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ダンジョンチーター!〜転生社畜の勘違い最強ライフ〜  作者: 北風
第2部 修行と旅立ち

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29/45

フェルミナ村の朝、森の縁で

 朝の仕込みを終え、ローデ亭の裏口で息をついたときだった。


(今日は……少し静かね)


 いつもなら聞こえてくる森の鳥の声に、

別の音が混じっていることに、ミリアは気づいた。


――コンッ

――カッ


(……木を打つ音?)


 耳を澄ませると、一定の間隔で乾いた音が響いている。

何かを振り、何かを受け止める――そんな規則正しい音。


 気になって、ミリアはエプロンの端を握りながら、

そっと森の方へ足を向けた。



---


 木立の影から、見えた光景に――

ミリアは思わず、息を止めた。


(……え?)


 そこにいたのは、ユートだった。


 粗末な服装はいつもと変わらない。

でも、手にしているのは――木刀。


 その前と横に、見慣れない影が二つ。


 一匹は小柄で、影のように素早く動くコボルト。

もう一匹は堂々と立ち、構えに一切の無駄がないコボルト。


「――殿、視線が上がっております」 「主、今の踏み込み、少し遅うござる!」


(……しゃ、喋ってる……!?)


 ミリアは目を丸くした。


 ユートは汗だくになりながら、必死に木刀を構えている。


「っ……もう一回、お願いします!」


 その声に、弱さはあった。

けれど――逃げ腰ではなかった。



---


 木刀が振られる。


 コボルトの一匹――青毛の方が、

最小限の動きでそれを受け、軽く弾いた。


「殿。力ではございませぬ。  “起点”を断てば、相手は動けませぬ」


「起点……」


 ユートは真剣な顔で、何度も頷く。


 もう一匹――黒毛の小柄な方が、

くるりと背後へ回り込んだ。


「主、今でござる!  相手の足元、見てくだされ!」


「え、あ――」


 ユートは慌てて体勢を立て直し、

転びそうになりながらも、踏ん張った。


「……っ、くそ……!」


 転びそうになっても、やめない。

息が上がっても、膝が震えても――立ち続ける。


(……あの人……)


 ミリアの胸が、きゅっと締めつけられた。



---


(前は……)


 思い出すのは、

お金がないと言いながら、それでも丁寧に頭を下げてきた姿。


 無理に強がらず、

でも諦めもしない、不器用な人。


(……今は、違う)


 強くはない。

でも――逃げない。


 守ろうとしている。


 誰かに頼らずに、

“自分で立とう”としている。



---


「はぁ……はぁ……」


 ユートは木刀を下ろし、膝に手をついた。


「……まだまだですね」


「殿、初日でこれほど立てるのは上々でございます」 「主、今日はここまででよろしいかと!」


 コボルトたちが、

まるで“家族”のように寄り添っている。


(……ユートさん……)


 声をかけたい衝動を、ミリアは必死で抑えた。


 今、声をかけたら――

この時間を壊してしまう気がしたから。



---


 ミリアは、そっと踵を返す。


 ローデ亭へ戻る途中、胸の奥が温かくなっていた。


(……大丈夫)


(あの人は……きっと)


 鍋に火をかけながら、

ミリアは小さく微笑んだ。


「……今日は、ホーンボアのシチューを多めに仕込もう」


 理由は、自分でもよく分からない。


 ただ――

頑張っている誰かに、

ちゃんと“帰る場所”があってほしかった。


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