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ダンジョンチーター!〜転生社畜の勘違い最強ライフ〜  作者: 北風
第2部 修行と旅立ち

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2-8: 白と森の狭間 ――兄弟子と弟弟子



「……君は、師匠の後輩なんだよね?」


森の中、少し湿った風が吹く。


ノックスがそう切り出すと、ユートは一瞬だけ考えてから、ああ、と頷いた。


「うん。そうなるね」


「ってことはさ……」


ノックスは、少しだけ言いづらそうに続ける。


「一番弟子、ってことになるよね?」


「……まあ、結果的には」


ユートは苦笑した。


ノックスは、どこか照れくさそうに笑う。


「じゃあ、僕は二番弟子だ」


「急に決めたな」


「でも、順番的にはそうでしょ?」


ユートは肩をすくめた。


「異論はないよ」


ノックスは、少しだけ真面目な顔になる。


「……兄弟子に、教えてほしいことがあるんだ」


「うん?」


「僕、いつ消えるか分からないからさ」


冗談めかした言い方だったが、目は本気だった。


「ここで得た知識を持ち帰れるか、確証がない。  もしかしたら――」


ユートは、頷きながら言った。


「片側通信、かもしれないね」


「……片側通信?」


「無線機みたいなものだよ」


ノックスは首を傾げる。


「どういう?」


「向こうからは送れるけど、こちらには残らない。  逆に、こちらの情報は、向こうに残らない」


ユートは、地面の小枝を踏みながら続けた。


「つまり――  君がここで聞いた話を、全部忘れて戻る可能性もあるってこと」


「……なるほど」


ノックスは一瞬だけ黙り込む。


落ち込んだように視線を落とし、

しばらくしてから、ふっと息を吐いた。


「……まあ、それならそれで」


そう言ってから、顔を上げる。


「でも、せっかく兄弟子に会えたんだ。  一つ、聞かせてほしい」


ユートは、少しだけ姿勢を正した。


「いいよ」


ノックスは、真剣な声で言った。


「もし――  身体が動かなくなったとして」


ユートの眉が、わずかに動く。


「魔力は使える。  思考も生きている。  その状態で、身体を動かすには、どうしたらいいと思う?」


「……難しい質問だね」


ユートは、正直にそう答えた。


「でも、いくつか解決策はある」


ノックスは、思わず前のめりになる。


「まず一つ目」


ユートは指を一本立てる。


「神経を再形成して、脳と接続し直す」


「……できる?」


「おそらく、一番“現実的”だけど――」


ユートは首を振った。


「見える範囲から動きを確認しながら、  見えない体内の神経を再構築する必要がある」


「……無理そうだね」


「うん。僕が医者でも、たぶん無理」


ノックスは苦笑した。


「二つ目」


ユートは二本目の指を立てる。


「体の表面に、魔力の通り道を作る。  外側から“見える形”で、順に接続していく」


「……刻印速術式の、逆バージョンみたいな?」


「刻印速術式が何かはわからないけど…おそらくお互いのイメージは同じだと思う。」


ユートは頷く。


「ただし、既存の魔術がなければ、  ほぼ実験になる」


「……大変そう」


「人の手も必要だし、時間もかかる」


ノックスは、腕を組んだ。


「三つ目は?」


ユートは、少しだけ間を置いてから言った。


「身体の外側に、別の身体を用意する」


「……?」


「要するにね」


ユートは、あっさり言う。


「ゴーレムを作って、それを“着る”」


「……あ」


ノックスの目が、見開かれる。


「なるほど!」


「君の身体が動かなくても、  ゴーレムが動けばいい」


ユートは続ける。


「君は魔術発動と制御だけに集中する。  身体操作は、全部外注」


「……それなら」


ノックスの声が、少し弾んだ。


「魔力さえ生きていれば、可能性がある」


「うん。ただし」


ユートは苦笑する。


「ゴーレムを作るところまでは、  やっぱり人の手を借りないと無理だね」


「それでも……」


ノックスは、はっきり言った。


「一番“速度理論”と相性がいい」


ユートは、少し驚いた顔をした。


「どういうことか分かったの!?」


「だって」


ノックスは笑う。


「身体を捨てて、処理順序だけ残す。  それ、もう半分“外部式”じゃないか」


ユートは、思わず吹き出した。


「……確かに」


ノックスは、心から感心したように言った。


「ユートはすごいね」


「急にどうした」


「やっぱり兄弟子だ」


「その呼び方、定着させる気?」


ノックスは、少し照れたように頭をかいた。


「じゃあさ……」


そして、柔らかく言う。


「僕のこと、ラピダスって呼ぶと長いから」


ユートを見る。


「ラースって呼んでくれない?」


ユートは一瞬考えてから、にやっと笑った。


「了解、ラース」


その呼び方に、ノックス――ラースは、

少しだけ胸が温かくなるのを感じた。


「……ラース?」


 名を呼んだ声は、森の湿った空気に溶けた。


 ノックス――いや、ラースの輪郭が、ふっと揺らぐ。

まるで水面に落ちた影が、波紋と一緒にほどけていくように。


「え……?」


 ラース自身も、少し驚いたように自分の手を見る。


「……あ、時間、なのか?」


 指先から透明になり始め、腕、肩、胸へと色が抜けていく。


ユート「ちょ、待て! ラース!」


 思わず一歩踏み出すが、距離は縮まらない。

ラースは慌てたように、でもどこか申し訳なさそうに笑った。


「ごめん……兄弟子。

 やっぱり、長くはいられなかったみたいだ」


ユート「来いって言っただろ!

 ローデ亭、案内するって……!」


 その言葉に、ラースの目が少しだけ見開かれる。


 消えかけの口元が、やわらかく緩んだ。


「行きたかったな……

 料理、うまいんだろ?」


ユート「当たり前だ。」


 ラースは、くすっと笑う。


「……じゃあさ」


 声が、遠くなる。


「必ず、また会いに行くよ。

 だから――」


 透明な指が、かろうじてユートを指した。


「兄弟子も、必ず……

 僕のところに、来て」


 次の瞬間。


 風が吹き抜け、

そこにはもう、誰もいなかった。


「…………」


 しばらく、ユートは動けなかった。


 夢だったのか。

幻だったのか。

それとも――確かに、あった出来事なのか。


 ただ一つ確かなのは、胸の奥に残る温度だった。


「……行くしか、ないよな」


 ユートは、ゆっくりと息を吐く。


「放ってはおけない。」


 足元で、スライムたちが揺れる。


ぷに(いく?)

ころ(いくんだね)

もち(……ついてく……)


 少し離れた場所で、サスケとコジロウが静かに控えていた。


サスケ「主、どうされまする?」

コジロウ「殿。進むべき道が、見えたご様子」


 ユートは頷いた。


「王都に行く。

 アストラム魔導学院だ」


 知らない場所。

知らない未来。

けれど、行かなければならない理由が、確かにあった。


「ラースが待ってるかもしれないし……

 待ってなくても、探しに行く」


 仲間たちを見回す。


「行こう。

 俺たちで」


 こうして――

ユートと仲間たちは、

王都アストラム魔導学院を目指して歩き出した。


 それが、

次の運命と交差する旅の、始まりだった。


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