2-15: アステッド到着
四日目の朝、馬車は最後の丘を越えた。
それまで続いていた林道が途切れ、視界が一気に開ける。
ユートは、思わず息を呑んだ。
遠く、朝の光を受けて――
巨大な城壁と、その内側に広がる街並みが姿を現した。
「……あれが……」
ガイルが静かに言う。
「アステッドだ。
この国最大の都市で、冒険者ギルド本部がある」
石造りの高い外壁。
見張り塔。
城門へ続く広い街道には、すでに人と馬車の列ができている。
行商人、旅人、冒険者。
武器を背負う者、魔導具を抱える者。
人の数も、空気の密度も、フェルミナ村とはまるで違った。
(……世界が、違う)
ユートは無意識に拳を握る。
ここはもう、
「ダンジョンの片隅でひっそり生きる場所」ではない。
選ばれなければ、埋もれる。
守れなければ、奪われる。
そんな場所だ。
城門が近づくにつれ、検問の列がはっきり見えてくる。
兵士たちの視線は鋭く、動きに無駄がない。
「緊張するか?」
ドランが、少しだけ笑って聞いた。
「……はい」
正直な答えだった。
リナが横目でユートを見る。
「でも、顔は逃げ腰じゃないわね」
「逃げる理由が……なくなったので」
ユートは、そう答えた。
約束がある。
果たさなければならない約束が。
ガイルは、それ以上何も言わなかった。
ただ、ユートの立ち姿を一度だけ確認するように見て、
小さく頷いた。
城門をくぐる。
瞬間――音が変わった。
蹄の音。
人の声。
金属が触れ合う音。
すべてが重なり、流れ、
「都市の鼓動」として耳に飛び込んでくる。
通りの両脇には石造りの建物が立ち並び、
露店、武器屋、魔導具店、酒場の看板が目に入る。
「……すご……」
思わず漏れた声に、サスケが小声で言った。
「主、ここは人の気配が多すぎでござるな」
「殿、視線も多い。
不用意に動けば、目立ちます」
コジロウの言葉に、ユートは小さく頷く。
「ありがとう。
二人とも、今日は控えめで」
「承知!」
「心得ました」
彼らは“外でも一緒に動ける仲間”だ。
その事実が、ここに来て改めて胸に響く。
馬車が停車する。
「ここまでだ」
御者の声。
ガイル隊も荷を下ろす。
「ここからは別行動になるな」
ドランが伸びをしながら言った。
ユートは、一瞬だけ迷ってから、深く頭を下げた。
「……ありがとうございました。
ここまで一緒に来ていただいて」
リナが微笑む。
「こちらこそ。
退屈しない旅だったわ」
ドランは豪快に笑う。
「またどっかで会うだろ」
そして、ガイル。
彼はユートの前に立ち、静かに言った。
「――約束を果たしに来たんだろう」
「はい」
「なら、まずは足場を作れ。
焦るな。だが、立ち止まるな」
それだけ言うと、背を向けた。
だが――一歩、歩き出したところで、足を止める。
「……ユート」
呼ばれて、ユートは顔を上げる。
「明日、時間が空いているなら――
ギルド本部に来い」
胸の奥で、何かが確かに形になる。
「……はい!」
強く、はっきりと答えた。
ガイル隊の背中を見送りながら、ユートは街を見回す。
ここが、アステッド。
世界の中心に近い場所。
(……ここからだ)
約束を果たすために。
強くなるために。
守れる自分になるために。
物語は――
次の段階へと、確実に踏み出していた。




