1-15: 静かな朝、知らぬ間に迫る足音
森の朝は驚くほど澄んでいた。
しっとりとした空気の中、木の葉が風に揺れ、
ひとすじの光が地面に落ちる。
ユート「……今日もいい朝だなぁ」
足元ではスライム三匹が
ぽよん、ぽよん、と跳ねていた。
ぷに「おはよ〜」
ころ「ごはんー」
もち「……まだむり……」
ユート「今日こそ、ミリアの店で朝ご飯食べたいけど……
お金、残ってるかな?」
ポケットから銀貨を取り出す。
じゃら……じゃら……
ユート「……少なっ。ギリギリって感じか?」
ぷに(だいじょうぶ!)
ころ(むり!)
もち(ねむい……)
ユート「お前らの意見は毎回割れるよな……」
とはいえ、ユートは笑っていた。
このスライムたちといる時間が、
いつの間にか心の支えになっていたからだ。
村へ向かう小道に差し掛かったそのとき。
ガサガサッ……!
ユート「ひっ!? な、何!?」
茂みから飛び出してきたのは、
短い角を持つ小型魔物。
《キィィッ!!》
ユート「や、やばっ……!
これって初心者が普通にやられるやつじゃん……!」
本能的に後ずさる。
スライム三匹が前に跳び出した。
ぷに「ぽよ!」
ころ「ぽよよっ!」
もち「……(ぼてっ)」
ユート「ちょ、無理すんな!危な――」
その瞬間だった。
ホーンラビットが跳びかかる。
ぷにが進路をずらし、
ころが角を弾き、
もちが寝ぼけたまま転がって足元を取る。
《キュゥッ……!?》
ラビットは体勢を崩して、
木の幹へ激突――そのまま気絶した。
ユート「……勝った……!? 本当に!?」
スライム三匹「ぽよ〜〜ん!!」
ユート「みんな……すごいじゃん!
いや、これは俺の指揮がよかった……とか?」
ぷに(ちがう)
ころ(たまたま)
もち(ねむい)
ユート「え、違うの……?」
ホーンラビットの角と皮を拾い、
村へ着いたユートは素材屋へ向かった。
古びた木造の店――《カナト素材店》。
外観こそ質素だが、村で唯一の素材専門店だ。
ユート「こんにちはー! 素材の買い取りお願いできますか?」
カウンターの奥で、店主カナトが顔を上げた。
カナト「……ホーンラビットか。
この村じゃ珍しいな」
ユート「運が良かったんですよ! みんなのおかげで!」
ぷに「ぽよっ」
ころ「えっへん」
もち「……すぅ……」
カナトは素材に目を落とし、黙って鑑定する。
カナト「……角の状態は悪くない。
皮も傷が少ない。
銀貨三枚で買い取る」
ユート「銀貨三枚……! ありがとうございます!」
カナト「……無茶するなよ。
ホーンラビットは、初心者が死ぬ魔物だ」
ユート「はは……なんとか……ね」
苦笑いしたが、
ユートの実力ではなくスライムたちのおかげだったのは言うまでもない。
素材屋を出ると、村の空気はどこか張りつめていた。
「追加調査隊が来るらしい」
「本部が動くなんて……何があるんだ……?」
「森のダンジョン、危険度が上がっているって話だ」
ユート「……今日、なんか雰囲気ピリついてるなぁ」
ぷに(ぴとっ)
ころ(こわい〜)
もち(ねむ……)
ユート「大丈夫だよ、みんな。
俺たちは飯食べて元気出そう!」
三匹を連れて、ミリアの店へ。
扉を開いた瞬間、ミリアは驚いたように目を見開いた。
ミリア「――ユートさん!」
ユート「おはよう! 今日はちゃんとお金あるよ!」
ミリア「よかった……森に行ったって聞いて……
危険な魔物が増えてるって噂だから……」
ユート「ホーンラビット倒したし、平気!」
ミリア「……え?」
彼女は完全に固まった。
ミリア(ホーンラビットって……初心者が……
本当に……?)
ユート「ほら、こいつらが頑張ってくれたんだよ」
三匹が誇らしげに跳ねた。
ミリア「……ふふっ。
では、席をご案内しますね。
今日も安いメニューでいいですか?」
ユート「もちろん!」
ミリアの笑顔には、驚きと安堵、
そして少しだけ、心配が滲んでいた。
ユートが温かなスープを飲んでいる頃。
村の外れでは、旅の二人組がゆっくりと歩いていた。
「ここが例の村か」
「本部からの命令だ。
明日、状況の確認に入るぞ」
追加調査隊――
迷宮の異常を調べるために派遣された、選ばれた者たちだ。
ユート「うまっ! ミリアの店って最高だなぁ」
ミリア(……明日も、無事でいてくれますように……)
明日、この村に嵐が吹き荒れるとは、
ユートは夢にも思っていなかった。




