1-6: 酒場に差す小さな光と、迫りくる調査の足音
翌朝。
ダンジョンの入口付近で、ユートは腕を組んで唸っていた。
(……DPは順調に増えてきたけどさ)
スマホの《Dungeon Creator》を開けば、
昨日のホーンボア討伐でそこそこDPは貯まっている。
しかし。
「現金が、一銭もねぇ!」
声が洞窟に虚しく響いた。
足元では、三匹のスライムが心配そうにぷるぷるしている。
慎重派の ぷに が不安そうに揺れ、
元気印の ころ は「元気出せ!」と言わんばかりに跳ね、
のんびり系 もち はユートの脚にとろりとくっつく。
「癒し効果は抜群だけど……腹は膨れないんだよお前ら……」
ユートは頭を抱えた。
(ミリアにも食べさせてもらってるばかりだしな……
そろそろ、ちゃんと“客として”飯を食べたい……!)
そう願ったちょうどそのとき――
「おーい、誰かいるのか?」
ダンジョン入口から声がして、ユートはびくりと肩を跳ねさせた。
(き、来た……! 冒険者!?)
入口に立っていたのは、革鎧に短剣を携えた
どう見ても“場慣れした実力者”な冒険者だった。
「お前……その格好、冒険者にしては軽装過ぎねぇか?」
「え、あ、あぁ、その……!」
(ヤバい! スライム三匹連れてるのも不自然だし!
住んでますなんて言ったら完全に怪しいし!)
脳がフル回転する。
そして――とっさに、最も自然な設定が口を突いた。
「じ、実は俺……テイマーの見習いなんだ!
こいつら、スライム三匹が初めての仲間でさ!」
冒険者は眉を上げる。
「おお……テイマーか。最初の相棒がスライムってのは定番だな」
(よし! しっくり来てる! 自然だこれ!)
「で、今日はこのダンジョンを初めて見に来たんだよ!」
「初挑戦か。装備が軽いのも納得だな」
(助かった……!!)
冒険者の視線がスライム三匹に向く。
「……ん? お前、それホーンボアの牙持ってないか?」
「え? あ、あぁ……これ?」
三匹のスライムが牙にぺたっとくっついていた。
(お前ら、いつの間に!?)
「その素材、売れるぞ。
この村には“素材屋カナト”がある。牙はそこそこの値で買い取ってもらえる」
「売れるのか……!?」
「スライムたちに運ばせてるってのも、初心者テイマーらしくていいな」
(……この世界、テイマー便利すぎでは!?)
冒険者は軽く手を振った。
「初心者は無理すんなよ。
じゃ、ギルドに報告してくる!」
そう言って去っていった。
スライム三匹が、ぷるん、と揃って揺れる。
ぷに → “行こう”と言いたげ
ころ → “今すぐ行こう!”と跳ね回る
もち → 足にくっつきながらズリズリ前進
「よし……素材屋、行くか!」
三匹は嬉しそうに揺れた。
(せっかくなら素材をもっと増やしてから売りたいし……
ホーンボア狩りを安定させたいよな)
ユートは《罠》メニューを開いた。
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[新・罠コンボ]
餌 → 引き寄せ → 音誘導 → 落とし穴(深) → クッション → 非致死針山(鈍針)
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「よし、完璧だ!」
スライム三匹はそれぞれ違う反応をする。
ぷに → 慎重に罠周りをチェック
ころ → ギリギリの縁を跳ねて遊ぶ(危険)
もち → 穴の縁で座る(もっと危険)
「おいころ! もちも!
穴の近くに座らないの!!」
(俺のダンジョン、ペットの世話で難易度上がってない?)
地面が揺れた。
ドスッ ドスッ ドスッ――!
「来た……!」
外部カメラに映ったのは、立派な牙のホーンボア。
餌→音→落とし穴
すべてが自然に誘導する。
ドォォォン!!
ホーンボアは迷いなく落ち、
鈍い針とクッションに受け止められ、やがて沈黙した。
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《ログ》
ホーンボア死亡 → DP+14
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「よっっっしゃ!!」
三匹の反応:
ぷに → 安堵
ころ → “勝利!”と跳ねる
もち → その場で寝る(緊張に弱い)
「よし、こいつを売って……飯だ!」
牙と皮を《回収》し、
スライム三匹に割り振る。
ぷに → 牙を慎重に吸着
ころ → 皮をブンブン振る(振るな)
もち → 肉を持ちつつユートにべったり
「もち……それ持ったまま抱きつくと落ちる……!」
三匹を連れて村へ向かった。
(初心者テイマーがスライム連れて歩いてる……
なんか“異世界生活してる感”すげぇ……!)
カナトは、こじんまりとした素材屋だった。
「いらっしゃい、あんちゃん――ってお前」
「素材買い取ってもらえます?」
スライム三匹が素材を“ぺたっ”とカウンターに貼った。
「おお……ホーンボアの牙と皮か!
初心者にしては上物じゃねぇか!」
「ほんとですか!」
「牙3つ、皮3枚……銅貨12枚だ!」
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【銅貨12枚】
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「……すげぇ……! 本当に金が手に入った……!」
(ミリアの店で……“客として飯が食える!”)
三匹も誇らしげ。
ぷに → 胸を張ってぷにぷに
ころ → 跳ねまくる
もち → カウンターの上で寝る(寝るな)
ローデ亭に戻ると、ミリアが笑顔で迎えた。
「ユートさん! 今日も来てくれたんですね!」
「今日は……客として来た」
ユートは銅貨を差し出す。
「自分で……稼いだんだ」
ミリアの目が丸くなり、
すぐに柔らかく細められた。
「すごい……! 本当に……よかったですね!」
(――尊い……)
出されたスープは“普通”の味なのに、
今日だけは胸に染みた。
(自分が稼いだ金で食べる飯……やばい……感動する……)
「ユートさん……今日、いい顔してます」
「そうか?」
「はい。前より……ちょっとだけ頼もしい、かも」
(……え、これもう彼氏では??)
ユートは一瞬本気で勘違いしかけた。
ダンジョンへ戻り、DPを確認すると――
【DP:83】
「よし……階層、増やすか!」
階層追加:2→6階層
ゴゴゴゴゴ……!!
三匹は大騒ぎ。
ぷに → しがみつく
ころ → 揺れで遊ぶ
もち → 揺れながら寝る(強い)
「……まあ全員無事ならいいか」
黒パーカー「ほら見ろ、順調だろ。初心者テイマー悪はくない」
白パンツ「生活を整え、仲間を持ち、守りたい対象を自覚し始めた」
新しい通路を見下ろし、ユートは拳を握った。
「よし……ここから本番だな」
(ミリアにも……安心して暮らしてもらえるように――
いや、別に困ってるとは言ってなかったけど……
むしろ俺が勝手に彼氏ムーブしてるだけでは?)
一瞬現実に戻るが――
「……ま、いっか!
男ってのは守りたい存在ができたら動くもんだし!」
三匹のスライムが揃ってぷるんと揺れた。
ぷに →(また始まった)
ころ →(主人の勘違いすごい!)
もち →(眠い)
「お前ら、その目やめろ!」
ユートは苦笑しながら宣言した。
「明日から“防衛階層”つくるぞ。
……ミリアの。えーっと……知り合いの為に!」
三匹はぷるん、と生温かく揺れた。
「その……呆れた感じやめて!!」
こうしてユートは、
初心者テイマー兼ダンジョンマスターとして
新たな一歩を踏み出した。




