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読まれる日常と、読む非日常。  作者: 金木犀
壱:非日常である、日常の大きなプロローグにあたる物語。
12/46

――目撃情報。責任感、正義感、兼ね備えている立派な人は。(前)

昨夜、更新するはずの八話目(前編)を更新しました!

その件についてはお詫び申し上げたいと思います。


その為、今日明日と続けて更新しますので、明日更新する

後編の方もよろしくお願いします!


それでは、お楽しみいただけたらと思います。

俺が一回目覚めたのは、倒れて小一時間経った頃だったと言う。その時は、意識が安定しておらず、なんども『月』と呼んでいたらしい。当然、月は中学校で勉強をしている為、その場にはいなかったのだが、俺の手を握って『お兄ちゃん』と声を掛けると、俺は安心したように、また眠りに入ったと聞いた。月役をやってくれたのは、東雲だったと言う。正直、意識があるときに『お兄ちゃん』と東雲に言って欲しかったと、それを初めて聞いたとき思ったのだが、不謹慎な為、声に出して言うことは無く、その願望は心のうちに秘める事にした。

編は、俺が急に倒れた事にとても驚き、とても不安になり、とても泣いたと言う。驚く気持ちは分かる。俺は編の前で倒れた事なんて無い。それは驚かれても仕方がないし、死んでしまうのではないか、と思ってしまうのも仕方がない。

今だって泣き疲れたのか俺の隣で、スヤスヤと眠っている。保健室のベッドはうちにあるベッドよりも一回り小さく、いつもより編と体が密着していた。目を腫らしている姿を見るとそこまで心配してくれたのかと、嬉しく思う。

ありがとう、と誰にも聞こえないような声で俺は呟き、編の頭を撫でると、少し表情がほころんだ気がした。多分、編は頭を撫でられるのが好きなのだろう、そう思った。

高校に入学して、初めて保健室を利用するには少し症状が重すぎるような感じがするが、倒れた俺をここまで誰が運んでくれたのか、それは教えてくれなかった。

恥ずかしいから言うな、との事で。『お名前は?』『名乗るようなものではございませぬ』展開だろうか。この時代に、そんなカッコいい事を違和感なくやり遂げる事が出来る奴が存在するのか。まあ、俺が保健室のベッドでこうして横になっている訳だ。存在したに違いない。

「しかし、本当に編って幻影なのか……」

人間にしか見えない寝顔に吐息。召喚したのだから、幻影に間違いないのだろうが、それでも人間じゃないのか? と疑いたくなる、そんな容姿で。

「体だって……」

今にも胸が見えそうなぐらいまで、肌蹴ている薄いワンピースは、ちゃんと編の体を乾燥や、太陽光から、そして危ない奴の目から守れているのか、日焼けを知らないであろう真っ白な肌に思う。

編の感じから、着物の服装なんて似合うんじゃないのか。と、俺的センスで編の着物姿を想像し、口元が緩みそうになった所で、閉めていたカーテンがシャーと音を立て、黒髪パッツンの子が入って来た。

「……なに、ニヤニヤしてるんですか?」

俺はポーカーフェイスが苦手だと、東雲の言葉で自覚し、体調は大丈夫ですか? と聞く、東雲の言葉に編が起きない程度の音量で大丈夫だよ。と、答えた。

「それにしても、ビックリしました。急に倒れてしまうんですから……一瞬、ジュウシチヤ君を狙う悪の組織に狙撃されてしまったのかと」

「俺は一体、何をやらかしたんだよ……でも、ほんと迷惑をかけてすまない。最近はこんな事少なくなってきてたんだけど……ほんと、ごめん」

「いえいえ、迷惑だなんて思っていませんよ! そんな倒れてる人に対して迷惑だな、なんて思うこと自体、ありえない事ですから! ――っと、最近って、前にもこんな事があったんですか?」

「そうだな、うん。中学の頃は今より、頻度が多かったかな……? もう、保健室を通いまくってたかな。お蔭で、授業を受けることなく、その日、一日が終わってしまう事だって時々あったぐらいだよ」

「それ……大丈夫だったんですか?」

「まあ、俺には心の支えがあったから、なんとか乗り越えられて来たと思ってたんだけど……今日の事で、少し昔を思い出したよ」

「もしかして、心の支えって言うのはつっきーちゃんですか?」

「つっきーちゃん……? ああ、月か? ――そそ、月が俺の心の支えだったんだ」

東雲の口から「つっきー」という言葉が出たことに少々戸惑ったが、俺が月を何度も呼んでいた時に、「お兄ちゃん」と言って手を握ってくれたという事は、東雲が「月」というのを俺の妹だと知る機会があった訳だ。そして、東雲は「月」の事を「つっきー」と呼ぶという事は、編から俺の妹の存在を聞いたのだろう。「つっきー」と呼ぶのは、編しかいないとそう、認知しているから。

「ジュウシチヤ君は、つっきーちゃんと仲が良いんですね。兄妹仲が良いという事は、良い事だと私、思います。――羨ましいです、ほんと」

「東雲は、一人っ子なのか?」

「はい、兄や姉、弟や妹はいません。一人っ子です。だから周りの友達が、お兄ちゃんがうざいとか、妹がうるさいとか、そんな話を聞いていると、正直羨ましいなって思うんです。私は、兄がうざいとか、妹がうるさいとかそんな感情は分かりませんが、でも、それはきっと、心から嫌っているんじゃなく、家族だから、きょうだいだから、取り繕うことなく言えるんだと思うんです。――やっぱりジュウシチヤ君も、つっきーちゃんの事をうざいとか、うるさいとか思うんですか?」

「いや、俺は一度も思ったことないんだ。月の事は、うざいとかうるさいとか思ったことない。それどころか、感謝しているし、尊敬する所もある。――俺は月が大好きだ」

「だ、だ、大好き……⁉」

俺が真顔で言ったせいなのか、東雲は「大好き」という言葉に強く反応していた。いや、多分言葉が足りなかったのだろう。

「兄妹としてね?」

付属した俺の言葉を聞いて東雲は胸を撫で下した。やはり、勘違いをしていたのだろう。重度のシスコン野郎だと。

「でも、そうやって素直に大好きだと言える事も素敵だと思います。つっきーちゃんが羨ましいです。――私も、ジュウシチヤ君みたいな兄が欲しかった、です」

「そんな立派な、兄じゃないよ。俺なんて……」

東雲は羨ましいと言う。兄が欲しかったと。それも俺みたいな兄が欲しかったと。しかし、東雲は知らない。俺がどれだけ月に迷惑をかけてきたのか、俺がどれだけ月を泣かせてきたか、  そんな事は東雲の綺麗な瞳には映らない。だから言えるのだ。そんな無邪気に、素直に笑顔な東雲には俺の綺麗な部分しか映っていないのかもしれない。

「私がそう、思うだけです。私が言った事を、誰かが否定したって、それはその人の価値観で、私と当然、価値観が違うわけですから、その事は私にとって正しい事で、それは誰にも否定できませんよ。今だってそうです。私は、ジュウシチヤ君にそう感じましたから……だから、羨ましいです!」

「なんだか、うん……嬉しいよ。そう思ってくれる人がいるだけで自分自身の存在の価値に意味があって……生きている気がするよ」

東雲は自分の意見に壮大な一人の男の人生を語られて、困った顔をするかと思いきや、腕に着けているサイズの合わない腕章をギュッと握りしめ、申し訳ない表情を代わりに見せた。

「――あの」

「ん?」

俺の隣ではお人形さんが寝ているかのように、微動だにしない編の吐息だけが聞こえる。

「編ちゃんが寝ているから、言える事なんですけど……」

「――編が寝ているから言える事?」

「影倫の仕事の事で……話があるんですけど」

「ああ、委員会の仕事ね」

――編に聞かれてはいけない話。もしかして? なんて、そんな想像をしなかったと言ったら嘘になる。

「はい、委員会の事で。えっと、最近……不審者らしき人物が校内の周りを徘徊しているとか、していないとか……昨日、うちのクラスの松本 浩輝さんから目撃情報がありまして……」

「松本……?」

「はい、あの……うちのクラスで一番背の高い男子です。覚えていませんか?」

「うーん、ごめん。あんまり人の顔と名前が一致しなくて……そ、それで、目撃情報ってのいうは、幻影なのか? ――幻影が絡んでいないと影倫は動かないんじゃないのか?」

「いや、それでですね。松本さんはその不審者が幻影じゃないのかって言い出したんですよ。根拠は無いけど、人間じゃない様な気がした。と」

「なんて、曖昧な……」

「まあ、根拠のない話なので信憑性は無いのですが……一応、風紀委員からの調査の依頼も来ていますので、犯人を捜さないと……」

「そ、そんな事ならば調査しないと、だけど……どうして編が寝ていることが関係あるんだ?」

編だって俺が影倫に入っていることは知っているし、俺が影倫に入ることだって反対してはいない。それに、東雲が話したことは編が聞いてはならないような内容でもなかった。

ならばどうして? その答えを聞いた俺は、東雲の性格やら感性やらを完璧に理解することが出来た。

――ほんとに、立派な人だと。

「――それは、ジュウシチヤ君が倒れて大変な時に仕事の話などを振ったら、編ちゃんに怒られるではないかと、そう思いまして。――もし、私が編ちゃんの立場なら、この状況で仕事の話なんて、TPOが合ってないと嫌悪感を抱くのですが……でも、私は東雲 天音として、影倫の委員として、ジュウシチヤ君の……ま、まあ、その、なんと言いますか……この場に及んで、仕事の話などって思ったのですが、ジュウシチヤ君も影倫の大事な仲間で、伝えないといけない内容でしたので――すみません」

寝ている編に気を遣うように大人しく静かな声で理由を、そして影倫としての責任を、身をもって東雲の覚悟を知ることが出来た、そんな東雲を前に自分がベッドで横になっているのが恥ずかしくなり、編を起こさないようにゆっくりと体を起こし、ベッドから降りた。

「あ、起きても大丈夫なんですか……? もっと、安静にしていた方が……」

「ううん、大丈夫。この通り真っ直ぐ立てているんだ。もう、心配はない。――それに、その仕事について詳しく知りたくて……東雲が俺の事を大事な仲間だと言ってくれたのに、体調がすぐれないからって知らないふりは出来ないし、放課後にわざわざ、伝えに来てくれたんだ。そんな東雲に失礼な事は出来ないよ」

昼休みに倒れた俺は、五限と六限の間に一回目を覚ましたらしいのだが、復帰できるような状況ではなかったらしく結果、放課後まで保健室で過ごしていた。東雲はちゃんと午後の授業を受け、こうして放課後の自由な時間に俺に会いに来てくれている。

失礼なことは出来ないし、東雲の時間を無駄にはしたくないし。だが、ただの世間話ばかりしていたという訳でもない。仕事の話を持ってきてくれたのなら、それを聞き、これからどうするのか、と考えている時間が放課後にあるとするのならば、それは委員会の仕事を全うしているという事で、東雲が俺の見舞いに費やした時間は少なくとも無駄なものではなかったと言える事になる。

「――ジュウシチヤ君って、立派な人なんですね」

その言葉に俺は笑ってしまう。なんだか、可笑しかった。

そして、俺は東雲から運動部の声が微かに聞こえるこの保健室で、仕事の話を詳しく聞くことになる。先生は不在で、編は寝ていて、動いているのは俺と東雲の二人きりで。時計の針は、 音を立てずに進んでいて。もう、月は家に帰っているだろうか。家に帰ったら『おかえり』って、いつもの様に笑顔で出迎えてくれるのだろうか。心配になるこの癖は、いつになったら治るのだろうか。

向かいの椅子に座って、身振り手振りで話す東雲には、俺のように心配になる事なんてあるのだろうか。

見た目からはあまり感じる事の出来ない、責任感、正義感、と言ったものを兼ね備えている立派な人は、例え心配事ができたとしても、難なく解決して、振り返ることなく進んでいくのだろうか。

――分からない。

そう思ったとき、東雲の説明は終わった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


前書きで書いたように、

更新出来なかった件については、申し訳ありませんでした。


ここまで、定期的に更新して来たので

定期的に読んで頂いていた方には、申し訳ないです。


これからは、出来るだけ定期的に更新していきたいと思いますので、

変わらず、お付き合いくださる方、明日更新する後編、感想、評価もほどよろしくお願いします!





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