2-14:焚き火で語られる「忘れられない依頼」
焚き火が、静かに音を立てていた。
乾いた薪が弾け、橙の火が夜の森を照らす。
ガイルは火を見つめたまま、ぽつりと言った。
「……昔な。
忘れられない依頼があった」
ユートは黙って耳を傾ける。
「ただのゴブリン討伐だ。
国中どこにでもある、ありふれた依頼だった」
だが、と前置きして、ガイルは続けた。
「森の奥に入った途端、雰囲気が違った。
獣がいない。音がない。
“何かいる”って、肌で分かる場所だった」
リナが小さく頷く。
「普通のゴブリンじゃなかったわ。
体格も、動きも、連携も……
資料に載ってるものとは別物だった」
「前から来て、横から来て、後ろからも来る。
魔術も矢も混じってな」
ドランが低く笑う。
「正直、あの時は――死んだと思った」
焚き火がぱちりと鳴る。
「逃げられなかった。
押し切る力もなかった。
……完全に詰んでた」
ガイルは、そこで一拍置いた。
「その時だ。
森の奥から、変なのが出てきた」
「変なの?」とユート。
「場違いなほど落ち着いた男だ。
武器も構えず、詠唱もせず……
第一声がな」
ガイルは、苦笑して再現した。
「――『飯はあるか?』だ」
ユートは思わず瞬きをする。
「……それで?」
「渡した」
ドランが即答した。
「生き残れるなら、何でもよかったからな」
リナは焚き火を見つめながら続ける。
「その人は……
本当に“指を少し動かしただけ”だったわ」
「光も出ない。
詠唱も、術式も、魔力の奔流もない」
「なのに、ゴブリンたちは――
気づいたら倒れていた」
ガイルが静かに締める。
「説明できない魔術だった。
だが、確実に“魔術”だった」
「あとで聞いたら、そいつは言った」
ガイルは、はっきり覚えている言葉を口にする。
「――『プログラムだ』ってな」
リナが小さく息を吸う。
「その言葉だけは、ずっと引っかかってる。
意味は分からないのに、
“分からないと切り捨てられない”感じがして」
焚き火が揺れ、火の粉が夜に舞った。
「だから俺たちは――
“普通のゴブリン”とか、
“よくある依頼”って言葉を、信用しない」
ガイルはそう言って、火から目を離した。
ユートは、胸の奥で静かに思う。
(……プログラム)
(それ、俺の世界の言葉だ)
焚き火の向こうで、炎が揺れる。
その夜、
誰もそれ以上は語らなかったが――
ユートだけは、確信していた。
この話は、
ただの昔話では終わらない、と。




