表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンチーター!〜転生社畜の勘違い最強ライフ〜  作者: 北風
第1部 ダンジョン実験編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/45

1-3: 新たな“穴”の出現と、村を包む不気味な噂

 ローデ村の灯りが遠ざかるほど、

酒場《ローデ亭》での出来事が胸に刺さってきた。


(……弱っ。俺……)


 ミリアを守ろうと格好つけたのに、

結局、ゴロツキに一撃で沈められた。


 拳を握れば、あの痛みがまだ残っている。


(何が「来るなら来い」だよ……。

 マジで恥ずかしい……)


 酒場の笑い声、ミリアの心配そうな声――

全部が交じり合って、頭の中でぐるぐる回る。


 でも。


(……助けようとしたことだけは、悪くなかったよな)


 ミリアが「ありがとう」と言ってくれたとき、

胸がほんの少しだけ温かくなったことを、ユートは忘れていなかった。


 丘を越えると、暗闇の中に洞窟の入口が口を開ける。


 ここが、今のユートの唯一の居場所だった。



 洞窟に落ちてきた初日のことを、ユートは思い出していた。


「……ここどこだよ……」


 スマホは圏外。

 人はいない。

 助けは来ない。


 ブラック企業のオフィスで

“いてもいなくても変わらない”扱いだった自分。


(誰にも気づかれないまま死んでも……おかしくないよな)


 そう思った瞬間だった。


ぷにっ。


 足に小さな感触が触れる。


「……え?」


 暗闇の中で光る、透明なゼリー。


 もう一度、ぷにっ。


 さらに、横から二匹目、後ろから三匹目が現れ、

ユートの足元に寄り添うように揃う。


「……なんだ、お前ら……?」


 恐怖で身構えたが、

スライムたちは警戒も敵意もなく、ただ“そこにいた”。


 そして、まるで挨拶するように――

ぷに、とユートの靴を軽くつついた。


「……懐いてる……のか?」


 そのときユートは気づいた。


 会社では誰も寄り添ってくれなかったのに、

見知らぬこの世界で初めて触れた生命体が、

こんなにも無害で、優しい存在だったことに。


(……ありがとう。

 俺に近づいてくれて)


 その日の夜、

ユートはスライムに救われたような気がした。



 だから今、洞窟に戻ってスライムが寄ってきたとき――


 ユートは自然と微笑んでいた。


「お前ら……ただいま」


 スライムたちは嬉しそうにぷるぷる震え、

足元にまとわりつく。


 ぷに、ぷに、ぷに。


「よしよし、元気だったか?」


 指先でつつくと、

スライムは楽しそうに形を変えて揺れる。


(……やっぱり、こいつらをDPのために殺すなんて無理だな)


 この瞬間、

ユートの“殺さないダンジョン方針”が確立した。



 ユートはスマホを取り出し、

《Dungeon Creator》アプリを開く。



---


【ダンジョン情報】


名称:未設定

規模:極小

階層数:2

危険度:低〜なし


ダンジョンポイント(DP):42


設置要素:

・天然洞窟(第一階層・第二階層)

・スライム×3


※DPは、ダンジョン内で死亡した生物、

 または持ち込まれた不要物の処理により増加します。



---


(ここが……俺のダンジョン)


 現状はただの洞穴に毛が生えた程度だ。


(でも……誰も死なない、安全なダンジョンにしたいんだよな)


 その意志は、スライムたちとの出会いが強くしてくれた。



---


 《編集モード》をタップすると、

洞窟がミニチュアのジオラマのように表示される。


 指でなぞると、岩壁が削れたり、

通路が広がったりする。


(……相変わらずすげぇな、これ)


 メニューには罠、地形、モンスターの選択肢が並ぶ。


《罠》

・簡易落とし穴(浅):8DP

・滑る床:5DP

・転倒罠:3DP


《モンスター》

・スライム増設:5DP

・コウモリ群:8DP


(……殺傷力高いのは、なし)


 落とし穴の項目を開くと、説明文が目に入った。


「クッション素材や水を張れば、ダメージ軽減……?」


 ユートは思案する。


(落とし穴の先に水溜りと、軽い恐怖演出だけ置けば……

 それだけでも“ダンジョンっぽい”雰囲気は出るな)


 殺さない罠。

 怪我させない罠。


(……よし。この方針で行こう)



「まずは形からだな」


 ユートは第一階層の入口近くをタップし、

《小部屋の拡張》を選ぶ。


 ゴゴゴゴ……!


 洞窟が震え、

そこに小さめの部屋が生まれた。


「おお……! 本当に増築できてる……!」


 DPが42→32に減る。


(……ゲームみたいで面白いな)


 だが――


「このままだと、DPがどんどん減るだけだろ……」


 すぐに現実的な問題に気づく。



 ユートは画面の注釈を再び見る。


※持ち込まれた不要物の処理でDPが増加します。


(……試してみるか)


 洞窟の外へ出て、

石や折れ枝を拾い、手に抱えて中へ戻る。


 《ログ》画面を確認する。


《外部物質:小石×3 処理》

 → DP+1


「うお、ほんとに増えた!」


 枯れ枝でも、壊れた木の皮でも、

少しずつだがDPが増えていく。


「よし……人を殺さないでDP稼げるんなら、それで十分だ」


 そして同時に思った。


(……ミリアのとこに、また行きたいしな)


 心に浮かんだ少女の姿に、

ユートは軽く頭をかいた。



---


「お、DP稼ぎを工夫し始めたねぇ」


 黒パーカーの男が笑う。


「最初に選んだ“方向性”が、彼らしい」

白パンツの男が頷く。


「殺さないダンジョン……普通なら不利だろ」


「だからこそ面白い、と言っただろう?」


 二人は盤面を眺めながら、

なにかを企んでいるような表情を浮かべていた。



---


 増築した小部屋を見ながら、ユートは呟いた。


「……ここを、まずは拠点にするか」


 殺さない罠のテスト、

モンスターの配置研究、

通路づくりの練習。


 やることは山ほどある。


 でも――不思議なやる気が湧いていた。


(誰も死なせないダンジョン……。

 俺にできるかどうか分からないけど)


 ふとミリアの顔が浮かぶ。


(少なくとも、前よりマシな俺にはなりたい)


 ユートはスマホを握りしめた。


「よし……ダンジョンチーター、今日から本格始動だ」


 その声は、洞窟の奥へと静かに響いていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ