「二つの影」
ダンジョンから少し離れた丘の上。
夕日が森の影を長く伸ばし、その闇に二つの影が静かに溶け込んでいた。
ひとりは黒いパーカーのフードを深く被った男。
もうひとりは、白いパンツだけやたら清潔な男。
奇妙な取り合わせだが、
ふたりとも周囲の視線を気にする素振りすら見せない。
白パンツ「……見たろ? さっきの調査隊。
あれだけの規模のゴーレムを突破しやがった」
黒パーカーはわずかに目を細め、ダンジョンの方向を眺めた。
黒パーカー「悪くない動きだった。
人間としては、上位に入るだろう」
白パンツ「“人間としては”ね。
言い方がいちいち腹立つんだよな」
黒パーカー「事実を言っているだけだ」
白パンツは肩を竦める。
白パンツ「にしても、あの演出は完全に召喚だと思われてたな。
ゴーレムも穴も光も、全部だ」
黒パーカー「……ユートが考えたにしては、出来過ぎだな」
声は淡々としていたが、その奥にわずかな楽しみが混じっていた。
白パンツ「誘導したわけじゃねーよな?」
黒パーカー「していない。
あれは、彼自身の判断だ。
成り行きの産物にしては……悪くない仕上がりだ」
白パンツ「おまえ、本当に気に入ってんな。ユートのこと」
黒パーカー「興味深いだけだ。
――無自覚な選択ほど、予測しづらいものはない」
白パンツ「にしても、連中も気づいたぜ。
あのダンジョンには“コアがない”って」
黒パーカー「疑似核で誤魔化せるのは、あの層の観察力までだろう」
白パンツ「面倒になるんじゃないのか? 深く掘り下げられると」
黒パーカー「面倒ではない。
むしろ“流れ”が変わる方が、観測する価値がある」
白パンツ「お前さぁ……ほんと、そういうところが性格悪い」
黒パーカー「褒め言葉として受け取っておく」
白パンツ「じゃ、今回の勝負は引き分けか?」
黒パーカー「そうだな。
お前の側の調査隊も、生き残った。
こちら側の駒も、無傷だ」
白パンツ「まだまだ決着は先か」
黒パーカー「……急ぐ理由はない」
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白パンツは大きく伸びをした。
白パンツ「さて、帰るか。
この後の流れ、誰がどう動くか楽しみだな」
黒パーカー「同感だ。
次に動く者によって、盤面は大きく変わる」
白パンツ「また、あの人間に期待してるわけ?」
黒パーカー「どうだろうな。
いずれ分かるさ」
ふたりは揺らめくように輪郭を薄め、
そのまま静かに森の闇へと消えていった。
世界はまだ気づいていない。
すでに“変化”が始まっていることを。




