2-6: 横に避け、切る
朝の森は、静かだった。
鳥の声と、葉の擦れる音だけが響いている。
ユートは真剣を手に、深く息を吸った。
「……じゃあ、お願いします」
そう言うと、コジロウが一歩前へ出る。
「殿。まずは見本をご覧ください」
腰を落とし、呼吸を整え――
一閃。
ズン、と音を立てて木が倒れた。
太さは人の胴ほどもある丸太だ。
だが切断面は、信じられないほど滑らかだった。
「……すご……」
思わず声が漏れる。
次にサスケが跳ねるように前へ出た。
「では拙者、細くいたすでござる!」
サスケの刃は速かった。
倒れた丸太を、無駄のない動きで次々と裂いていく。
ザッ、ザッ、ザッ。
音だけが残り、気づけば――
細長い材木が、地面に整然と並んでいた。
「五メートルほどでござるな、主!」
「……いや、ほんとに忍者じゃん……」
ユートは真剣を持ち直す。
自分でも切れるはずだ。
そう思って、真正面から振り下ろした。
――ギンッ。
「っ……!?」
刃は弾かれ、腕に痺れが走る。
「……切れない」
コジロウが静かに首を振った。
「殿。力ではござらぬ。
“当てにいく”のではなく、“通す”のです」
サスケが補足する。
「主、正面は相手の一番強いところでござるよ」
サスケは一本の細長い材木を突き出した。
「これが来たら――」
ユートは反射的に身を横へずらす。
「そう! 横に避けるでござる!」
ユートは、避けた瞬間に刃を振った。
――スパッ。
細長い材木が、綺麗に二つに分かれた。
「……切れた」
胸が、どくんと鳴る。
「もう一度でござる!」
突き出される材木。
横に避ける。
切る。
また一本。
さらに一本。
呼吸が荒くなる。
腕が痛む。
それでも、続けた。
気づけば――
五メートルの材木が、三十本ほど並んでいた。
ユートは膝に手をついて、肩で息をする。
「……はぁ……はぁ……」
コジロウが頷いた。
「殿。
“斬る”とは、こうして生き延びるための技でございます」
サスケも笑う。
「主、だいぶ様になってきたでござるよ!」
ユートは、地面に並ぶ材木を見渡した。
(これ……ベッドの材料になるな……)
だが、今は作らない。
今日は、切るだけだ。
ふと、思う。
(……修行して、
食べて、
眠る場所を整えて……)
生きるって、こういうことなんだ。
ユートは真剣を鞘に納め、空を見上げた。
「……衣・食・住。
全部、ちゃんと揃えないとな」
サスケとコジロウは、何も言わずに頷いた。
森の中で、
静かに、確実に――
ユートの生活は、形を持ちはじめていた。




