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 「ふむ。ではとりあえず、お前の怪我をどうにかしよう」


 かなり忘れていたが、アリスリデアは怪我をしていたのだった。最初に見た時に動かなかったのは、隷属の首輪の所為だろうが、それを抜きにしても、彼の身体に刻まれた怪我は酷く、動くのは痛みを伴うと思う。

 

 何をするにもまずはそれからだ。そう決めて大分打ち解けてきた彼に言う。


 「アリスリデア、脱げ」

 「……オリヴァー?」


 …どうやらまた私は言葉が足りなかったようだ。今回の失態は流石の私でも分かる。分からずにいられるわけがない。なぜなら急に部屋の温度が下がったのだから。


 「…いや、すまない、その、言葉が足りなかった。えっと、その、つまり…」

 「…オリヴァーはもう少し何かと注意したほうがいいだろうな」


 情けなくどもる私に怒っても無駄だと思ったのか、アリスリデアはハァ、と息をはき、黙って上を脱いだ。

 

 広い肩幅。引き締まった身体についた筋肉は、実にバランスが良く、実用的であった。所々に線を引く傷跡の中には、適切な処置が成されていないのだろう、壊死寸前のものもある。


 …酷い。これは酷すぎる。

 

 ひくっ、と頬が引き攣るのが分かった。それと同時にふつふつと怒りが湧いてくる。


 「…どうしてこんなになるまで放っておいた!下手すれば壊死していたぞ!」

 

 私が声を荒らげたのが珍しかったのか、アリスリデアは目を見開いている。


 「いや、えっと、これは…「言い訳は後だ、今は手当を先にする!」…すまない」


 急いで彼の側に近寄り、手に魔力を集めていく。この傷は恐らく結構な魔力が必要だ。術式も高度なものがいいだろう。

 手に、眩しいくらい光り輝く金色の光が宿ったのを確認し、確実を期すために、普段は使わない詠唱を行う。


 「神の御心のままにこの弱き者を癒し賜う 我は魔に生きる忠実な僕なり ――治癒」


 精一杯の願いを込めて祈ると、部屋の中を目も開けられないほどの光が包む。その光が収まった時には、既にアリスリデアの身体の傷は、傷跡さえ跡形もなく癒えていた。

 

 「…これは…最高位術式、か?」

 

 魔術士でもないのによく知っているな、と思いながら軽く頷く。結構魔力を消費した。適度な疲労感が身体を包んでいる。


 「このような魔術、恐らく光魔術士でも使える者は少ないのではないだろうか…」

 「そんなことはどうでも良い。とにかく傷が癒えて良かった」


 なおも続けようとしたので、強引に話を終わらせる。「…そうか」とアリスリデアは不満そうだったが私に従う。


 「とにかく、ありがとう、本当に助かった」

 「こちらこそ、直ぐに思い至らなくてすまなかった」


 自分の身体を確かめて、まだ不思議そうだが、余程辛いのを我慢していたのだろう。今の表情は先程より随分と柔らかい。

 アリスリデアが服を着直そうとしたところで、ふと、まだ忘れていたことがあったことを思い出す。慌てて彼を制止する。


 「…なんだ?」

 「そういえば、血を与えなくてはならなかった、今食え」


 訝しげなアリスリデアに向かい、少し服をはだけさせて首筋を晒す。さあ、いつでも来い。やってくるだろう痛みに備えて目を閉じたが、何秒経っても一向に彼は食いついてこない。そっと目を開けると、アリスリデアは頭を抱えていた。


 「…どうしたんだ?まだ痛むところでも――「お前は…!!」――え?」


 声をかけたが逆に怒鳴られた。何か悪いことをしただろうか。全く身に覚えがないのだが、とりあえず、私はどうすればいいのか。

 体勢が悪かったのかもしれない、と思い、よいしょ、と彼の膝の上に座ってみる。そのほうが安定するだろう。


 「…ッ!?」

 

 またもやアリスリデアは可笑しな反応をしたが、少し待ってやると諦めたように項垂れた。位置の問題ではなかったらしい。

 何が不満なのかと考え、ややあって思い至る。


 「――そうか、大丈夫だぞ。初めてだが、私は平気だ」

 

 まだ血を吸うのに抵抗があったりするのか、と思ってフォローしたのだが、奴の睨みを見る限り、またもや違ったらしい。いや、少し耳が赤いような気がするから、図星だった照れ隠しなのか?

 私が不可解な少年に首を傾げていると、アリスリデアは疲れたようにため息をついた。


 「…はぁ。じゃ、遠慮なくもらうからな」

 「――え?いやちょっ――ッァ!?」


 ぐいっ、と腰を引き寄せられ、彼の両手が頭と腰にまわる。まだ心の準備が、と言おうとしたが、直ぐに来た次の衝撃に言葉が飛ぶ。



 がぷり。

 彼の犬歯は容易に私の肉を押しのけ、彼の求める物を見つける。

 

 ちぅっ。

 耳元で血が吸い上げられる音が聞こえる。意外なことに痛みは最初に彼の犬歯がくい込んだ時に少し感じただけだ。というか、むしろこれは…。



 「――んぁっ、やっ…」

 

 くすぐったい。



 この絶妙な加減。強くもなく弱くもなく、適度に私の神経を震わしている。彼が吸い付くたびに強弱の波ができて、一向に慣れさせてもらえず、常に刺激が襲う。


 だめだ、これは。


 さらには、彼の息が首にかかり、ますますくすぐったい。ちらちらと動く奴の黒髪もだめだ。


 私には難関すぎる。私は昔からくすぐられるのが苦手だった。少しくすぐられただけで悶え転げてしまう程なのだ。だから、くすぐられたら真っ先に逃げるのが普段だった。


 しかし、今の状況では、アリスリデアががっちりと私の身体を固定しているので、逃げようにも逃げられない。それでも、ピクッ、ピクッ、と身体が反応してしまうのは、致し方ないと思う。


 …止めてもらおうか。

 いや、奴に弱点を見せるのは良くない気がする。というか、弱みを握られたくない。どの道一週間に一度はやらなくてはならないのだから。

 主としての小さなプライドで、その苦行を乗り越えてみせる。


 私は固く決意をして、アリスリデアにぎゅぅ、と縋ったのだった。





 「はぅ…」

 「…はぁ、全くお前という奴は…」


 私には何時間後にも感じられた数分後。アリスリデアは漸く満足したのか、やっと牙を離してくれた。

 私は絶え間なくくる刺激に耐えるのに必死で、既にぐったりしていた。力が全然入らない。吸血行為の後は、若干の状態異常が付くのかもしれない。

 決して、私が苦手だったから、という訳ではない。


 …少し声が出てしまった気もするが、聞こえてはいないだろう。大丈夫だ。そのくらい弱みにはならない。


 「おい、いい加減離れろ」

 「あぅ…」


 力が出ない、と言いたいのだが、駄目だ、全然話せない。無理矢理自分から引き離そうとしていたアリスリデアは、それでも分かってくれたのか、動きをピタッ、と止めた。というか、今は少しの刺激でくすぐったくなってしまうので、そっとしておいてほしい。


 「…ほんっとうに、お前というやつは…っ」

 「はふ…」


 アリスリデアが何か言っているが、意味が分からないので無視し、回復に専念する。私は学んだのだ。こいつの言うことの半分は意味不明なのだと。

 

 それからやっと動けるようになった時に、真っ赤な顔をしたアリスリデアが怒ってきたのも、理解が出来なかった。

 

 …本当に、なぜなのだ。

 




 

少しR15要素を入れてみました。テへ☆

まあ、これは主人公が全面的に悪いですよね。


ありがとうございました。

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