第四話:心に染みるtender
ドッパァンダダッパァンダダッパァントッタッチッパァンシャァン。
「Hei!竹中」
「なんだい、英語混じりの亘くん」
「君はギターじゃないか。なぜdrumを」
「いやぁ、僕、なんか自信が無くてね。うん。うん」
「よし、弾こうか」
エレキ!!!
「ええ、なんでさぁ?」
「お前はギターだろ。そしてボーカルだろ。普通に常用コードを覚えればいいんだよ」
「その常用コードがわかんねえんだよ」
オレは適当に指を押さえて、ヂァンと弾いた。
「それ、なんのコードだよ…」
「オレコード」
「そんなボクノートみたいなネーミング付けないでさ、ちゃんと弾こうよ」
そう言いながら亘が持ってきたのは…。
「あなたもこれでギターの名人」
「最強ギターコードブック100」
「フィーリングの極意」
「一週間最強ギターレッスン」
「地獄のカリスマギターソロ。自分の指が死ぬまで弾け!」
なんですかこれ?
「どうだ、俺が認める最高のギターブックだ。これでお前もギター名人だ。この本と俺の三代目のギター、fenderだけどいいか?それを貸してやるよ」
指が死ぬまで弾きたくないです。
俺は頭が痛くなったので帰りました。
季節はもう冬だ。今は昼だからそんなに変わらないけど、夜になるとイルミネーションが綺麗なんだよな…。
「彼女が欲しいなぁ…そぅしなきゃクリスマスもバンドだよなぁ」
てか、来年の文化祭がデビューなんだから来年になったらでいいじゃないのか?
やっぱり彼女を作らなきゃ…ドン。
んっ?
俺がギターのハードケースの先を見る。誰かのふくらはぎの筋を強打しているようだ。俺はゆっくりと顔をあげる…。
!!!!!
厳つい兄さんの脚に当たっていた。すごい痛そうだ。
「いってぇ!!マジいてぇ」
「おい、平気か!?」
うわぁ、やべぇ。五人組かよ。
どの奴らも厳つい兄さんで、喧嘩で負けるなんて難しいぞ、このやろぉ。みたいな雰囲気だ。
「おい、坊主。健の脚が折れたらどうするんだよ」
「大事なドラムなんだよ、怪我したら来週のライブ出れねぇじゃねえか」
ドラム、ライブ?
こいつら、バンド組んでるのか…。
「…てかお前、ギター持ってるじゃん」
「何持ってるんだよ」
「あっ、ちょっと…」
これ、借り物なんだよ!!
俺は近くの公園に拉致され、でかいベンチに五人が座り、俺は立ったまま五人を見回す。
俺が借りたfenderは見事に五人組の一人がストラップに肩をかけている。
「てかこのギター、本当にfenderか?フロント・ピックアップも最悪だし塗装もケチってないか?」
「それにfenderのfがtになってねぇか?」
「tenderか!!ワハハハ」
散々バカにされて泣きそうになったが、俺は耐えた。負けて溜まるかと思ったからかもしれない。
「弾いてみるか」
男がポケットからピックを出すと見た事も無いコードを押さえて、ジャアンと弾いた。
その時、俺の心を何かがくすぐった。
ジャンジャカジャンジャカジャカジャカジャカジャンジャカジャンジャカ。
すげぇ上手い。それに心に染みる。これは…。
「エレキハーツ…」
すると、彼の演奏が止まった。
「これ、エレキハーツっていうのか…」
よく見ると、メンバーも固唾を飲んで俺を見ていた。
「いや、これを習得している奴が近くにいて、それで、勝手に名前付けて…」
「いや、ナイスなネーミングだ」
「なっ、エレキハーツか」
「名前無いのは可哀想だしな」
「えっ?」
「これなら、話ははぇえな」
「俺らのバンドはみんなエレキハーツを持ってるんだよ」