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遅れました。

 「…んっ!ぁ、ぅっ…」

 「…いい加減慣れろよ」

 「だっ…て!む…り…ひゃんっ!」


 こんにちは。オリヴァーことナルです。ただいま被吸血中なので、しばらくお待ちください。


 ……、……、……、…ッ!?


 …やっぱ無理。いくら現実逃避しても、このどうしようもないくすぐったさはどこまでも追いかけてくるのだ。

 …恐ろしい。


 ついでに、既にくすぐったいのが苦手とバレているのに、手加減なしで攻めてくるアリスリデアさんも恐ろしい。彼は悪魔か何かの使い手なのだろうか。


 「…なんか失礼なこと思ったろ」

 「ひぅっ!?」


 アリスが首筋でぼそりと言う。間髪を置かずに襲ってくるくすぐったさ。わざと吸血音を立ててくるいらないサービス付きだ。

 バレました。そして余計に吸われました。

 最近は本当に、主導権がアリスに渡っているので、色々と大変である。困ったことにアリスは思考も読めるようだ。…そんな魔術ないのだが。


 「ちぅ…、ん」

 

 半分抜け落ちかけている意識でそうぼんやりと考えていたら、アリスがトン、と肩を軽く叩いた。同時に首筋に感じていたくすぐったさも消える。吸血終了の合図だ。

 やっと終わった…、と脱力する私とは正反対に、アリスは吸血前よりも雰囲気が柔らかくなっている。…ちっ。


 吸血行為がアリスと私に及ぼす影響を調べたいから、吸血途中、間隔を空けてみよう、と提案したら、じゃあ、一週間おきだと効率が悪いから、今から一度に全部調べようか、と清々しい笑顔で言われ、そのまま地獄の時間が始まったのは、記憶に新しい。しかし、少しでも楽をしようとしたツケはもう充分に払った。だから、もう忘れる。


 …その結果としては、アリスの機嫌と能力が制限時間付きで上昇することと、私の機嫌と精神力と能力とプライドと…(以下略)が、粉々に砕け散ることが分かった。何事も得るものが大きければ失うものも大きいのだ。


 そう、思い出したくもない悪夢の後、今にも擦り切れそうな脳みそで必死に考察してアリスに告げたら、奴は「どこがだ。ローリスク・ハイリターンだろ」とバッサリと言いやがったのだった。…これも忘れよう。思い出したらムカついてきた。

 

 というか、ハイリターンと言っても、確かにアリスの能力は桁外れに跳ね上がるが、機嫌は少ししか上昇しない上に、恐ろしく短時間で不機嫌になるから、あまり美味しくないと思う。…奴が不機嫌になる理由はただの効力切れだ、それ以外に理由などない。


 吸血する量や頻度は、最低ラインを守っていれば多すぎても大丈夫らしい。もちろんアリスには最低ラインでやめてもらっている。


 私とて自分の身が可愛いのだ。恨めしいことに貧血にも全くならなかったので、正直にくすぐったいからと頼むしかなかったのが口惜しい。羞恥で顔から火が出るかと思った。決死の思いで告げたのに、奴がもう知っていたのも、その火に油を注いだ。…忘れよう。


 振り返ってみれば、こと吸血に関しては(ここでそれ以外もだろとは言ってはならない)、直ぐにでも忘却の彼方へと追いやってしまいたい記憶が無数にある。…情けない。

 

 そしてこの状況も忘れてしまいたい。


 「…まだか?」

 「…ん…」


 吸血の影響か、果ては私の体質か、心の底から前者であることを願うが、吸血後は、その吸血量に比例して、身体と言葉が思うように操れないのだ。

 

 アリスは、私を膝に乗せた吸血体勢のままで、ぐったりと奴に寄りかかっている私の頭を撫でる。やめろ、と言いたいが、そう言葉を発するのさえ難しい。


 こんな状態が続き、羞恥の限界を超え、自分でこれに利く薬を作り出そう、と研究室にこもったこともあった。しかし、その度になぜかアリスに邪魔をされたのだ。何度目かの試みが見つかった時に、絶対零度のオーラのアリスに有無を言わさず吸血されて、それはそれはきついお灸を添えられてからは、やめたが。


 毎回吸血後に私の面倒を見ずに済むのだぞ、と説得しようとしたが、奴は、お前の羞恥に染まった顔を見るのが楽しい、とか何とか言ってきてからはそれもやめた。


 そんな訳で日々私は頑張っているのだ。


 …それにしても、本当にこれだけはどうにかならないものか。





 当初は街へ出る時は私と一緒に、という約束をしていたが、それもアリスがフィーのところへ鍛錬に行き始めてからは、自然と取り消しになった。私の術は、対象と離れても持続するし、何よりフィーに手放しで褒められる程の実力の持ち主だ、そこらの盗賊なんぞにやられたりはしないだろう。


 ただ、未だ髪と瞳の色しか変化させていないので、街に行くと違う意味で大変らしいが。

 街から帰ってきて、不機嫌に私を睨んでいても、気づかない振りをしている。まあ、ちょっとした普段の仕返しのようなものだ。


 

 「…行ってくる」

 「ああ」


 今日もアリスはフィーのところへ行く。私の魔力を吸収しているからか、ここと向こうを繋ぐ扉も私なしで通り抜けられるらしい。おおよそアリスのことは、私の一部のような扱いなのだろう。


 彼の気配が完全に外界へ消えたのを確認し、私はにやりとする。

 

 自然と忍び足になりながら、裏戸から庭に出る。そしてアリスに見つからないように納屋から掘り出しておいた、ぼろぼろの布切れに包まれたあるものを魔術で呼び寄せる。

 

 「ククク、完璧だ」


 私は自分の手際の良さに自画自賛した。

 やや虚しくなったが、気を取り直してボロ切れを見つめる。

 

 今日は、アリスと出会って二ヶ月記念日なのだ。

 だから、私なりに彼にプレゼントをしようと思った。…ちなみに一ヶ月記念日は、手作りの料理で驚かせようとして、本当に驚くべき事態になった忘れたい過去である。私は己の能力の限界をこの時はっきりと知ったのだった。

 ごほん、まあ、とにかく、それを挽回するためにも、今回は考えに考え抜いたものを用意した。


 すなわち――剣。

 

 アリスはフィーに師事しているが、未だ自分の剣は持っていないのだ。私はそこに目を着けた。…彼は私の奴隷なのだから剣を持っていないのは当たり前だ、とかは触れないでほしい。普段の奴の私に対する態度で、私の奴隷だなんて事実は軽く吹き飛ぶのだ。それより今気付けたことに、感謝しよう。

 

 幸いというか、この家には昔、何とかとかいう剣士が残した剣があるのだ。私の師匠に、好きにして良い、と言われていたのを思い出して、それをアリスに送ることにした。

 剣のことはあまり良く知らないが、新品よりは多少古びている方が良い、と聞いたことがある。新品を買おうとして闇商人にぼったくられるよりはマシである。


 そっと布を解いてみる。剣を見る目は無いが、剣の錬成や鍛冶ならできる。魔術とは便利なものだ。


 見たところ、そこまで錆びてたりはしないようだ。それどころか、不思議な輝きを帯びているような気もする。どこか治すとすれば、柄の革くらいしかなさそうだ。


 そうと決めたら早い。鍛冶の魔術を唱え、軽く剣を磨いて、あらかじめ用意していた最高級の革で柄を変える。


 それだけで、何年も、下手すれば何十年も納屋にほったらかされていた誰かの剣は、おとぎ話に出てくる勇者の神剣のようになった。…というのは少し誇張し過ぎかもしれないが、私から見ても、アリスが自分で気に入った剣を見つけるまでの場つなぎにはなるんじゃないかと思う。

 私とて、納屋から出した得体の知れない剣をずっと使ってくれ、だなんてことは流石に無いと分かっている。しかし、気持ちは込めているし良いんじゃないかと思う。




 それからすぐに鞘がないことに気づき、慌てて納屋をひっくり返して探し、やっと見つけて安堵していた時にアリスが戻ってきて、この剣…まさか…!という状況になるのは、あと数時間後。

 

 

 


 

 

ナルは生粋の天才ちゃんですからね。^^;基本なんでもできます。ただ頭がちょっと・・・。


ありがとうございました。

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