表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エレキ!!  作者: 高嶺清麿
2/4

第二話:宝物

 学校をサボって来た所は、ライブハウスだった。

「はぁ、ライブ観るん」

「そだよ、悪い?」

 亘は開き直った。

「なんかうるさいの苦手なんだよ」

「まぁ、聴いてみろって」

 てか、ライブハウスの入り口からもう爆音が聴こえるのですが…。なんか、薬品らしき粉末が落ちてるし…。帰りたい。

 意味があるのかわからないが、防音のための分厚い扉を開け、さらに普通のドアを開けると、もうそこは雑念と騒音の世界だった。



 なんかボーカルは何を言ってるのかわからない上に頭を振っているし。あれ絶対頭痛くなるよ。

 ギターなんかもう二本も弦が切れている。弦だって一生懸命なんだから大切に扱えよ。

 ベースなんか高音か低音かわからない音を奏でている。多分すげえベタベタシールを貼っているからだと思うな。うん。

 ドラムなんか…。あーあ。スティックが半分折れてるよ。

 おまけにすげーうるさいし、なんか胴上げしてるし。誰か受験に合格したのかよ?

 帰りたい。




 

「あの人達、みんな薬物依存症から立ち直ったんだよ」

 えっ。

 だから入り口に薬物らしき粉末が落ちてたのか。

「ボーカルの人から聴いたんだけど。薬物依存から立ち直るのってすげー難しいんだと。頭も痛くなって、息苦しくなって、でも立ち直ってからわかった事があるんだと」

「なんだよ?」

「やりたい事ができるってこんなに幸せだって事」

 やりたい事ができる…。この人達はこんなにこのステージの上に立って、音楽を聞かせたかったのか。

 そう思うと、この人達が幸せそうに見えた。




 

「みんな今日はほんとにありがとう!」

 ボーカルが感謝を伝えると、ファンは叫び声をあげた。すげーうるさかったけど、これさえもあの人達にとっては元気の源なんだな。

 ボーカルからぞろぞろとステージ裏に消えていくのを、観客は拍手で見送った。追う事などない。みんなが、拍手をしていた。




 

 優しさがいっぱいあるなぁ。




 

 俺たちがスタジオから出ると、今さっきまで飛び跳ねて歌っていたボーカルが待ち伏せしていた。

「わたるぅ!!」

 ボーカルが日向の前に一瞬で移動し、コブラツイストを掛けた。

「いるなら連絡ぐらいしろよぉ」

「マサトさん仕事中でしょ?イテテ」

「ライブステージの上では何事もフリーなんだよ」

「そうなんすか」

「ん!誰だ、ボーイ」

 置いてきぼりだった俺をやっと救ってくれたか。

「あの、竹中悠斗ですが」

「ああ、亘が言ってた…。ヘイ、悠斗。君と話したい」

「あ、いいですけど」

 亘は何か知らんけどライブハウスの中に無理矢理入れられた。

 薬物を売られるのか?俺?

「亘の言葉、変だろ?」

「えっ?」

「なんかさ、やってやるかって気分になるんだよ。おかしいかさ?俺?」

「別におかしくはないですよ。俺もあいつの言葉は不思議に思ってるんだよ」

「だよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「またこんな成績を出して…。マサト、お前やる気ってあるのか?」

「…。そんなモン全然ないわ」

 

 

「これやれば頭がようなるんだよ」

「ほんまか?」

 こんな誘惑に騙されなければよかったんだよな…。

 

 

「マサト!!あんたなにやってんの?」

 

 母さんがそう叫んでも、俺はバットで家を壊していく、俺の視界からエイリアンが消える為。

「あんな奴、息子じゃねえ!!」

 そんな事、俺の目の前で言えばいいじゃねえか…。母さんに言う必要ねえじゃねえか。

 俺はドラッグに侵され、居場所を無くした。だけど探す気分も無かった。やる気を全て無くしたのだ。

 青々とした空も、沈黙を破る人々のざわめきや、ジングルベルのオルゴール音が、俺の心を蝕んでいく。そんな気がするんだ。

 俺は親父に『よくやった』と言われたかっただけなのに…。

 俺には居場所なんか無く、そのまま死んでゆくのか。

「居場所なんかたくさんありますよ」

 そんな俺に亘はこう言った。

「何言ってんだ?」

「あなたが座っているここだって、居場所になるんですよ」

「そうなのか?」

「ええ、あなたの心次第で」

「…」

「あなたの心が居場所を無くしてるんですよ」

 なんか勇気が出て、居場所を探すと決意した俺が、目的も無くさまよって入った場所はギターの専門店だった。そこから俺のバンドの道が出来た。




 

「だからあいつの言葉で、俺は宝物を見つける事が出来たんだ」

「マサトさんの宝物って?」

「バンドとギターとメンバーと亘と、そして」

 マサトさんは胸に手を当てこう言った。

「ここだ」

 俺はその時、ピンと来たんだ。学園で呆れられた俺が、輝けるチャンスはステージの上しか無い。俺がステージ上で輝けるのは、バンドじゃねえか…。

「マサトさん」

「ん?」

「俺に、ギターを教えてください」

「何だか知らんぐらい、いきなりな願いだがいいよ」

 俺はマサトさんと共に、ライブ後のスタジオに入った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ