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読まれる日常と、読む非日常。  作者: 金木犀
壱:非日常である、日常の大きなプロローグにあたる物語。
11/46

――浮気男。実の妹がタイプだなんて、実にけしからん事だ。(後)

七話目(後編)を更新しました!!


いつも読んでくださる方、ありがとうございます!


それでは、七話目(後編)をお楽しみください。

「――ってゆう事です。――大体がこんな感じなんですが……ジュウシチヤ君。私の説明、分かりやすかったですか?」

昼休み、生徒は授業という重りから解放され、昼の限られた時間だけ伸び伸びと好きな事や昼食を取る事が出来るそんな時、俺は黒髪パッツンの未だにあどけなさが残っている、いたいけな顔立ちで影倫の少し先輩でもある東雲に、分かりやすく『幻影倫理取締委員会』の説明や仕事内容などを聞いていた。と言っても、みんなが想像している風紀委員の仕事内容とほとんど一緒で、決定的に違うのはその仕事が幻影に関係しているか、していないか。その事だけだった。

「――うん。ありがとう、東雲。なんだか、やりがいがあってすごく正義感に溢れた委員会なんだって事が改めて分かったし……まあ、東雲みたいな子にはピッタリな委員会だと思ったよ。ほら、東雲は正義感があって、困っていた編も助けてくれたし――なんていうか、見た目、気が強いって感じじゃなくて、やんわりしていて可愛いのに、善悪を裁く真っ直ぐな瞳にギャップを感じるよ、うん」

俺と東雲が委員会の話をしていることに飽きたのか、昼食を食べておなか一杯になってしまったのか、隣に椅子を並べて座っていた編は俺に凭れかかりスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。

「可愛いだなんて……ありがとうございます」

東雲は少し視線を落とし、腕章をグッと上げた。

「その東雲が着けている腕章って、一回り大きくないのか? さっきから、何度も下がっているのを上げているみたいだったし……変えてもらったり――」

「いや、これで良いんです」

「え?」

俺の言葉に被せるようにして腕章を再びグッと上げた。そう聞かれたらこう答えると待ち構えていた様に返事を返した事に、その腕章には特別な感情があるのだろうと我ながら察することが出来た。

「――あ、あ、そうなんだ。そ、それにしても……うん。えっと……」

こんな場合には理由を聞かない方が大体良い方に繋がる。ロールプレイングゲームでもそうだ。困っている人の理由を聞くと大体の確率でミッションが与えられ、武器の強化や装備の強化、レベルアップだってしたいのに、与えられたそれを優先しなければならない時だって無いとは言えない。

しかし、ここは片手に剣、片手に盾を持っているゲームの世界ではない。理由を聞いたところで、魔物がウジャウジャいる洞にアイテムを取りに行かせられることは断じてない。が、この世界の悪い所は理由を聞くことによって発動する気まずさや、潜在意識に擦り込まれる印象の改ざん、その情報の漏えいによって引き起こされるトラブル。そんな悪影響な事がもれなくついてくる時があるという事。

そんな事に巻き込まれたくない俺は、どうにか話を変えようと考えたが、結果の通り言葉が詰まってしまった。

「ジュウシチヤ君……? どうかしたんですか?」

「い、いや! な、なんでも……あ、そうだ! 東雲は彼氏とかいるの⁉」

「か、彼氏ですか……!」

声が少し裏返った東雲は、それから少し黙り込んでしまった。やらかした。そう思った。

この質問はいきなりすぎるし、何と言ってもデリカシーが無い。東雲みたいな子からは異性との遊びなんてあまり結びつかないし、この黙り込んでいる様な感じだと、異性と付き合った事なんて――

「一回だけなら……あります」

あったのだった。

「あ、一回だけ……ね」

一回だけ。その言い方だと今は付き合っていないという事になるし、なんだか良い思い出じゃないような。その場の流れの軽い感じだったとか、浮気をされて別れたとか――考え過ぎだろうか。まさかそんな事なんて――

「まあ、浮気をされちゃいましたけどね」

あったのだった。

「……ごめん」

「い、いや、いいんですよ! もう、昔の事ですし! それに、私の方から一方的にジュウシチヤ君に話したんですから、悪いのは私の方です。ごめんなさい」

目上の人に謝るかの如く、深々と頭を下げる東雲に、どこか既視感を抱いた。それは確か、数学の時間だった気がする。成績優秀、見た目も可愛い、性格だって悪い所は今のところ見つけることが出来ない。純情可憐、そんな言葉を東雲に貼っていたとしても誰も違和感は感じないと思う。

「ん……」

俺と東雲の会話のせいで、目覚めてしまったのか俺の体に全体重を預けていた編はゆっくりと体勢を立て直し、大きな欠伸と共に目を擦った。胸元が見えそうで見えないダルンっとなっている薄いワンピースに今朝思った通り、なんとなく危険性を感じた。

服は別に幻影としての力を抑制しているという話は聞いていないから、どんな服を着させても大丈夫だと思うのだが、俺は服のセンスというものに自信は無い。

どんな格好をさせたら編が映えるのか、どんな格好をさせたら危なくないのか、そんな事を考えて着させたって、周りからはそれが批判されることが無いとは言えない。

「大きな欠伸だな……ほんと」

「むぅ……眠たぃ……」

「編ちゃんの寝顔、可愛かったですよ」

東雲は、真っ直ぐな綺麗な瞳をキラキラと輝かせながら、編の赤髪を優しく撫でた。

エヘヘッと顔を歪めた編を見ると、東雲には心を開いているように俺には映った。編の好む人格とはどの様なものなのだろうか。そう考えた時に思うのが「正義感」これを持っている人を編は好むのだと、言える。

皆を守る人を好むのか、自分だけを守ってくれる人を好むのか。後者ではない事を思いたいのだが、編の性格上、自己意識が高いから――と、ここまで考えて思った。

父さんの手紙に書いていた事。自己意識が高い幻影は――と、先は思いたくも、考えたくも、想像もしたくない。

あの時の事を思い出すと、今でも呼吸が乱れそうになる時がある。父さんを影に飲み込んだ幻影、独りだった教室、母さんの泣き声、月の泣き顔。それに、俺が確認しなかった為に起きた忘れ物。

どうして。どうしてあの時、ちゃんと確認しなかったのか。ちゃんと確認していたら、母さんが死ぬことは無かった。無かったはずだ。あの時、引き返すこともなく、時間が十分に余るぐらいに学校へ着いて、それから俺は幻影を召喚して、母さんと月と三人で暮らしていこうって。それなのに、それなのに、それなのに。

「……ジュウシチヤ君?」

俺のせいだ。俺のせいだ。

「……つづり?」

俺のせいだ。俺のせいだ。母さんが死んだのも、月が一人で我慢していたのも、全部――

眩しい光を目に浴びた時のように視界が真っ白く何も見えなくなる感覚。いつかの時も、こんな感覚に陥った事がある。真っ白な光の中で、自分が消えていって無くなってしまう、そんな感覚。そして、母さん、月、それに父さん、俺が消えて居なくなった世界で笑っている、そんな光景が真っ白な世界に映し出されて、俺の価値は無くなって。

『俺が生きている価値はあるのか』

頭に浮かぶと、静かに堕ちていく感覚。どこまでも終わりのない、光の世界から、闇の世界へ。

誰の声も聞こえない。何も思う事が出来ない。ただただ、遠ざかって、小さくなっていく光を眺めているだけ。覚める事の出来ない悪夢に、希望は無い。

苦しい。苦しい。苦しい。助けて。そんな言葉ですら頭には浮かばない。

何とも言えない感情に、自分の感情は抑圧されて、縛られた人形のように、その姿ですら不気味なもので、俺の価値は消え去って。

次第に見えなくなっていく光の点に、完全に見えなくなる前に俺は自ら目を閉じた。

だが、閉じたところで、光の残像は瞼の裏に映って、それは俺を哀れに笑い眺めていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます。


ここまで書いてきて、思ったのですが、

少し、委員会ものになりつつあるという事に・・・・


でも、高校生活など、教育機関には委員会は付き物ですよね!


委員会に入るのも、ありきれた日常。


これからも「読まれる日常と、読む非日常」をよろしくお願いします!

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