第一話:スタート
よろしくです。
もう、呆れられる人生は嫌なんだ。
エレキ!!
第一話:呆れられたギタリスト
「また暴力事件で警察沙汰か…。お前は一体何やってるんだ!」
某私立の進学校の生徒指導室から、そんな怒鳴り声が響いた。
俺は、そんな偉いおぼっちゃま高にいる竹中悠斗。高校一年生だ。
「まったく、お前みたいな生徒、我が高で生まれて初めてだ」
先公は呆れ顔でそう言った。
「だからなんすか?」
「?」
「学校はそういうもんでしょう。不良が何人かいて、ガリ弁くんもいて、ちょっと静かな問題児もいて、今時の女子高生もいて…。だけどこの学校変すよ。なんか、ガリ弁の割合多すぎ。メガネ屋さんも大助かりじゃないすか」
「だからなんだよ?」
「あっ」
「失礼しました」
俺が生徒指導室から出ると、一気に廊下にいた生徒の注目を浴びた。
『おい見ろよ、竹中、また生徒指導室から出てきたぜ』
『また暴力事件か、暇な奴』
『学校にまたパトカー停まってたしな』
『あいつ、頭はいいんだけどな。中間テスト学年で三位だろ?』
『いい加減退学になれよ』
『なんでこの学校来たんかなぁ』
『でも顔かっこいいよね。それで強い人ってヤバくない?』
『守られたいよねぇ』
どいつもこいつもうるせぇな。
俺はこの学校嫌いなんだよ。
じゃあ何でこの学校に入ったかって?それは簡単さ…。
家が学校の隣だからさ。
なんかダルくないか?わざわざ学校行くために時間なんか掛けたくない。だから俺、めちゃくちゃ勉強して合格出来たんだよ。
まあ、別に辞めてもいいけどな。高校はなんとなく卒業したいじゃん。
あと学校の中に自販機あるし、売店あるし、秋休みあるし、なんか知らんけどハロウィンもあるから、別に楽しいけど。
でも、ガリ弁が多いのはなぁ。
「君が竹中悠斗かい?」
後ろからそう聞こえ、振り返ると、ガリ弁てイメージではない、ほどよくシルバーアッシュで、ピアスを開けているこの学校の生徒がいた。
「誰だ?お前?」
「君が、竹中悠斗かい」
「…だっ」
「君が、竹中悠斗かい」
「そうですが」
「ふむ」
男は満足気な顔で、メモ帳を開いた。
「君は随分といろんな肩書きを持っているね。一学期の中間テストで学年総合三位」
「まあな」
俺は誇らし気に語る。
「一年生の女子が決めました。イケメン男子第一位」
「おう」
「一年生の女子が決めました。抱かれたい男子第一位」
「なぁ」
「バレンタインチョコ総合授与数、254個」
「そうだっけ?」
「告られた回数、428回。その内、216回がメール、149回が電話、46回がラブレター、17回が直接」
「おい、どこから知ったんだ。その情報?」
「中学校時代はバンドに明け暮れていた、○か×か」
「○だよくそやろう」
「ギターだった、○か…」
「まーる」
「…チューナー」
「○」
「ってうまいか」
「…」
「…」
「○」
「で、だから何だよ」
「君は今、呆れられてるね。先生にも生徒にも」
「悪いかよ」
俺はキレ気味で言った。
「別に」
男はそっと呟いた。
「でも君はそれでいいのかなって思って」
「はぁ?自覚してるだけまだマシだろ」
「このまま…呆れられたまま卒業していいの?」
「構わねえよ、どうせ、これまでの関係なんだよ」
「…君ってつまんないね」
「あ?」
「じゃあ」
シルバーアッシュの男はそのまま去っていった。
「なんだよ、あいつ」
俺は帰ろうと昇降口に向かったら、校庭から鳴るバットの打撃音が耳の中に入った。
その瞬間、俺の頭の中で嫌な思い出がフラッシュバックされる。
あの時、あんな事を……。
「……、くだらねぇ」
俺は校舎を出て校門へと向かった。
俺は中学校時代、野球部だった。
守備位置は、この体型では珍しいキャッチャーで、肩がよくて、野球部では期待されていた。
だが、俺が地区予選に出た日…、順調に決勝まで進んでいき、決勝戦になった。
相手は、我がチームのライバル校だったから、負けられない試合だった。
そして最終回、ツーアウト満塁。得点は相手が六で、俺らは七。ここでアウトを取れば、俺らが勝ち、県大会へ駒を進める事が出来る。
一投目。ピッチャーは本気で投げていた。キャッチャーミットがスパンと鳴く。
ピッチャー史上最速だった。152。相手側は何も言えずに黙っていた。
勝てる。チームの誰もがそう感じていた。
二投目。またキャッチャーミットが鳴く。俺は勝ったらピッチャーに抱きつく気だった。
三投目。キャッチャーミットが、鳴らない。空を見上げると、俺の目の前でボールが浮いている。
「捕れ!!」
監督の怒鳴り声が俺の耳に届く。
これを捕れば、チームの勝ち。俺は、右足を踏み、キャッチャーミットを前方に導く。ミットに入れ。俺が祈ると、ボールはミットをかすり、バッターボックスの前で小刻みに動く。
「エラーしたぞ!!走れ!!」
バッターはファーストへ全力疾走している。俺はボールを掴み投げたら、ボールはファーストを通り越し、ライトへ。暴投だ。ライトがボールを捕りに行ってる間に二人程ホームへ帰り、気付けばもう一人もホームへ。そして、バッターもホームに帰った。
俺の暴投が生んだ敗退だった。
あれから、俺は部の奴らから文句を言われ続け、クラスメートや教師にも呆れられ、気付けば、俺の周りには誰もいなかった。
あれから、人生だの希望だの訳分からんものを全て捨て、ただ目の前にいる敵を殴ればいい。そう思う事にした。
呆れられるのはもう怖くない。
だけど、怖いんだ。おかしいだろ。
「おかしいね、うん」
シルバーアッシュの男はフルーツジュース(紙パック)を飲みながら言う。
「てめー、いついたんだよ!?てか人の心を読めるのかよ!!」
「うん。辛かったね」
あの事件の事も分かるのかよ。こいつすごいな。
「やっぱり呆れられるのは怖いでしょ」
「…怖いけど慣れたってゆーか。よくわからんよ」
「…君は、なんで呆れられてるか知ってる?」
「あいつらにとって俺の行動が信じられないからだろ」
俺はずっと思っていた事を言った。
「違うよ」
男は否定した。
「毎回毎回同じ事をしているからだよ」
「…」
「なんで新しい事をしないかって不思議に思っているんだよ」
だったらまた野球をやれって言うのか?
つまらないけど。
くだらねぇけど。
俺はこんな事しかできないんだよ。
でもそれで呆れられるのかよ。
俺はどうすれば。
「後ろを見なければいいんだよ」
俺は我に返り、男を見る。
「前を見れば、道なんて何本も別れている。たった一歩踏むだけでも、人生は変わる」
「…」
「ただ…俺が言いたいのは…」
「スタートから諦めるんじゃねえ」
「なら、俺に出来る事はあるのか」
「…ある。俺の名前は日向亘。俺についてきな」
俺は、一旦彼の背中を見て歩く事を決めた。