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ダンジョンチーター!〜転生社畜の勘違い最強ライフ〜  作者: 北風
第2部 修行と旅立ち

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2-2: 光秀の剣術講義

 森の中の小さな空き地に、

削ったばかりの木刀と、少しだけ本気の空気が漂っていた。


 ユートは汗ばむ手で木刀を握りしめる。


(ミリアを守りたいって言ったんだ。

 ……だったら、ちゃんと強くならないと)


 目の前には、同じく木刀を構えた少年――安田光秀。


 ぱっと見は普通の高校生くらいにしか見えないのに、

さっきホーンボアを一瞬で沈めた動きは、

ユートの常識から完全に外れていた。


 光秀は木刀を肩に乗せ、軽く笑う。


「じゃ、始めましょうか、ユートさん」


「お、おう……よろしくお願いします、先生」


「先生ってほど大したもんじゃないですけどね。

 とりあえず――構えから」


 光秀がすっと木刀を正面に下ろした。

足を肩幅に開き、左足を後ろ。

正面から見ると、全身に無駄な力がまるでない。


「まず、“自分の一番動きやすい立ち方”を探してください。

 剣って、“どっちの方が筋肉が強いか”じゃなくて、

 どっちが先に、楽に、正確に動けるかで勝ちます」


「……動きやすい、立ち方……?」


 ユートはぎこちなく足を開く。

右に重心が寄ったり、余計に腰を落としすぎたりして、自分でも不安定だとわかる。


 光秀はそこにすっと近づき、ユートの足首を指で軽くつついた。


「右足、外に流れすぎです。

 そうすると――」


 光秀は軽くユートの肩を押す。


「うわっ!?」


「こうやって、ちょっと押されただけで崩れる。

 立ち方が弱いと、攻撃する前に負けるんです」


「う……たしかに」


「じゃあ、調整しましょう。

 右足を半歩内側、左足をちょっとだけ後ろ。

 膝は完全には伸ばさないで、“少し曲がってる程度”。

 棒立ちと屈伸の中間くらい、ですね」


 言われたとおりに直していくと――


(さっきより、ふらつかない……?)


「そうそう。

 今、自分で“さっきよりマシだな”って感じました?」


「お、おう。なんか……立ってるだけなのに違う」


「それが“基礎”です。

 基礎ができてないと、全部崩れます」


 光秀が一歩下がり、ユートの正面に立つ。


「次は、“どこを見るか”の話です」


「相手の……目?」


「よく言われますけど、目だけだと騙されます。

 人って、視線フェイントもできるんで」


「え、視線フェイント……あ、なんか格闘ゲームとかであるやつ?」


「そうです。

 だから、“起点”を見てください」


「起点?」


「相手が動き始める場所です。

 剣の場合は――」


 光秀はゆっくりと構え直し、

ユートの視線を自分の肩と腰のあたりに誘導するように指さした。


「① 肩のライン

 ② 腰の向き

 ③ 足の踏み込み」


「この三つのどこかが“先に動きます”。

 完全に同時には動きません。

 だから、まずはそこを見る癖をつけてください」


「肩、腰、足……」


「もう一つ。

 **相手の剣の“根元”**を見るのもアリです」


 光秀は自分の木刀の“鍔元”あたりを指で示す。


「剣の先っぽじゃなくて、

 根本を見てると、上下左右の振れが読みやすくなります。

 “どこから来るか”を見る場所ですね」


「どこを見るか……そんなこと、考えたことなかった……」


「ユートさん、さっきホーンボアにやられた時、

 どこ見てました?」


「え。……突っ込んでくる頭?」


「ですね。

 ああいうのは、肩か腰を見ると、

 “どっち側に避ければいいか”がちょっとマシになります」


「……マジか……」


(今まで全部“なんとなく”で見てた……)


「じゃあ、次。

 “どう打つか”の話をします」


 光秀は木刀をゆっくりと振り上げた。

速く振るのではなく、軌道がわかるような見本。


「剣道だと“面・小手・胴”って言うんですけど、

 ここではもうちょっと分解して言いますね」


「お、おう」


「一番単純なのは、“上からまっすぐ叩く打ち”。

 でも、それを“ただ振る”んじゃなくて、

 **“相手の動きの起点を止める一打”**として使うイメージを持ってください」


「起点を……止める?」


「たとえば、相手が踏み込もうとしてる瞬間。

 足とか、腰とか、肩に“力を溜めようとしている時”。

 その瞬間に、そいつのバランスが崩れる場所を叩くんです」


 光秀はユートの右肩上あたりを、空気のまま軽く指す。


「肩が上がった瞬間なら、肩のラインを上から叩く。

 腰をひねろうとしてるなら、逆側の肩か腕。

 足を大きく出そうとしているなら、

 その一歩目を出す前に、自分から踏み込む」


「そ、それって……」


「“先に動く”ってことです。

 でも闇雲じゃなくて、“起点が動いた瞬間に”」


(起点を見て……先に動く……)


 ユートの頭の中で、さっきのホーンボア戦が再生される。


 突進の前、あの魔物も

肩と腰にグッと力をためていた気がする。


「じゃあ――軽くやってみましょう」


 光秀が一歩前に立つ。


「今から、ゆっくり打ち込みます。

 ユートさんは、“肩・腰・足”のどこが先に動いたか見て、

 “とにかく何でもいいから”先に打ち返そうとしてみてください」


「で、できるかな……」


「できなくて当然です。

 最初は“見ようとすること”が大事なので」


「りょ、了解」


 光秀がスッと構えた。


 さっきまでの砕けた雰囲気が一瞬で消え、

視線だけが鋭くなる。


(うわ、空気が変わった……)


「いきますよ」


 光秀の右足が、ほんのわずかに沈んだ。


(……今、足、沈んだ――!?)


 ユートは慌てて木刀を前に出す。

同時に、光秀の肩が少しだけ上がり、木刀が振り下ろされる。


カンッ!!


「……っ!」


 がっつり弾き飛ばされるほどではなかったが、

ユートの木刀は押し負けて肩まで叩かれた。


「いっ……たぁ……」


「今、“見ようとした”のは良かったです。

 でも、足が動いたのに、打とうとしたのはかなり後ですね」


「そ、そんなすぐ動けねぇって……」


「そこで、“楽な構え”が効いてきます。

 さっき立ち方を変えたのは、

 **“すぐに一歩出せるようにするため”**でもあるんです」


 光秀がユートの膝を軽く叩く。


「膝を固めると、足が出るのが遅くなります。

 だから、膝は常に“次に動く準備”だけしておく」


「次に動く準備……」


「もう一回いきます。

 今度は、“足が沈んだ瞬間に”前に出るつもりで」


「わ、わかった」


 再び構える。

膝に無駄な力を入れないよう意識しながら、

ユートは光秀の下半身をじっと見つめた。


「いきます――」


 光秀の右足が、またわずかに沈む。


(今だ!!)


 ユートは考えるより先に、一歩踏み込んで木刀を振り上げた。


カンッ!!


 さっきより、衝撃が軽い。


 光秀の木刀が上からかぶさってきたが、

今度は肩を叩かれる前に、ぎりぎりで押し返せた。


「っ、おお!?」


「――今のは、さっきよりだいぶマシです」


 光秀が嬉しそうに笑う。


「“見て”→“判断して”→“動こうとした”じゃなくて、

 **“見えた瞬間に体が動いた”**感じ、ありましたよね?」


「たしかに……頭で考える前に足が出た……」


「それが“慣れ”の第一歩です。

 これを何百回、何千回ってやって、

 ようやく“実戦の入口”に立てるぐらいですね」


「入口……それでもまだ入り口……」


「はい。

 でも、今まで何も知らずに突っ込んでたのに比べたら――

 もう、ぜんっぜん違いますよ?」


 光秀は少しだけ真剣な目をした。


「ユートさん。

 “相手の起点を見る癖”は、剣だけじゃなくて、

 人生全部に使えます」


「じ、人生?」


「相手が怒る前の仕草。

 何かを隠そうとする瞬間の目線。

 攻撃しようとする奴の間合いの詰め方。

 全部、“起点”があります」


「…………」


「だから、“よく見る”練習は、

 ミリアさんを守る時にも、絶対役に立ちます」


 その名前が出た瞬間、

ユートの胸の奥がずきりと痛んだ。


(……あのとき、もっとちゃんと見れてたら、

 俺、あんな情けないやられ方しなくてすんだのかな……)


 光秀は、ユートの表情の変化に気づいたが、

それ以上は何も聞かなかった。


「というわけで――もう少し続けましょう。

 次は、**“相手の起点を潰す打ち方”**の練習です」


「潰す……?」


「さっきまでは“同時にぶつかる”でした。

 今度は、“相手が動きたいところに先に置いておく”」


「な、なにそれ……難しそう……」


「難しいです。

 でも、できれば――ホーンボアの突進くらいなら、

 “正面から叩き折れる”ようになりますよ」


「……やる。

 それ、できるようになりてぇ」


 ユートは木刀を握り直した。


 森の中に、木がきしむ音と、

木刀と木刀がぶつかり合う乾いた音が響き始める。


 その一打一打が、

“ダンジョンの外で生き残る方法”へと、少しずつ繋がっていった。


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