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初投稿につき、多々ご都合主義な場面があると思います。

誤字・脱字があればご連絡下さい。

合わなかったらブラウザバック!

 薄暗い夜闇の中、濃紺のマントを深く被った少女は足早に歩いていた。


 夜でも賑やかな歓楽街とは全く異なり、少女のいる薄汚れた伯爵領の一角の貧民窟(スラム街)――通称ゲラウス街では、今日もひっそりと非合法な物品の闇取引が行われていた。

 

 その日は強い雨が降っていたが、道行く怪しい身なりの者や、道の傍らに露店を出す街商たちは、誰ひとり気にした風でない。街路灯もなく、月の光だけが唯一の灯の中、皆一様に少し顔を俯かせて素顔が分からないようにしていた。



 少女は両手に抱いたボロボロの麻袋を大事そうにしながら、帰路を急ぐ。


 この辺り一帯では、ときどき伯爵直属の警邏隊がやって来て、闇商人たちの粛清が行われる。

 また、年に一、二回だが、王都から騎士団が来て、一斉捕縛がされることもある。それに出くわすと非常に厄介なことになるのだ。今までの派遣軍は皆見境なく、その場にいた者たちを殺していった。

 

 国民とはいえ、スラム街の穀潰し。その中でもゲラウス街は特別に有名なので、誰を殺してもその場にいたことが悪い、となる。


 それでなくとも、ここは日常的に犯罪が起こる場所だ。あまり長居して面倒事に巻き込まれても困る。


 


 「そこの旦那、ウィンドゥル羽妖精の目玉はいらんかい?西の候爵領からの輸入でさ。ほら、最近は騎士団(国の狗)どもがうるさいだろう?ちょいと値は張るが質は保証するよ」

 

 またか、と少女はため息をついた。

 これで四度目だ。帰ろうとしている時に限っていつも足止めをされる。


 「……いや、間に合っている」


 少女は歯の隙間から声を絞り出すようにして言う。

 

 それは、少女の殺伐とした雰囲気に似合わない、高くて透き通るような美声。

 いきなり発したせいか、ややかすれ気味のハスキーボイスでもある。外見から少女を男だと思っていた売人の小男は、その声で少女の正体に気がつき、心底驚いた風をした。



 「おっと、これはこれは。魔術士殿でしたか。知らず、とんだご無礼を。…それにしても、こんな時間においでになるとは、お珍しい」

 「…悪かったな」


 少女がやや不貞腐れている気配を感じたのか、小男は少し笑いながら、今売り込もうとしていた血だらけの目玉を一つ渡してくれた。

 もちろん、このウィンドゥル羽妖精の目玉も、狩るのが禁止されているものだ。

 

 「…どうも」

 「いえいえ、魔術士殿ですからね。あ、そうそう、この先の店で、ちょいと面白いことをしていますから、見ていくといいですよ」

 「…へぇ」

  

 四度の足止めで、すでに少女は時間などどうでもよくなり、その後も度々声を掛けられては失礼にも驚かれながら、先程より幾分かゆったりとした歩調で歩を進める。




 少女の名前はオリヴァー。このゲラウス街の有力者である。

 怪我をした者や病に侵された者の治療をしたり、時には汚れ仕事も請け負う、闇魔術士だ。王都の騎士団の光魔術士や、市井の魔術士のような正規の魔術士と違い、国の許しを貰っていないのでそう呼ばれている。

 もちろん見つかったら直ちに奴隷堕ちか、最悪の場合拷問ののちに死刑となる。

 

 通常、闇魔術士とは、デタラメな治療をしたり違法行為をするような、正規の魔術士になるための魔力が足りていない、ぼったくり詐欺師のことを言う。


 しかし、その闇魔術士であるはずの、オリヴァーの腕前は確かだ。本気を出せばエリートの光魔術士にも匹敵するのでは、とはゲラウス街専らの噂である。

 時には闇魔術士らしく汚れ仕事も請け負うが、普段はこの街での”慰者”(いしゃ)の役割をしている。

 彼女の働きぶりを見れば、多少ぼったくり価格でも客足は絶えないだろうが、しかし薬や治療費は相場よりうんと激安であり、この街の貧民でも手が届くようになっている。


 まっとうに職に付いていれば有用な人材間違いなしの、謎の多い変わり者なのである。


 まあ、ここには過去に色々あった、訳ありの者が集まるので、誰も彼女のことを深く詮索しようとはしないが。


 ”魔術士殿”という肩書きは、この街の住人が面白がって付けた、尊敬と呆れの混じった彼女の通り名だった。



 先程も、急患の年老いた男の治療を行い、その対価に道端に生えている薬草を沢山貰ったばかりだ。


 


 そのままオリヴァーが道なりに歩いていくと、前方から見知ったダミ声が聞こえてきた。

 

 「てめぇら!ついに新しい奴隷が入荷したぞ!好みに合ったやつを見つけてやるからこのロドック商店を見ていきな!!」

 「「「おおおおおお」」」


 赤い短髪、意志の強そうな目、がっしりとした体躯。――ロドックだ。

 どうやら先程の小男の言っていた店とは、ロドックのところだったようだ。オリヴァーは、ほとんどの違法な薬草など魔術に必要な物はここで仕入れている。その縁でいつしかロドックとは親しくなっていた。


 店先には檻に入れられた”モノ”がズラリと並んでいる。ざっと二~三十ぐらいか。どの檻の中にもガリガリにやせた人間や亜人が虚ろな目で繋がれていた。

 檻の前にはゲラウス街の中でも多少はマシな見た目をした者や、お忍びなのか裕福そうな格好の者もいる。いづれも、皆久しぶりの入荷に気持ちが昂ぶっているようだ。

 


 奴隷は二十年前に新王が起ってから禁止されたが、いまもこうして闇市で売りさばかれている。

 奴隷となる経路は様々だが、人間では孤児だったところを拾われる者、飢えて自ら奴隷店に保護を求める者、売られてくる者などがいる。亜人などは、この国では前王の時代まで差別の対象であり、新王は差別を禁止しようとしているが、今もなお反対され実現せずにいる。そのため、亜人奴隷は暗黙の了解として黙認されている。

 

 それでなくとも見つけ次第捕えられるか殺されるので、亜人への差別意識の解消はまだ難しいものがあると言える。


 オリヴァーは奴隷反対というわけではないが、積極的に虐げたいわけでもない。どうしても人手が欲しい時は買うが、用が済んだ後は信頼できる者に譲るか、ロドックに払い戻したりしている。

 しかし、奴隷自体が最近は以前に比べてかなり高値で取引されているので、本当にどうしてもの時だけだが。


 大抵は小遣い稼ぎの子供たちか、専門職に頼むことが一般的だと言えよう。



 ちょうどロドックに頼みたい薬草があったので、声をかけることにした。


 「ロドック」

 

 オリヴァーが近づいていくと、売り込みに忙しそうだった大男は、群衆の中でも抜きん出て目立つ巨体を振り向かせてこちらを見た。


 「おっ!ヴァニーニじゃねーか!ちょっと店の中で待ってろよ」

 

 「分かった」と一言だけ告げて、オリヴァーは店の中に入った。

 


 ヴァニーニ、とはオリヴァーの偽名だ。こんな治安の悪い街で本名を晒すのは馬鹿のやることである。おまけにオリヴァーは色々な意味でとても有名なので、余計に注意しなければならない。

 だから名前だけでなく、魔術で見た目も少しいじっていたりもする。


 ちなみにロドックには本名も教えている。

 かれこれ一年くらいの付き合いになるが、オリヴァーを裏切ったりすることもなかった。

 彼女にとってロドックは、数少ない友人の一人である。


 

 

 そんな数少ない友人の店は、ここらでは大店と呼んで相応しいものだ。

 広々とした店内には、ゲラウス街では珍しく汚れ一つ見当たらない。それどころか富豪もあわやというほどの豪華な部屋だった。陳列されている品数は少ないくらいだが、どれも品のある飾りや遊戯道具だ。 

 それはこの店が表向き(・・・)は富豪層御用達の正当な商店だからだ。実際、正当な取引も無いでもないが、このロドック商店を利用する大半の客は()の稼業を依頼してくる。

 

 オリヴァーもロドックの裏稼業を全て知っている訳ではないが、たまに手伝いを頼まれることもあり、その頼みが多岐に渡ることから、いわば「何でも屋」のようなものだろうと当たりを付けている。

 

 時には暗殺など危険な仕事もあるようだが、その分実入りもいい。対人性があり、顔も広く危険を乗り越える能力と胆力のあるロドックだからこそ、成功している商売だ。


 ちなみに奴隷商いは裏稼業の中でも割とライトな方だ。奴隷は貴族でなくともあっという間に売れるので、今のように店前で行うことが多い。

 奴隷が禁止され、闇市で値段が急騰している今、これが一番楽で儲けられる仕事だ、とロドック自身も言っていた。




 ぐるりと店内を見回して、店員兼物品護衛の美少女な武装従業員(奴隷)らに軽く会釈をする。

 

 彼女たちは、とある変態の趣味で、ミニスカのふりふりメイド服を着ている。おまけに猫耳付きだ。最初に見たときは、あの変態を心底軽蔑したが、今ではこれも目の保養かな、と思っている。

 本人には、じわじわと変態に毒されている自覚はまるで無いが。


 武装メイドたちが笑顔で挨拶をしてくれるのを見てから、オリヴァーは店の奥の扉へと進んでいく。この部屋に見合う豪華な扉だ。だがドアノブはなく、その代わりに中央に血のように紅い宝玉が埋め込まれていた。

 

 オリヴァーが何の躊躇いもなく、その紅玉に手を触れると、オリヴァーの身体から一瞬魔力が紅玉に吸い取られる。その後、”是”という声がして、音もなく扉が消えた。


 これは登録した魔力の持ち主しか入れないように組み込まれた高価な宝玉で、普通は貴族の金庫などに用いられている。魔力の波動が一人一人違うことを利用した仕組みで、人物認識などに使用される。



 そんな代物を一介の闇商人が使えるはずもないのだが、やはりロドックは別格なのだろう。


 そんなことを考えながらオリヴァーが部屋に入ると、そこには先客がいた。



ありがとうございました。

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