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 「…ふーん。なるほどねぇ…」


 隠し部屋にて。いつかロドックと話し合ったテーブルに移動して、フィーにこれまでの経緯を話した。すべて話し終えた後、フィーは興味津々、といった様子でこちらに身を乗り出してきた。


 「じゃあじゃあ!アリスちゃんのホントの姿は黒髪黒目なの?アタシ実物見たことないから、見せてー!!ナルのも久しぶりに見たーい!!」

 「…アリス、ちゃん…」


 そのあだ名に少し困惑したような表情をするアリス。その横で私は笑いをこらえるのに必死だった。

 即座に絶対零度の視線が突き刺さり、一気に気持ちが落ち着く。むしろ落ちすぎて釣り銭が来るほどだ。


 「どうする?アリス」

 「…別に良い」


 アリスの了承を得たので、魔術を解く。

 そう、今まで私とアリスは、外見を変化させていた。私は茶髪茶目で、顔立ちも少し変化させている。普段の外出用だ。一方、アリスは、急だったし、顔のイメージを練るのが面倒だったので、髪を藍色、瞳をアメジスト色に変えたのみで、他は一切変えていない。

 街中に外套を剥ぎ取って放り出したら、恐らく素晴らしいことになるだろう。


 その情景を想像してひとり愉快になっていると、目の前に座っていたフィーが忽然と消えた。

 そして次の瞬間には、アリスの姿が見えなくなっていた。――フィー(変態)のせいで。


 「きゃーーーッッ!!!かーわーいーいーッ!ナル、もうコレお持ち帰りしてもいいかしら!?」

 「…こんなことでお前の実力を使うなよ」


 がっしりとアリスを捕縛…否、抱きしめるフィーと、奴に埋もれてもはや確認できるのは黒髪だけのアリス。

 なに抱きつくだけでこいつは全力を出しているのだろう。そう呆れた目でフィーを見ると、フィーはあっけらかんと言った。


 「だって、このコ、普通に抱きついたら逃げちゃうもの。コレは本気で抱きついたからできたけど、さっきみたいにやったら逃げられてたわ」


 …は?

 私が信じられない思いでアリス(髪の毛)を見ると、フィーはさらに言う。


 「これまでの弟子とは比べ物にならないくらい、このコは筋がいいわ。アタシとしても鍛えがいがあるわ~」


 嬉しそうに、それはもう恍惚、といった様子でフィーはアリスを抱きしめる。挙句の果てにはその黒髪を撫で始めた。アリスの生存はこちらからは未だ確認できない。


 「…そんなにアリスは凄いのか?」


 まだ信じきれない。

 フィーは今まで数多くの弟子を持っていたが、ここまで手放しに絶賛する者はいなかった。大抵が、ここでお茶請け代わりに愚痴を披露されていた。

 そのフィーが、アリスは凄い、と言う。それがどれほどのことなのか、武人でない私には正確には分からないが、それでも物凄いことは分かる。

 

 お前、実は凄かったんだな、という思いを込めて、アリスと思しき黒髪を見つめる。すると、その視線を察したのか、アリスがどす黒い声色を一切隠さずに私に言った。


 「…おい。そこの傍観者。いい加減さっさと助けろ」

 

 一体主とは何ぞや。

 そう思いつつもアリスに従って、フィーを剥がす作業を黙々と行う私はその時点で何か大事なものを失っているのだろう。…それが何だかは考えないでおこう。


 しばらくして、漸くフィーをアリスから剥がすことに成功した私は、未だこちらを威圧感たっぷりで見下ろすアリスの視線を受けながら、もう一度フィーに確認した。


 「フィー。では、アリスを弟子入りさせて貰えるのか」

 「もっちろんよ!!!」


 即答である。

 この上なく容易に事が纏まったことに、安堵から息を吐いた。もしここでフィーが断ったら、アリスに師匠を付けてやるといった私の身が危なかった。


 そんなことを考えていると、フィーはスッ、と目を細め、今までの道化師のような雰囲気を引っ込めた。瞬時に引き締まった空気に、自然と私の背筋も伸びる。

 そのままフィーはアリスを真っ直ぐに見つめて言う。


 「アリスちゃん。覚悟はある?言っとくけど、アタシの修行は辛いわよ」

 

 その真剣な問いかけに、アリスは臆することなく堂々と答える。


 「ああ」


 それだけ言って、静かに頭を下げる。


 「これから、よろしくお願いします。――師匠」


 もう言うべき言葉はない。そんな様子に、呆気にとられて目を丸くしていたフィーは、突然豪快に笑いだした。


 「あはははははは!ふふっ、っはははははははは!!!」

 「フィ、フィー!?」

 

 不気味とも言える笑い声に、気味が悪くなる。正直言って、これは引く。…いや、もう引いているのだった。

 フィーは暫く笑った後、目尻に溜まった涙を拭きながら、アリスに向き合う。


 「いやあ、おっどろいたわぁ!即答!このアタシが威圧したのに!しかも、ふふっ、ああ、って!ああ、よ!?もっと何かないんかって!あはははは!まあ、思ったよりもアリスちゃんが面白いコで、良かったけどね!ふふふっ、いいわぁ、このコ。面白くて退屈しないわね。誰かさんにそっくり」


 そう言ってちらりと私を見る。む、何だ?


 「…まあいいわ!アリスちゃん、アナタは今日からアタシの弟子よ!これからよろしくね!」


 「よろしくお願いします」とアリスも返し、握手をする二人。なんだか私だけ置いていかれている気がする。


 「ヒマな時にアタシのトコに来なさい。いつでも相手してあげるわ」


 アリスにウィンクしてフィー。…大の男がやっても気持ちが悪いだけなのだが、しかし、フィーがやるとなぜか様になっている。


 帰り際、必死に逃れようとしたが、捕まってしまった私をがっちり抱きしめながら(アリスは避けていた…クソ)、フィーはアリスに言った。


 「あ、そうだ。アリスちゃん、もし相談事があったら、アタシに言いなさいよ。ナルがなんかやらかしたり、ナルがアリスちゃんに八つ当たりしたり、ナルが駄々を捏ねたり、ナルが…」

 「おい!なぜ私のことばっかりなのだ!」


 アリスよ、そこで真剣に頷くでない。

 むすっとしていた私に、いきなり衝撃が来た。

 

 「ぐえっ」

 「もー、いつまでたってもナルは色気がないわねぇ。どうしたもんだか」

 「よ、余計なお世話だっ」


 フィーがぎゅぅ、と私を抱きしめたのだ。油断していた。奴はいつも私の反応を見て楽しんでいるのだった。

 キッ、と精一杯睨みつけると、フィーは「おお怖い怖い」と棒読みで呟いて、やっと私を解放した。さっとアリスの隣に戻る。…いや、元はといえばこいつが私を生贄に…。


 アリスの側が一番安全だが、いや、ある意味一番危険か、と私がうんうん唸っている間に、フィーは「じゃ、またね~」と帰っていった。


 はっ、と我に返った私が見たのは、鬼。



 その後、アリスの説教を受けたのは言うまでもない。

 なぜ怒られたのか、などとは聞いてはならない。余計に怒られる。

 説教までが一連の流れになりつつある事実に、私は遠い目をしたのだった。

 

 

 

フィーは魔術士っぽいんですけどねぇ。魔術士の希少度を考えて泣く泣く剣士に…。ちなみにロドック店の武装メイドさんの服は、フィーの趣味です、はい。

ありがとうございました。

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