2-11: 横に避けて、切る
乗合馬車が二つ目の村を出て、街道に戻ってから半日ほど経ったころだった。
馬が、不自然にいなないた。
御者が手綱を引き、馬車を止める。
「……おかしいな」
道の先。 低木の影が、不自然に揺れている。
次の瞬間――
「ギャギャッ!」
甲高い叫びとともに、緑色の影が飛び出した。
「ゴブリンだ!」
御者が叫ぶ。
数は――十体以上。
しかも、街道を挟むように左右から現れた。
「……囲い込みか」
ガイルが即座に判断する。
「ドラン、前! リナ、後衛制圧!」
「任せろ!」
「了解」
馬車の外へ飛び出す三人。
その動きは迷いがなかった。
(……速い)
ユートは、馬車の中から一瞬で状況を理解する彼らに、息を呑む。
だが――
(この数…… 馬車を狙ってる……!)
ゴブリンの視線は、明らかに荷と人に向いていた。
逃げ場はない。
(……出るしかない)
ユートは、そっと地面に降りた。
サスケとコジロウが、無言で左右に立つ。
「主、参戦でござるな」
「殿、後ろはお任せを」
ユートは小さく頷いた。
「……俺は前に出ない。 “起点”だけ見る」
光秀に教わった言葉が、頭の中に蘇る。
――相手が動く前の、最初の“兆し”を見ろ。
最初に飛び込んできたゴブリン。
棍棒を振り上げる、その肩の動き。
(そこだ)
ユートは半歩、横にずれる。
風を切る音が、頬をかすめた。
そして――
切る。
真正面からではない。 横から、逃げ道を塞ぐように。
ゴブリンの腕が、力なく落ちた。
「ギャッ!?」
そのまま体勢を崩した首元に、もう一度。
倒れる。
「……っ!」
自分でも驚くほど、動きに迷いがなかった。
(できる……!)
次。
別のゴブリンが飛び込む。
同じように、避ける、いなす、切る。
それだけを繰り返す。
派手な動きはない。 ただ、相手の動きを“消す”。
横では、ドランが大盾で群れを押さえ込んでいた。
「ははっ! いい動きしてるじゃねぇか!」
後方では、リナの魔術が正確に数を減らしていく。
「無駄がない……あれ、独学じゃないわね」
最後の一体が逃げ出そうとした瞬間。
サスケが影のように回り込み、足を払う。
「主、今でござる!」
ユートは、深く踏み込み――
切った。
静寂。
ゴブリンの死体が、街道に転がる。
息が、荒い。
だが、手は震えていなかった。
「……終わったな」
ガイルが剣を収める。
ユートを、じっと見る。
「……兄ちゃん」
その声は、先ほどまでとは少し違っていた。
「今の動き…… どこで覚えた?」
ユートは、正直に答えた。
「……昨日、森で。 教わっただけです」
リナが目を細める。
「一日で、あれを“使える”ようになる人は少ないわ」
ドランが笑う。
「足手まといどころか、十分戦力だろ」
ユートは、少しだけ視線を落とした。
「……まだ、足りません。 外では、まだ弱い」
ガイルは、しばらく考えるように黙り――
そして、言った。
「……アステッドに着いたら、話そう」
“ただの同行者”から“仲間として見られ始めていた”。




