2-12: 馬車の揺れの中で
ゴブリン討伐のあと、馬車は再び動き出した。
緊張が抜けたせいか、車内には少しだけ軽い空気が戻ってくる。
ユートは、剣を鞘に収めながら深く息を吐いた。
「……ふう」
その様子を、ガイルが横目で見ていた。
「さっきの戦いだが――」
静かな声。
「お前、一人じゃなかったな」
ユートは一瞬だけ言葉に詰まり、それから素直に頷いた。
「……はい」
荷台の影から、ぷるん、と柔らかい音がした。
次の瞬間――
小さな半透明の塊が、ぴょこんと顔を出す。
ぷに「……ぽよ?」
続いて、ころ。
ころ「だいじょうぶ〜?」
最後に、少し遅れてもち。
もち「……むにゃ……」
一斉に揺れる、三匹のスライム。
馬車の空気が、固まった。
「…………」
ドランが、ゆっくり瞬きをする。
「……スライム?」
リナが、驚きよりも観察する目で見つめた。
「三体も……しかも、魔力反応が安定してる……」
ユートは慌てて説明する。
「えっと……この子たち、俺の仲間です。
ぷに、ころ、もち」
名前を呼ばれると、三匹は誇らしげに揺れた。
ぷに(なまえ!) ころ(よばれた!) もち(……すぅ……)
ドランが、思わず笑う。
「はは……随分、懐いてるじゃねぇか」
「はい。ずっと一緒なので」
ガイルは、少し考えるように視線を落とし――
そして、別の二人に目を向けた。
「……で、あっちの二人は?」
馬車の外側、警戒を続けていた影が動く。
黒い毛並みの小柄な影が、軽やかに膝をついた。
サスケ「主の従者、猿飛サスケでござる。
護衛を任されておる忍びにて候」
その所作に、ドランが目を見開く。
「……忍び?」
続いて、もう一人。
青みがかった毛並みの、やや大柄な影が一歩前に出て、深く頭を下げた。
コジロウ「殿の剣として仕える者、コジロウ。
未熟ながら、護りの役を仰せつかっております」
礼儀正しすぎるほどの動き。
リナは、完全に魔力を見る目になっていた。
「……知性型コボルト。
しかも、完全な個体差……」
ガイルは、静かに息を吐く。
「……なるほどな」
ユートは少しだけ肩をすくめた。
「外では、俺一人じゃ弱いので。
だから……一緒に戦ってもらってます」
言い訳でも、誇張でもない。
ただの事実だった。
ドランが、顎を掻く。
「そりゃあ……
さっきの動きも、納得だな」
リナは、ユートを見る。
「あなた、仲間を“使って”ない。
ちゃんと、“一緒に動いてる”」
その言葉に、ユートは少し驚いた顔をした。
「……そう、ですか?」
ガイルは、短く頷く。
「ああ。
だから――」
そこで、言葉を切った。
「いや。
この話は、もう少し先にしよう」
馬車が揺れる。
仲間たちは、それぞれの位置に戻っていった。
ぷに、ころ、もちは、再び荷袋の中へ。
ぷに(いっしょ!) ころ(たび!) もち(……ねる……)
サスケとコジロウは、何も言わず、外の警戒に戻る。
ユートは、胸の奥で小さく息を吐いた。
(……ちゃんと、見てくれてる人もいるんだな)
それだけで、少しだけ――
この長い旅路が、心強く感じられた。




