2-5: 初めての外での護衛訓練
朝の森は静かだった。
ダンジョンの入口から少し離れた、獣道が交差する小さな開けた場所。
ユートは深く息を吸い、吐いた。
「……よし。
今日は“外で動く練習”だ。命がけじゃないけど、油断もしない」
その左右に、一歩後ろに控える影が二つ。
サスケ「主、周囲の気配は問題なしでござる。
鳥の声、風の流れ、異常なし!」
軽やかな声。
サスケはすでに木の根元や茂みをちらちらと確認している。
コジロウ「殿。
まずは歩幅と視線を一定に。
“守られる者”が落ち着いていなければ、護衛は機能いたしません」
低く落ち着いた声。
コジロウはユートの半歩右後ろ、剣を抜かずともすぐ動ける位置に立っていた。
ユート「……なるほど。
俺がフラフラしてたら、二人も動きづらいってことか」
コジロウ「その通りでございます」
ユートは意識して背筋を伸ばし、一歩ずつ踏み出す。
(外だ……
ダンジョンと違って、アプリは使えない。
ミスったら――終わりだ)
その時だった。
サスケが、すっと片手を上げた。
サスケ「主。
左前方、茂み。……小型、二足歩行。
ホーンボアではござらぬ。――ゴブリン未満の小獣でござる」
ユート「えっ、もう分かるのか?」
サスケ「気配が“軽い”でござるよ。
殿――」
コジロウ「承知」
コジロウは一歩前に出るが、剣は抜かない。
コジロウ「殿、指示を」
ユートの喉が鳴る。
(俺が……指示?)
一瞬、頭が真っ白になる。
だが、必死に考えた。
「……サスケ、位置を変えず監視。
コジロウ、俺の前に立ってくれ。
――戦わない。追い払うだけだ」
二匹が、即座に動いた。
サスケ「御意!」
サスケは音もなく木の影に溶ける。
コジロウ「殿の盾となりましょう」
小獣が姿を現す。
こちらをうかがい、唸り声を上げるが――
コジロウが一歩踏み出した瞬間、
その“圧”に怯んだ。
コジロウ「――去れ」
低い一言。
小獣は尻尾を巻き、森の奥へ逃げていった。
静寂が戻る。
ユート「……はぁ……」
思わず膝に手をつく。
サスケ「主、初陣としては上出来でござるよ!」
ユート「初陣って……戦ってないけど」
コジロウ「“戦わずに終わらせた”。
それこそ、護衛の理想でございます」
その言葉に、ユートははっとした。
(そうか……
俺は“倒す”ことばかり考えてた)
(でも、守るって……
危険を遠ざけることなんだ)
胸の奥が、じんわり熱くなる。
ユート「……二人とも。ありがとう」
サスケはにっと笑い、
サスケ「主の判断があったからでござる!」
コジロウは静かに頷いた。
コジロウ「殿が命じれば、我らは応えます。
それが護衛であり、家臣でございます」
ユートは、拳を握った。
(ダンジョンの外でも――
少しずつ、前に進める)
森の中、三人と三匹の影が、ゆっくりと歩き出す。
それはまだ小さな一歩だったが――
確かな“成長の始まり”だった。




