クリスマスにラーメン
粉雪がハラハラと舞い散る中。
私・加賀山と斗真先生は、屋台でラーメンをすすっておりました。
身の引き締まるような寒さの中食べるラーメンはなぜこんなにおいしいのでしょうか。
ずるずると麺をすすりながら幸福に浸っておりますと、横で食べる斗真先生が卵をつかみ損ねてボチャ、と落ちる音がしました。
「あちっ」
「……大丈夫ですか」
もぐもぐしながら尋ねると、斗真先生がははっと笑いました。お酒を飲んだ後なので、頬が赤く染まっています。
「だーいじょうぶ!よし、これ食べおわったらもういっけんいこーう!」
「……なんでですか、ものの順番がおかしいでしょう。お送りしますから、帰りますよ」
「えーーやだーー」
「…………………………」
いつもならここで斗真先生のスマホを鳴らせば、病院からの呼び出しだと勘違いして酔いが醒めるのですが、人様の前でそれをするのは憚られました。(斗真先生は医師だということを隠しはしませんが、ことさら強調する方でもありませんので)
酔っ払いの扱いに困り、ふぅとため息をついた私に斗真先生がおっしゃいました。
「がっちゃん、付き合ってくれてありがとね。ひとり寂しいクリスマス回避できたわー」
「……あれだけきゃーきゃー言われていたのに??」
確か先生は朝から患者さんにクリスマスプレゼントを配り、夜10時くらいまで働いた後残業だった私を引っ張ってお姉様方のお店に行き(そこでもプレゼントを配り)楽しく飲んだ後、今ラーメン中という流れのはずですが。
どこに「寂しい」の要素があるのか全くわかりません。
斗真先生の認識と私の認識はだいぶ違うようです。
「ははっ。みんな喜んでくれてよかった〜。準備した甲斐があるってもんよ」
「ずいぶんお使いになったんじゃないですか?」
手で¥マークを作ってみせると、先生がますます笑みを深めました。
「独身の医師なんて貯まっていくだけだから。たまには誰かのために使わないと」
「羨ましい話です」
「あはは」
「……まだ恋人はお作りにならないのですか?」
踏み込んだ質問に斗真先生の動きがぴたっと止まりました。
好きな女性を先輩医師と取り合い敗北した斗真先生。
傷はまだまだ癒えていなかったようで、正直驚きました。
ちゃらちゃらした見た目に反して、中身はかなり一途な方だったようです。
あ、やばい。泣くかな。
そう思ったそのとき、先生がふるふると小刻みに震え、その綺麗な瞳から涙が一筋すうっと溢れました。
美形ゆえ、映画のワンシーンのようです。
「……失礼いたしました、禁句でしたね
言い終わらぬ内に、先生が口を開きました。
「がっちゃん」
「はい」
その声音に、あぁ今日は飲み明かすことになるなと確信しました。
「三次会はがっちゃんちに決定ね。……よっしゃ、語り合うぞー!!おっちゃん、ご馳走様でした!!」
スープまできれいに飲み干し、斗真先生が勢いよく立ち上がりました。
すでに食べ終えていた私も立ち上がり、店主へ会釈し屋台を後にしました。
冬のきれいな星空を眺めながら、大の男2人、肩を並べて歩きます。
「そーだがっちゃん、材料は用意するから、明日の朝味噌汁お願いね。あれうまいんだよな〜」
どうしましょう、泊まる気満々です。
けれどもう慣れっこになっていて、先生のアメニティやら着替えやら、なんなら寝袋まで完備している自分の部屋に少し眩暈がしました。
いつのまにこんなに仲良くなったのでしょうか。
「……お母さんですか、私……」
呟きに、先生がにこっと笑いました。
「ていうか彼女?もう俺たち運命共同体じゃん!」
「…………………………」
男性が好きという私の恋愛特性をご存知の先生。
「からかわないでください」と返しました。
「悪趣味ですよ」
「え〜〜傷つくーー」
そう言って笑う斗真先生。優しい笑顔にこちらまで気持ちがほぐれます。
……この方とは、ずっとよい友人でいたい。
あまり人付き合いの得意でない私ですが、心の底からそう思いました。
夜空を見上げると、いくつかの星が瞬いていました。




