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遅くなって申し訳ありません。

 それからの日々。


 アリスリデアがほとんどの家事を引き受けてくれた。なんというのか、奴の仕事は私がやるより、何倍も確実で、完成度が優れていた。

 初めは、主の沽券に関わるので家事を任せたりはしたくなかったのだが、こうも実力の差を見せ付けられると、そんなちっぽけなプライドなど、持っている方が恥ずかしい気持ちになってしまった。


 奴は何をやらせても万能な、凡人には理解できない人種である。そう思うことにして割り切った。


 


 「…はよう。今日も早いな」

 「…お前が遅いだけだ」

 「……」

 

 尊ぶべき主に向かって暴言を吐く奴隷など、この世に何人いるのだろうか。

 私に慣れてくれたのだとすれば、それは私としても喜ぶべきだが、奴は人見知りする可愛い性格をしているようには見えない。


 しかし、朝早くからこうやって、私のために(ここは強調する)、料理、洗濯、掃除をしてくれるのは、大変素晴らしい。実を言うと、今までは面倒くさくて、家の掃除以外は余り家事をしていなかったのだ。

 朝といえば私にとって昼過ぎのことだったし、洗濯も気づけば一週間やってなかった、なんてザラだった。


 そんな生活は、奴が来てからどこかに飛んでいってしまった。

 朝寝過ごそうとすれば、奴が絶対零度のオーラを背負って文字通りたたき起こしにくるし、洗濯ものを出し忘れていれば無言の圧力をかけてくる。


 お陰で今は、物凄く規則的かつ健康的な生活を送っている。


 …別に今の生活が嫌な訳ではないが、前の不規則生活も悪くなかった。朝寝坊し放題は魅力的だ。


 

 朝食のスクランブルエッグを食べながら、今日の予定を確認する。


 「ナル、今日は何をするんだ?」

 「…ええと、薬を調合する。これはまだアリスには出来ないから、自由にしていて良いぞ」

 「了解」


 ナル、アリス、と愛称で呼び合う仲にもなった。まあ、単に互いの名が長かったり発音が面倒だったりしたからなのだが。

 常に効率を考える思考は似ていると思う。



 その後一緒に家の掃除をする。

 

 アリスはひとりでやる、と言っていたが、私は断固拒否した。これだけは本当に譲れない。アリスが家事が上手いのは重々承知だが、だからこそ、奴だけにはやらせてはならないのだ。


 私はこの家には、「座敷童子」がいるのだと思う。

 前に王都で古い文献を調べていて見つけた。今の世には概念が無くなってしまったが、古くは、それは大層信仰していたようだった。

 座敷童子は人ならざるもので、しかしその多くが人族の幼女の姿をしているそうだ。古い家や大切に扱われている家に住み着き、その家を守るのだという。

 文献の中には、座敷童子に救われた、という伝承も残っていた。


 ここで私が目を着けたのは、”大切にされている”家に住み着く、というところだ。

 私はここに住み始めてから、ずっとこの家を大切にしてきたという自負がある。掃除は念入りにし、何かを破損してしまわぬように細心の注意を払ってきた。

 もちろん、感謝と敬愛の情も忘れなかった。


 だから、きっとこの家には、ここの座敷童子殿がいるはずである。可愛い幼女姿の座敷童子殿が。


 そしてきっと私に懐いているのだ。なんてったって、毎日顔を合わせている(推測)のだから。


 

 そんな時、この家に無表情でも美麗な顔をした男が来たらどうなるのか。

 人間ならざるといっても、座敷童子殿は人の幼子の姿をしている。恐らくアリスの見た目と、悔しいが私よりも素晴らしい家事の出来に惚れてしまうかもしれない。

 

 そしたら私のことはどうでも良くなってしまうかもしれない。


 そこで掃除の件に戻るのだが、座敷童子殿の中で私の存在が薄れている状況(現在)で、その上私が家の掃除をしなくなったらどうなるのか。答えは簡単だ。私の存在は完全に彼女の中で綺麗さっぱり消え去るだろう。


 そんなのは御免である。


 折角今まで積み上げてきたことが、アリスの存在ひとつで吹き飛ぶなど、我慢できない。というか座敷童子殿に忘れられるなんて嫌だ。人間の中で一番酷い感情は、無関心なのである。


 だから、いくら効率云々とアリスにぐちぐち言われ、いくらやたらと出来の悪い孫を見るような目で見られようとも、最後まで私は折れなかった。

 奴の攻撃に屈しなかった私を褒めて欲しい。

 

 結果こうやって、二人で、という互いの妥協点だが、私が家を掃除をする権利をもぎ取れたのだ。本当に良かった。

 奴の家事スキルは恐ろしいものだが、私の掃除スキルだけは勝っていると信じている。


 ただ、やはり現実を見るのは怖いので、奴の掃除風景は一切視界に入れないようにしているが。

 

 最早この数日で日課になってしまった言葉をポツリと放つ。


 「座敷童子殿、今日の私も見ていろよ」


 そのまま掃除に取り掛かった私にはアリスが落とした言葉は聞き取れなかった。



 

 「…あいつは日々何と戦っているんだ」



 

 

 午後からはその日の仕事をこなす。


 私はこれでも魔術士なので、様々な依頼が毎日来るのだ。

 それが病人の病を治療してくれ、などの医者に行けない貧民からの依頼だったら良いが、暗殺用の毒薬作りや殺人そのものの依頼も度々来るのは正直あまり気が進まない。

 まあ、気が進まないだけで、依頼は依頼。私情と仕事はしっかり区別はしている。


 そもそも私は闇魔術士なのだから、いちいち文句を言っていたらキリがないのだ。


 一歩間違わなくとも、確実に違法なのだが、こんな私に買われて奴は良かったのだろうか、とも思ったりする。あまり深くは考えないが。


 

 今日の仕事はカラルという、不衛生な状況の時になりやすい寄生虫の特攻薬作りだ。

 これが以外に難しい薬とされていて、オモテでもウラでも、とんでもない値段を吹っかけられる。当然それが払えない貧民窟の人々は、そのまま死んでいくしか道はない。

 まあ、幸いというかなんというか、ここには私がいるのでその道は回避できるのだが。


 今回の対価は何にしようかな、と考えながら、無造作に材料を放っていく。そして何回か決まった回数攪拌し、マイナス十三度で十二秒冷却すれば完成。


 毎回これを調合する時に思うのだが、この作業のどこに難しい点があるのだろう。材料も普通に手に入るし、魔力のある魔術士ならばものの数分、慣れてくれば一分ほどでできるだろう。


 私は基本的に、自分の依頼に対する面倒くささや、私にとっての難易度、材料の値段などによって、対価を決めている。

 だから今のような簡単なものだと、その日の気分で若干変わるが、人生で一番恥ずかしかった話だったり、近所の雑草取りだったりする。


 これが私が巷で変人、と言われる所以だろうが、私に言わせれば、こんな簡単な薬ひとつで涙ぐんで「ありがとうございます」と連呼するほうが変人である。



 その後もいくつか気の向くままに依頼をこなす。

 

 ふと、何かのいい匂いが漂ってきているのが分かった。外を見ればもう夕暮れ。以前はこの時間帯になったら、面倒くさくて夕飯抜きで仕事に没頭していたが、今は違う。


 やはり、ひとりじゃないって、良いよな。


 心がほわりと暖かくなるのを感じながら、私は部屋を出て行ったのだった。



 

 「…腹が空いたぞ」

 

 呆れたような顔を予想して。





 

 

いやあ、本当にごめんなさい。ですが失踪はしないので、暖かい目で見守っていて頂けると嬉しいです。

眠い(´-ω-`)


ありがとうございました。おやすみなさい。

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