に、何の力も超能力も幻影すらいない、平凡な世界。そんな世界の数々は、活字、静止画、動画と想像の中での理想の具現化を可能にさせてきた。
日頃のストレスに、現実と理想のギャップ。俺だって、感じてきたことはある。魔法を使ってみたいとも、平凡な世界に行ってみたいとも、ゲームの世界や、海の中での暮らし、いろいろな事を思った時期もあった。過去に戻りたいとも願った。
でも、いくら願ったって、現実から離れて想像の中で理想を具現化させたって、いずれは現実に帰らないといけない。自分を、今を、周りを、未来を、過去を見ないといけない。リセットなんか出来ない、一回限りのこの世界を自分の手で有意義なものにしないといけない。
――仕方ないよ、それが現実なんだから。
この一言は、理想に溺れていた俺を救い出してくれた言葉。誰に言われたのか、いつ言われたのか、そんな事はもう覚えていなくて、ただ、その一言だけ頭の隅にいて、ずっと俺を監視している様に。もう、理想に逃げることがないように。ずっと――
「――えっと、これこれ。――編は、どれがいい?」
なんとか、日が完全に落ちる前にいつもの自販機の所まで帰ることが出来た。ここまでくれば、月が待っているマイホームまで数分もかからない。
「うーんっとね。いっつも、ポカ・コーラだから……今日は、つっきーと同じのにするよ。その、つづりが手に持っているやつ」
「やめておきなさい」
素直な気持ちで、すんなりと言葉が出た。何も取り繕う事もなく、想いのままに言葉を伝えられるという事はこんなにも気持ちが良いものなのかと、思った。
「嫌だ! そのカピバラがプリントされたジュース飲みたい! ポカ・コーラ飽きたぁ!」
「言う事を聞きなさい! それに、これアライグマだからな⁉ こんな、体を侵食させるためだけの飲み物……許しません!」
「へえ、いいんだぁ。そんなこと言って……?」
編は、目を歪めた。なにか、俺の弱みでも握っているような口調で少し身構えたが、冷静に考えてみると、俺の弱みを編が握っているなんて、そんな事はないはずだ。なぜなら、失態を編に未だ晒してはいないのだから。
この道の人通りは少ないのだが、今日はなんだか多いような気がする。いや、いつもと帰る時間がずれた事によって普段、すれ違わない人とすれ違っているだけなのかもしれない。
どちらにせよ、俺と編の自販機の前で繰り広げている展開に行く人の視線が痛い。
「いい……いいだろ? 別に……」
一応だ。一応、あまり挑発しないように。弱みというのが本当に握られていて、それがこの場で言われても大丈夫な内容なのかという保証は無い。見た目、齢十四。知識的には二千歳。ませた子供は何を言うか分からないし、自主規制を発動させた編の言動には、時折ハラハラさせられる時がある為、油断はできない。
「言っちゃおうかなぁ? あの事を――」
「何を言っちゃうんだぁ? ――脅しなんてものは通用しないぞ?」
「手前の――」
「編の?」
「おっぱい……見ていたこと」
「……」
危ない。月に買ったアライグマがにっこりと笑っているジュースを落としそうになった。
「な……何を言っているんだ……全く」
「とぼけても無駄なんだからね? 手前起きてたんだから、保健室の時。つづりがおっぱい見て二ヤって笑った所」
「――起きてたのか。なんと、失態を……じゃなくて! 俺は、見ていない! み、見た言うよりか、気になっただけだ。こんな肌蹴た服だと危なっかしいと……そ、それに笑ったのは勘違いだ」
にやけたのは、うん。言いたくない。
「触りたいなら、言って……? いつでも――」
ガチャン。
「ほら。――あと、からかうな」
俺は、もう一本アライグマを手に取り、編へと渡した。編は、「うわぁ」無邪気な声を上げ、嬉しそうに受け取った。
「ありがとう!」
「……んじゃ、帰るぞ」
俺の右側を歩く編、左手にはアライグマを持って、空いている右手で俺の左手を握り、俺は右手にはアライグマを持っている。
この俺の物語が、誰かの手によって書かれるとするならば、喜劇となるか悲劇となるか。面白く仕上がるか、つまらないものに仕上がるか。
それは俺に分からないが、もしも、俺が自分で自分の物語を書くのならば、喜劇に仕上げたい。
――嘘は書かず、真実で。
保健室で寝ている際に、東雲に気付かれることは無かった右手首の消える事の無い切り傷を、横目で確認し、『後悔』とその言葉が、俺の右手を繋いでいるようだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
自分なりに、誤字、脱字を確認して投稿しているのですが、それでも見落としがあり、見苦しい点を見せてしまっていることに関しては、申し訳ありません。
誤字、脱字には気を付けていきたいと思っていますので、お許しください;;
それと、評価、感想のほどもよろしくお願いします。
一言でもいいので、アドバイスや、感想が頂けたら、
これからの執筆活動に活かしていきたいと思っております。
よろしくお願いします。
* 九話目(前編)は六月三日に更新する予定ですので、
そちらの方もお付き合いください。